8 バレンタインデー
お題「チョコレート」
僕は小学校三年生。実は最近までサンタクロースを信じていた。だって朝枕元にプレゼントが置かれてるんだもん。サンタクロースはいるって信じててもおかしくないよね。
こんな僕でも知ってることがある。それは二月にバレンタインデーがあるということだ。バレンタインデーとは、女子から好きな男子にチョコレートを贈るというイベントだ。しかし僕はもらったことはない。暗い訳じゃないけど、クラスで特に目立つ存在でもないし、女子は人気者の男子にチョコレートを渡していた。
でも、やっぱり気になる。ギリチョコとかいうものもあるみたいだけど、それももらったことはない。僕って女子に嫌われてるのかな……。
そして今年もバレンタインデーがやって来た。でも女子は人気者の男子にチョコレートを渡している。今年ももらえないんだろうな。僕は帰りに少しドキドキして下駄箱を開けた。もしかしたら……と思ったからだ。でも何も入っていない。やっぱりか……。僕はそのまま家に帰った。
僕が家に帰ると、お母さんが夕ごはんを作っていた。
「ただいま」
「おかえりなさい。守。手を洗って、ランドセルを置いてきなさい」
「はーい」
僕は自分の部屋へ行くと、ランドセルを置いてからまたキッチンへ行った。
「あ、今日ハンバーグだ!」
「ふふ、守とお父さんの好きなものよね」
「どうして?」
「今日はバレンタインデーでしょ。あ、守は女の子からもらったの?」
「……もらってない」
「ご、ごめんね。でもハンバーグだから!」
そんなに気を遣わなくても僕は気にしないもんね。
「ただいま」
「おかえりなさい、あなた」
「お!今日はハンバーグか!」
「あなたも好きでしょ」
「大好きだよ」
「あなた、会社の女の子からチョコレートもらったでしょ」
「ああ、義理チョコだよ」
「どうだか」
「それよりメシにしよう!」
夕ごはんのハンバーグはおいしかった。やっぱりハンバーグは最高だな。
「あなた、この袋の中身全部がチョコレート?」
「ああ、まあ……」
「お父さん、もてるんだね!」
「いや、守。これは義理チョコと言ってだなあ……」
「見てもいい?」
「ああ、いいぞ。守のおやつに食べるといいよ」
「やったぁ!お父さん、ありがとう!」
僕は袋の中身をごそごそと出してみた。いち、にい、さん……十二個!?僕のお父さんはモテモテだ。あ、これ可愛い。これを食べてみようかな。
僕は可愛い包装紙のチョコレートを開け始めた。一口サイズのチョコレートだ。そしてひとつ食べる。変わった味だなあ。もうひとつ食べてみよう。あれれ、なんだか頭がくらくらする。
「おほーはん、これっれ……」
「守、どうした?あ、それは日本酒入りのチョコレートじゃないか!守!しっかりしろ」
お父さんの声が遠くから聞こえた。次に僕が目を覚ましたのは次の日の朝だった。すると、枕元に何かある。チョコレートのようだ。お父さんのチョコレートを置いたのかな?僕はとりあえずチョコレートを持ってリビングへ行った。
「おはよう」
「おはよう、守。もう平気か?」
「うん。大丈夫だよ」
「おはよう、守。枕元見た?」
「お母さん、お父さんのチョコレートを僕の枕元に置かないでよ」
「ふふふ、それは守あてよ」
「僕、もらってないよ」
「昨日の夜にね、うちまで来てくれたのよ。カードがついてるでしょう?」
僕はカードの存在に気づいて、慌てて自分の部屋へ駆け込んだ。カードを開けてみると、隣のクラスの女子だった。
『この前はありがとう』
この前?あ!この子の頭に虫が乗っていたのを取ってあげたからだ!これが義理チョコってやつか……。僕の人生初のバレンタインデーは義理チョコだった。