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5-2 宝物

お題「鍵」

 僕の家から小学校までの間の通学路には、古びた洋館がある。人は住んでいないようで、ここら辺の子供達からは「お化け屋敷」と呼ばれていた。

 僕は通学路だから仕方なくその家の前を通るけど、本当は怖い。いつも足早に通りすぎている。今日もいつも通り急ぎ足で歩いていたら、洋館の前の草むらが光った気がした。僕は怖いの半分、好奇心半分で、草むらを覗いた。するとそこには鍵が落ちていた。少し古びた鍵。


 何の鍵だろう?


 僕はそれを手に取り色々な角度から見たが、古いだけで、何の変鉄もない鍵だ。そのとき僕ははっとした。今が小学校への通学途中であることに。僕は鍵をポケットに入れると小学校へ急いだ。


「おはよう、すすむ。今日は遅いな」

「ああ、おはよう。太一たいち信二しんじ

「寝坊?」

「違うよ。例の洋館の前で鍵を拾ったんだ」

「「マジで!?」」

「うん、これだよ」


 僕はポケットから二人に鍵を見せた。


「すげえ!これ絶対あのお化け屋敷の鍵だぜ!」

「そうかもしれないね」

「二人とも、そこに落ちてただけだよ。交番に届けようよ」

「進、何言ってるんだよ。あのお化け屋敷に入るチャンスじゃないか」

「太一!?あそこに入るの!?」

「あそこには絶対お宝があるに違いない。行ってみようぜ」

「でも、勝手に人のうちに入るのは……」

「なんだよ、進。怖いのかよ」

「そんなんじゃないよ!信二は?」

「僕は単純にあそこに興味があるな。行けるなら行ってみたい」


 キーンコーンカーンコーン


 チャイムと同時に担任の先生が入ってくる。あちらこちらで話していた子供達はそれぞれ自分の席へと戻って行った。


 そして授業も終わり帰りになると、太一が話しかけてきた。


「今日これから行こうぜ」

「え?」

「お化け屋敷だよ」

「今日これから!?」

「賛成」

「信二!?」

「進も当然行くよな?」

「う、うん……」


 僕達の冒険は始まった。太一は胆試し感覚なのだろう。信二はわからないことは追求するのが好きだからだろうな。僕はというと、正直怖い。「お化け屋敷」とまで言われているのだ。何かがいてもおかしくはない。しかし二人は乗り気だ。僕は仕方なくついていくことにした。


「本当は夜がいいんだけどな。抜け出してくるのも難しいから仕方ねえな」


 太一がぼやいた。僕は夜でなくて胸を撫で下ろした。昼間でも充分怖い。人の手が入っていない洋館は雑草が生い茂り、外壁の塗装もはげかかって、お化け屋敷そのものだ。

 僕達は門の近くの壊れた場所から敷地内へと入って行った。洋館まで草を踏みしめて歩く。ようやく洋館の玄関に到着した。


「太一、鍵は?」


 信二が冷静に聞いた。


「ああ、これだ」


 太一はランドセルから僕が拾った鍵を出した。それを受けとると信二は、躊躇なく扉の鍵穴に差し込んだ。いや、差し込もうとした。


「これ入らないよ」


 信二はそう言うと、扉のノブを回した。


 ガチャリ


 扉が開いた。僕達は顔を見会わせた。


「中へ入ろう」


 太一は宣言した。それに信二も同意する。僕はついていくしかなさそうだ。意気揚々と洋館に入る二人。怖くないのかな。でも、ほんの少し好奇心はあるし……。


 洋館に入るとたくさんの扉があった。僕達はその扉ひとつひとつに鍵を差し込んでいく。でもどれも合わない。どこの部屋にも入れずに帰ることになりそうだ。とそのときだった。ひとつの部屋の扉の鍵が開いていたのだ。僕達は恐る恐るその部屋へ入って行った。中へ入ると書斎のようだった。古びた机に古びた本。

 僕は周りを見回して、ある箱の存在に気づいた。本と本の間に挟まるようにして、小さな箱が置いてあったのだ。僕は気になり、その箱を手に取った。小さいといっても僕の両手くらいには大きい。箱をよく見ると、鍵穴があった。僕はひらめくものがあり、信二に言った。


「信二、鍵貸して」

「どうした?進」

「これ。これに鍵が入らないかと思って」


 僕は自分が手にしていた箱を見せた。


「やってみよう。はい、進。鍵」


 信二から鍵を手渡されると、僕は少し震える手で箱の鍵穴に鍵を入れてみた。


 カチッ


 鍵が開いた音だった。僕達は顔を見会わせた。僕は少しずつ箱の蓋を開ける。


 キィ


 古いからか箱が音をたてる。箱の蓋を開けると、中には小さな本が二冊入っていた。それを太一と信二が取り出した。中を見ると日記のようだった。日付がページの上に書いてある。ただ、どこの国の言葉かわからず、何を書いてあるかはわからなかった。でもこんな鍵のついた箱に入れるくらいだから大事なものなのだろう。

 二人が日記を見ている間に、僕は箱の中を眺めていた。よく見ると箱の底が二重になっていることに気づき、その底板を引っ張った。するとそこにあったのは十字架のネックレス。しかも古びてもおらず、綺麗な輝きを放っている。

 その十字架を見た瞬間、僕は感じた。これはここになくてはならないものだと。日記を見ている二人には内緒で、底板をもとに戻した。二人は日記をぱらぱら捲っていたが、わからなかったために箱の中へ戻した。そしてまた鍵をかけて本棚へ置いた。今度は鍵も一緒に。


 こうして僕達の冒険は終わった。これといった収穫はなかったが、「お化け屋敷」と呼ばれている場所に入って無事に出てきたのだ。それだけでも小学校では武勇伝になるだろう。だが人の家に勝手に入ったことはまずいので、僕達の冒険は僕達だけの胸に納めることにした。


 ただ、僕の目にはあの十字架のネックレスが焼き付いていた。とても存在感のあったネックレス。あれを守るためにあの箱があったのだろう。僕はあの箱を密かにこう呼んでいる。


『宝箱』と。


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