5-1 トリック?
お題「鍵」
この事件はトリックのようだ。部屋のなかに男のうつ伏せになった死体。割れた花瓶。ダイイングメッセージ。というか、ダイイングメッセージって本当にあるんだな。
俺は木本 卓郎。新米刑事だ。殺人事件と聞いて駆けつけてきたのだ。部屋の中は特に争った様子もなく、男が倒れているだけだ。その頭上には花瓶が落ちている。ダイイングメッセージは書こうとしたようだが、ミミズのようで読めない。残念だ。だが男の死体をよく見ると、頭に何かが突き刺さっている。とりあえず男の死体は検死へと回された。
俺たち刑事は周辺住民から聞き込みだ。マンションの隣や、向かいの家などから不審な人物がいなかったか聞いて回った。しかし収穫はなかった。
そうこうしているうちに、検死の結果が出た。死因は鈍器で殴打されたからのようだ。花瓶のことだろう。そして男の頭に突き刺さっていたのは鍵だった。男の頭にねじ込もうとしたらしい。何の鍵だろうか。
俺と先輩の刑事はまた現場のマンションへと行ってみた。また部屋の中を見回す。整然としている部屋だ。今回の捜査からは指紋が検出されなかった。だからこそ現場や周囲からの聞き込みは重要になる。とそのとき、俺はふと玄関の鍵穴を見た。特に何の変鉄もないものだが、何かが引っ掛かる。俺は先輩にその事を話して、大家さんに会いに行った。
「波田署の木本です。202号室の件で少しお伺いしたいのですが」
「刑事さん、早く解決してくれないかね。近所でも噂が出回って大変なんだよ」
「全力を尽くします。ところで、あの部屋の鍵のことで……」
「ああ、壊れてたから変えておきましたよ」
「壊れてた?変えたって……」
「扉を閉めておくように言われましたからね」
「壊れた鍵っていうのは、鍵のパーツ全部ですか?」
「ええ、鍵が入らなくてね。全部取り替えましたよ」
「その壊れた鍵のパーツは!?」
「鍵屋が持っていきましたよ」
「住所を教えてください!」
俺は先輩に話しに行った。今日の現場の違和感は鍵だったのだ。俺たちは鍵屋を訪ねた。そこで鍵屋に聞くと、壊れた鍵のパーツを出してきた。
「これ、事件の証拠品として預からせてもらっていいですか?」
「ええ、どうせ使い物になりませんからどうぞ」
「使い物にならないとは?」
「昔の鍵で特殊だから、合う鍵がないんだよ」
特殊な鍵……男の頭の中から出てきた鍵は……。俺たちは署へ戻り、早速鍵が入るか試してみた。鍵は見事に入った。だが確かに古いもののようだ。同じ鍵はないのだろうか。普通はスペアキーがあるはずだ。でも大家さんでさえ鍵が合わないと言った。なんだろう。何かがおかしい。
そんなとき、携帯電話を解析していた刑事から情報が入った。携帯電話のほとんどのものは消されていたが、本人の認証が必要なところに、一人の女性の連絡先が書いてあった。
『星野 恵』
早速彼女の住んでいるところへ行くことになった。。住所を確認すると、被害者の男のマンションに程近いアパートだった。
まずは任意同行するのだろうか……。
早速俺と先輩の二人で、『星野 恵』の家へと向かった。
ピンポーン
誰も出てこない。
ピンポーン
その時、隣の部屋の住人が顔を出した。
「あんたたち、知り合いかい?ここのところ隣が臭いんだよ。なんとかしてもらえないかねえ」
臭い?まさか……。先輩が何度かインターフォンを鳴らすが出てこない。俺はアパートの大家のところへ急いだ。彼女の部屋の鍵を貸してもらうと、俺たちは彼女の部屋へ入った。そこで目にしたのは、首を吊った女の死体だった。死後数日は経過しているだろう。確かに腐臭がする。
部屋を探すと日記が見つかった。彼女の日記に書かれていた。彼の頭は古い。だから彼の古い頭に合う鍵で、頭を開けたかったのだと。そして部屋の鍵を変えて彼の頭を開いてみようとしたこと。二人は付き合っていて、上手くいっていなかったようだ。
『鍵を入れれば変わるかもしれない』
彼女の言葉だった。