4 彼
お題「休日」
私は休日になると行く場所がある。この事は旦那にも内緒だ。幸いにも旦那と私の休みは別々だ。私はデパート勤めなため、休日が不規則なのだ。
私が行く場所、それは彼の家。本当は毎日でも通いたいが、仕事もあり、旦那の目もある。こうして密かに私は彼に会いに行くのだった。
そしてまた休日がやって来る。私は彼に会える嬉しさから、気づかずに鼻歌を歌っていたようだ。
「随分機嫌がいいんだな」
旦那に指摘され、私ははっとした。
「そんなことないわよ」
私の声は震えなかっただろうか。旦那に気づかれただろうか。でも、彼に会いに行くのをやめられない。
そして休日、私は彼の家へ出掛けようとした。すると、旦那が帰ってきたのだ。私は慌てた。出掛ける準備が整っていたからだ。
「きょ、今日はどうしたの?仕事は?」
「ああ、得意先との打ち合わせの予定だったんだが、相手の都合で来週になったんだ。それでたまには休暇をと思ってな。どこかへ出掛ける所だったのか?」
「あ、うん。友達とランチをと思って……」
「俺も行ってもいいか?」
「え!?」
「そんなに驚くことか?いつもお前がお世話になってるんだ。挨拶くらいいいだろう?」
「で、でも、友達が驚くと思うし……その……」
私はしどろもどろになってしまった。どうしよう?これでは彼の事がバレてしまう!
「……お前、休日の度にどこかへ出掛けているようだな。俺には言えない相手と会っているのか?」
ああ、旦那に疑われてしまった。もう駄目だ。私は旦那を連れて、彼に会いに行くことにした。
「……どうなっても知らないわよ」
「どういうことだ?」
「行けばわかるわ」
「……」
旦那は思い詰めたような顔になった。どうか流血騒ぎにだけはならないで欲しい。そして電車を乗り継いで、彼の家に着いた。私はマンションのインターフォンを鳴らす。
ピンポーン
『はい』
中からの声は女性のものだった。
「私よ。今日は旦那もいるの。入ってもいい?」
『そうなの?どうぞ』
ガチャリ
扉が開いた。私は彼女を旦那に紹介した。
「私たちの結婚式で会ってると思うけど、友達の美咲よ」
「ああ、こんにちは。以前にお会いしましたね」
「はい、とりあえず、中へどうぞ」
「なんだ。美咲さんの家に行くなら、そう言えばいいだろう?」
旦那は拍子抜けしたようだ。
美咲は私たちを招き入れてくれた。とそのときだった。
「はっくしょん!はっくしょん!」
旦那だった。
「だからここには一緒に来たくなかったのに……」
「どういうことだ?……わあ!」
旦那が悲鳴をあげた。旦那の足元には彼がいたのだ。グレイな体のロシアンブルーの猫。彼は人見知りすることもなく、旦那に近寄った。
「はっくしょん!はっくしょん!俺は帰る!」
旦那はそう告げると、一目散に帰って行った。
ああ、だから知られたくなかったのに。旦那は猫アレルギーなのだ。いつも私は彼に会った後は、服をすぐに洗濯していた。それで旦那も気づかなかったのだろう。今日帰ったらすぐに洗濯をしなければ、旦那のアレルギーが酷くなるだろう。仕方ない。もうバレたんだし、彼との時間を大事にしよう。
「にゃー」
「うんうん、可愛いね」
私は彼を撫でてあげた。