33 指定席
お題「椅子」
いつも行くカフェ。そこには私のお気に入りの場所がある。 それはカウンターの端。そこからはカウンターの中で忙しくくるくると動き回っている店員さんたちの姿を見ることが出来る。
私は朝食を食べながらそれを見ることが好きだ。にこやかな店員さんたちに心が和む。だからついつい長居をしてしまう。朝から朝食に加えてケーキを食べることもある。注文させてしまう何かがあるようだ。
そしてカウンターだから注文もしやすい。私はコーヒーを飲む。朝から三杯も飲むことがある。
「朝から三杯も飲む方は珍しいですよ」
と店員さん。
「そうですか?」
と私。でも私はいつもそのくらいは飲む。そうしないと目が覚めない。
私はコーヒーを飲みながら本を読む。私の至福の一時だ。
いつものカフェ。
でも今日は違った。私のお気に入りの場所に女性が座っていた。私は二階の席へ。なんだか寂しい。いつもの店員さんたちの働く姿を見られないからだろうか。
私は二階席の四人テーブルに一人で座り、ゆっくりと外を眺める。いつもと違う光景。この場所も悪くはない。静かで落ち着いている。
でもやはりいつもの場所でないと落ち着かない。とその時だった。店員さんが私のところへやって来て言った。
「いつもの席、空きましたよ」
「あ、ありがとうございます」
顔を店員さんに覚えられていたらしい。私は少しの恥ずかしさと共に、荷物を持っていつもの席へと向かう。
そこでまたコーヒーを注文する。きょうの三杯めだ。『ブラジル』という名前。このコーヒーは癖がなく飲みやすい。私のお気に入りだ。
コーヒーを持った店員さんがやって来る。ブルーの可愛らしいカップ。同じカップが、水色と緑のものもある。いつも違う色のカップが出てくる。それも楽しい。そのカップをよく見ると、王冠のイラストが描かれている。そして『ロイヤルコペンハーゲン』の文字が。私の好きなデンマークの陶磁器。
ああ、隅々まで行き届いたカフェ。やっぱり好きだ。
カウンターの端のこの椅子。ここが私の指定席。