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27 指輪

お題「指輪」

 深雪みゆきには付き合って六年の彼がいる。そして深雪は来月三十五歳の誕生日を迎える。若いとも言えない年齢だ。そろそろ結婚を考えてもおかしくない。


 ゆたかは何を考えているのかしら。


 深雪は彼に対して不満が募っていた。何にでものんびりな彼。最初は落ち着ける人だと思った。でも六年も付き合って何も言わないとは……。かといって自分の方から結婚のことを切り出す勇気もない。実際に友達で付き合っている相手に結婚を迫って振られたケースがある。だからこそ深雪は慎重になっていた。


 来月は私の誕生日なのに……。もうアラサーからアラフォーになるわ。豊は私と結婚する気はないのかしら……。


 深雪はモヤモヤとした思いを抱えて、自分の誕生日を迎えた。誕生日だからと、彼は有名なフレンチのお店を予約していてくれた。こういうところはきちんとしている彼である。ゆったりとしていても、きちんと毎年祝ってくれていた。


 そして深雪の誕生日当日。二人でフレンチのお店に行った。


「深雪、誕生日おめでとう」

「ありがとう」


 シャンパンで乾杯してから食事が始まった。次々と運ばれてくる料理は、どれもとても美味しかった。


「豊、ここ美味しいわね」

「ああ、さすが有名なだけはあるな」


 豊はゆったりしているが、知識が豊富で、深雪を飽きさせない。こんなのんびりとした時間が深雪は好きだった。


「深雪、これ誕生日プレゼント」

「ありがとう!開けてもいい?」


 小さな箱だった。もしかしてという思いが深雪の心に広がった。

 そっと小箱を開ける。そこに入っていたのは深雪の誕生石であるアクアマリンのネックレス。


 指輪じゃなかった……。


 深雪は嬉しさと悲しさが込み上げてきた。


「ど、どうした?気に入らない?」

「ううん、そんなことないわ。嬉しい。ありがとう」


 嬉しいのは本当だ。でも自分の期待していたものとは違った。やっぱり結婚をする気はないのね……。


 深雪は顔には出さないように気をつけた。せっかくの誕生日だから、この日くらいは楽しみたかった。そんなことを深雪が考えている時だった。


「俺、最近手相に興味があるんだよね」

「手相?」

「うん、深雪、ちょっと手を出して」

「こう?」


 深雪は両手を広げて出した。


「右手はね、これからのこと。どんどん手相って変わっていくんだよ」

「ふーん」

「左手はね、生まれた時のものなんだ」

「そうなの?」


 何故いきなり手相なんだろう。深雪は不思議に思った。すると彼は深雪の左手をとった。


「さっき言ったよね。左手は生まれた時のものだって」

「え?うん」

「だからね……」


 豊は深雪の左手の薬指に指輪をはめた。


「決まってることなんだよ。俺と結婚してくれる?」

「豊……」


 突然のプロポーズに深雪は何も言えなくなってしまった。


「み、深雪?嫌だった?」


 深雪は声を絞り出した。


「……ありがとう、豊。嬉しい」


 深雪の頬を涙が伝った。豊は席を立って、深雪の頭を抱え込んだ。


 二人は六月に結婚した。二人が出会った日に。


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