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25 彼女

お題「チケット」

 真美まみちゃんは俺を待っている。だから行かなくてはいけない。


 俺は会社員だ。特に目立つ訳でもなく、仕事も並みにこなしていた。そんな普通の俺は自分の自慢出来るところはないが、一つだけ自慢するとすれば、彼女だ。

 俺の彼女はとても可愛い。皆が振り返るほどだ。名前は真美。彼女のところにだけスポットライトが当たっているようだ。俺にとっても眩しい。


 そんな彼女だが、とても忙しい生活を送っている。仕事で手一杯で、中々俺と会うこともままならない。俺は寂しいが、彼女はがんばり屋だからそれをやめろとも言えない。

 時々でもいいんだ。彼女とのちょっとした触れあいが俺には嬉しい。

 君は俺を見つめて笑いかける。それはもう俺の心がとろけるような笑顔だ。俺は時々思う。彼女を閉じ込めてしまいたいと。でもそんなことは出来ない。彼女には彼女の生活がある。それを奪おうとは思わない。ただ俺に会ってくれるだけで充分だ。


 真美ちゃんは最近は特に忙しいみたいだ。仕事柄地方への出張も多い。これも俺と真美ちゃんが会えない原因の一つでもある。でも仕事だからと俺は我慢して送り出す。君は微笑んでくれる。それだけでも俺は嬉しい。


 今回の出張は長かった。しかも海外まで行っていた。忙しくて体調を崩さないか心配だよ。でも君はきっと笑って「大丈夫」って言うんだろうね。


 久しぶりに東京へ帰ってきた彼女。ようやく会える。俺の心は浮き立っていた。


 俺は彼女との待ち合わせの場所へ向かった。凄い人混みだ。君が迷わないか心配だよ。もうすぐ君のところへ着くよ。待っていて。


 君との待ち合わせの場所のお店は混んでいた。時間に正確な君はきっと先に来ているに違いない。早く入らなくては。


 え? 入れない? 何故?

 チケット? なんのことだ?


 ああ、あの男が持っている紙切れのことだね。君に会うためなら俺は何でも出来るよ。


 さあ、君、その紙切れを俺に渡してくれ。


 え? 渡せない? 何故?


 仕方ないね。君は邪魔をしようとしてるんだね。そんな男にはこうするしかないね。


 ああ、君の腹から赤いものが滴り落ちているよ。


 さあ、その紙切れを俺に。


 真美ちゃん、今行くよ。



 真美ちゃん、ようやく会えたね。嬉しいよ。


 でも何故? 俺の両脇には警備員がいるんだい? この男たちも俺を君から引き離そうとしているのかい? でも大丈夫だよ、真美ちゃん。またすぐに会いに来るからね。


 ああ、スポットライトの下の君は輝いているよ。

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