23 かばんには
お題「忘れ物」
俺は買い物をしていた。
この店では特に買うものはないな。
俺が店を出ようとした時だった。
「お客さま、お忘れ物ですよ」
店員がそう言って差し出したのは、俺の小さなバッグ。
「あ、すみません」
いつ落としたんだろう?
また俺は別の店へ行った。
ここでも買うものはないな。
俺が店を出ようとした時、また店員に呼び止められた。
「お客さま、お忘れ物ですよ」
「あ、ありがとうございます」
またバッグだった。
俺はとりあえず次の店へ行った。そこでもめぼしいものはない。
俺が店を出ようとした時、店員が声をかけてきた。
「お客さま、お忘れ物ですよ」
またバッグ……おかしい。確かにこれは俺のバッグだ。だがこの違和感はなんだ?わからない。
次の店へ行った時にも言われた。
「お客さま、お忘れ物ですよ」
そしてまた渡されるバッグ。本当にこれは俺のものか?それにこの違和感は……。
このバッグ、こんなに大きかったか?もっと小さかったはずだ。違和感の原因はそれか?だがこれは俺のバッグだ。なんだろう。何かがおかしい。
それにそもそも何を買いに来たんだ?店から店へと渡り歩いて、俺は何を求めているんだ?
重い。初めよりもバッグは大きくなり、重くなっている。中には何が入っているんだ?確かめなくては。いや、確かめてはいけない。この相反する感情はなんだ?
俺はあてもなく歩いていた。背中に背負ったバッグが段々と重くなっていく。俺の足取りも遅くなっていった。
俺はバッグを背中から降ろした。明らかに大きくなっている。三倍、いや五倍にはなっているだろうか。俺はこんなものを背負っていたのか。
中身を見なくては……。なんだろう。やはり見てはいけない気もする。
「忘れ物だよ」
道を歩いていた人から声をかけられた。
俺のバッグだった。今足元に置いたはずではなかったか?またバッグは大きくなっていた。俺は意を決してバッグを開けることにした。
ジーッ
ファスナーを開けると、黒いものが見えた。なんだろう。またさらに開けていく。
ジーッ
ファスナーを全開にした。
ドサッ
バッグから出てきたのは二、三歳くらいの子供だった。俺は子供を背負っていたのか?それにしてもこの子供は……。
そこで目が覚めた。今のは夢……?あのバッグは……?俺の家の隅に小さなバッグが置いてあった。夢だったのか……。
それからいつも通りの生活が始まるはずだった。だが俺は警察に捕まった。
ああ、あのバッグから出てきた子供……俺が盗みに入った家で殺した子供だ。ただタバコを買うための金欲しさに殺した子供。




