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21 逢いたい

お題「写真」

 私の通勤途中だった。


 ぐらぐらぐら


 じ、地震!?


 私は思わず目をつむった。


 少しして揺れは収まったようだ。孝子たかこは目を開けた。


 え?


 孝子の目に映ったのは瓦礫の山。


 今の地震で!?でもビルがひとつもない。どういうこと!?


「そこで何をしてる!?」


 不意に孝子は腕を掴まれた。


「きゃ……」

「何故こんなところにいる!?さっきの空襲警報が聞こえなかったのか!?そ、それになんだ、その格好は!婦女子が足を出すなどはしたないではないか!」

「く、空襲警報……?」

「とにかく早く防空壕へ!」

「え?え?」


 一体何が起こってるの!?


 私は腕を掴まれたまま、瓦礫の山を越えて防空壕へと入って行った。そこには女性や子供がところ狭しと座っていた。


「とにかくここで大人しくしていろ」

「あの!あなたは……」

高村たかむら 幸夫ゆきお。この辺りの警戒に当たっている。お前は?」

原田はらだ 孝子たかこ

「俺は行く。空襲警報が解除されるまで大人しくしてろよ」

「え、あの!」


 高村と名乗った青年は、防空壕を出ていってしまった。改めて防空壕の中を見渡す。顔が煤で汚れ、とるものもとりあえず逃げてきたというのがわかる人たちだった。


 ここは一体……。


「お嬢さん、とりあえずこっちに来て座りなよ」


 年配のおばあさんが声をかけてくれた。


「面白い格好をしてるねえ。もんぺはどうしたんだい?」

「もんぺ!?あの、ここはどこですか!?」

「何を言ってるんだい。東京に決まってるだろう」

「東京……?ここが……?あの、今って西暦何年ですか?」

「西暦?なんのことだい?」


 西暦が通じない?まさかとは思うけどタイムスリップ!?


「ああ、空襲警報が解除されたらしいね」


 どうすればいいの……?


 そんなとき先程の高村と名乗った男が入ってきた。


「原田と言ったな。一緒に来い」

「ど、どこに……?」


 周りを見ると皆もんぺをはいている。私のワンピースは浮きまくりだった。


「外れに実家がある。とりあえずはそこで保護する」

「あ、ありがとうございます」


 高村さんについて行くのは大変だった。私はワンピースにパンプス。瓦礫の山を越えて行くのは辛かった。それでもこの人しか私を保護してくれる人はいない。孝子は必死で着いていった


「幸夫さん!どうしたんです?」

「母上、この女性を置いてやってください。迷ったみたいなんです」

「まあまあ、幸夫さんの言うことですからね。わかりましたよ。幸夫さんはこれからどうするのです?」

「本部へ戻ります」


 幸夫は踵を返した。


「あの!高村さん、ありがとうございました!」

「いや、ここはまだ安全だからゆっくりするといい」


「さあさあお嬢さん、お名前は?」

「原田孝子です」

「とりあえずは着替えないとね。そんな薄着では寒いでしょう」

「あ、ありがとうございます」


 高村さんは結構裕福な家なのね。とりあえず今夜泊まるところが出来て良かったわ。



 翌日、高村さんが帰ってきた。ぼそぼそと話し声が聞こえる。


「……で……敵方の……」


 え?今、敵方って言った?私は急いで着替えて部屋を出た。


「あの、高村さん、おはようございます」

「あ、ああ、おはよう。原田、本部で尋問がある。一緒に来い」


 尋問!?


「あの、私は敵とかじゃないですから!ただ迷子っていうか……」

「それは本部で話してもらおう」

「高村さん……」


 私は作戦本部へと連れていかれた。尋問ってまさか拷問とか……?怖い……!


「高村さん……。私、拷問とかされるんですか……?」

「そうとは限らない。お前が素直に素性を明かせばな」

「素性って、私はただの会社員よ!」

「何を言ってるんだ」

「だから、会社に勤めてるだけの一般人よ!」

「……俺はお前が敵方のスパイとは思わんが、本部へは報告しなければならん」

「そんな……私は……何もしてないのに……」


 ほどなく本部へ着いた。

 私が案内されたのは小さな部屋。怖い。ここで何をされるの?


 一人の男がやって来て、尋問は始まった。朝からだったが、夕方まで尋問され続けた。でも言えることは何もない。とにかく自分はここの時代の人間ではないと訴えた。尋問していた男もうんざりしたらしい。


「もう帰っていい。高村、連れて帰れ。少し頭が弱いようだ」


 え?何それ。でもタイムスリップなんて信じてもらえなくて当然よね。

 私はまた高村さんの家へ帰ることになった。


「とりあえずは家のことを手伝ってくれ」

「はい、わかりました。高村さん、ありがとうございました」

「……俺は何もしていない」


 高村さんは視線をそらした。でも私は知っている。あの尋問官に口添えしてくれたことを。


 私はそれから穏やかな日々を送っていた。高村さんは毎日帰ってきて、私の様子を尋ねる。次第に打ち解け、親しくなっていった。そんな私達を見た高村さんのお母さんは言った。


「幸夫さん、孝子さんと結婚するつもりなのね」

「は、母上!」


 高村さんの顔が赤くなった。私も顔に熱が集中しているのがわかる。


「幸夫さん、あれを孝子さんに渡してくださいな」

「……孝子さん、これを受け取ってもらえるかな?」


 それは指輪だった。


 これってプロポーズ!?


 そんなときだった。


 ぐらぐらぐら


 地震!?


「孝子!こっちへ!」

「高村さん!」


 私は高村さんに向かって手を伸ばした。と思ったら、私の視界は暗転した。

 私が目を開けると、そこにはいつものビルが立ち並ぶ通りだった。


 え?今のは夢……。私は混乱していた。しかしふと右手を見ると、あの指輪を握っていた。

 夢じゃなかった!高村さんは?一体どうなったの?



 それから私は高村さんの家があったところを探して行ってみた。そこには新しい家が建っていた。しかし表札を見ると、『高村』の文字があった。


 ここだわ!


 私はそこの家のインターフォンを押した。


『はい』

「あの高村幸夫さんのことでお窺いしたいのですが……」

『……失礼ですが、どちら様ですか?』

「原田孝子と申します」

『……え……少々お待ちください!』


 ガチャリ


 扉が開いて、女性が出てきた。


「あの、原田孝子さんというのは本当ですか!?」

「はい、そうです」

「とりあえず中へどうぞ」

「あの、幸夫さんは……」

「大伯父は亡くなりました」

「大伯父というと……」

「はい、祖父の兄なんです。でも珍しく独身を通したとか。それで亡くなってから荷物整理をしていたら、手紙が出てきたんです。原田孝子さん宛のものです」

「え……それを見せていただけますか?」

「ええ、どうぞ」


 高村さんの手紙には、私への心配事が綴られていた。無事にいてほしいとの言葉が連ねてあった。


 私の目からは涙が頬を伝った。


「これ、大伯父の若い頃の写真です」

「……高村さん……」


 その写真には紛れもなくあの高村さんが写っていた。私は写真を指でなぞった。


「高村さん……」

「大伯父には想う人がいたらしいと祖父から聞いています」


 私は号泣した。しばらくして落ち着くと、私は謝った。


「みっともない所をお見せして申し訳ありませんでした」

「いえ、よろしければこの手紙と写真をお持ちくださいませんか?」

「え?でも……」

「ずっと眠ったままだったんです。今私にはわかりました。これらはあなたへ渡すべきだと」

「あの、途方もない話ですが、高村さんにこの指輪をいただいたんです」

「それも大伯父が渡したのなら、あなたのものだと思います」


 私は手紙と写真をもらって家へ帰った。そして写真をじっくりと眺める。


「高村さん、あなたのお陰で無事に帰ることができました。でももっとあなたと一緒にいたかった……」


 私の涙は止まることはなかった。


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