20 眠ったら
お題「夢」
最近夢を見る。もちろん今までも見てはいたが、最近の夢はなんだか後味が悪い。とはいえ、夢の内容を覚えていない。なんとなく起きた時に不快感を感じるのだ。だが、たかが夢。私はそう思っていた。
また夢を見た。今度は私が起きた時に覚えていた。遠くに人がいる夢だ。ただそれだけの夢なのに、不快感は変わらない。
また夢を見た。前の夜の時よりもその「人」が近づいて来ている。起きた時の不快感は前日よりも増していた。
また翌日の夜夢を見た。またあの「人」が近づいて来ている。私ははっとして目が覚めた。少し汗をかいているようだ。だんだんと近づいて来るのは男のようだ。
私は眠ることが怖くなってきた。その日は徹夜した。それでも会社へ出勤しなければいけない。私は眠い目をこすりながら家を出た。いつもの通勤路を歩いていると、前から老人がやって来た。そしてすれ違った。
「昨日は会えなかったねえ」
私はドキッとして後ろを振り返ったが、誰もいなかった。空耳……?
私は会社で仕事をしていたが、昼休みに自分のデスクでうたた寝をしてしまった。
男がこちらに近づいてくる。起きなければ!私はその思いからなんとか目を覚ました。私が眠る度に近づいてくる男。顔にもやがかかっているようで、誰かはわからない。私は段々と不眠症になっていった。
「ゆり、最近顔色が悪いわよ」
同僚が私に言った。
「少し眠れなくて……」
「そうなの。大変ね」
同僚はそれ以上は聞いてこなかった。もう少し話を聞いて欲しかったな……。私が会社のお手洗いに向かった時、中から声がした。
「ゆりの顔見た?」
「あ、見た見た。目の下にくまが出来てたよね」
「不眠症みたいよ」
「へえ。少し可愛いからって、男を捨ててばかりいる罰じゃないの?」
「言えてる~」
その後笑い声が響いた。
同僚にこんな風に思われていたなんて……。でも、男の人が私を選ぶんだもの。私のせいじゃないわ。
それからも不眠症は続き、夢の中の男は目の前まで迫って来ていた。
眠るわけにはいかない……!
ゆりはその一心から、仕事に集中した。だが、さすがに毎晩寝ていないのがたたり、会社で倒れてしまった。ゆりは救急車で病院へ運ばれた。
ゆりがはっとして起きると、病院のベッドの上だった。
「あ、気がつかれましたか?」
看護師が声をかけてきた。
「私は……ここは……」
「ここは病院ですよ。倒れて運ばれてきたんです。今先生を呼びますね」
「坂崎さん、具合はいかがですか?」
「もう大丈夫なので帰ります」
「大丈夫そうには見えませんよ。とりあえず一晩病院に泊まってください。とにかく、一晩ゆっくりしてください」
「か、帰らせてください!」
「過労もあるようですから、休むことが一番ですよ。点滴しますから」
先生はそう言うと、行ってしまった。今ベッドにいると寝てしまう……!
「坂崎さん、点滴しますね」
私は疲れて何も言えずに横たわった。あれは夢よ!私はそう思い、病院のベッドで点滴をされながら眠りについた。
『やっと会えたね』
不気味な声。
『君が寝てくれないから会えなくて寂しかったよ』
「だ、誰!?」
『俺だよ。自分が捨てた男のことなんて覚えてないのかい?』
「あ、あなたのことなんて知らないわ!」
『君が覚えてなくても、俺は覚えてるよ。他に男が出来たと言って、俺に散々貢がせておいて捨てたよね』
「だ、誰……!?」
『ああ、そんな男は大勢いるから区別がつかないんだね。でももういいよ。君が俺と一緒に来てくれればね』
男はゆりの首に手をかけた。ゆりは声も出ない。
これは夢よ!早く目覚めなければ!く、苦しい……。
翌日看護師がゆりの様子を見に行くと、ゆりは事切れていた。死因は首を絞められたことによる圧迫死だった。
それと時を同じくして、一人の男が首吊り自殺をしていた。借金を苦にしたものだった。この男はゆりが散々貢がせた男だった。