18 コーヒー
お題「コーヒー」
彼とのつきあいは三年になる。今日このカフェに呼び出したのは、彼の気持ちを確かめるため。私の友達が、彼と他の女性がホテルへ入るところを見たという。しかもスマホの写真付きだ。
<午後二時>
約束の時間になった。私は緊張して待っていた。そんなとき、お店の人に声をかけられた。
「ご注文はお決まりですか?」
「あ、えーと、連れが来てから……」
「かしこまりました」
<午後二時半>
彼が三十分遅刻することなど珍しくもない。私は待つつもりだが、お店の人に悪く思えてきた。私は先に注文することにした。
「すみません」
「はい」
すぐに店員さんは来てくれた。
「ブレンドコーヒーをブラックでお願いします」
「かしこまりました」
このカフェのコーヒーは本格的で、サイフォンで一杯ずつ淹れている。彼とも来たことがあるし、私は一人でも来てコーヒーを飲んでいた。空色のような淡い色合いの可愛らしい外観も気に入っていた。
ほどなくコーヒーを持った店員さんが私のテーブルへやって来た。
「お待たせしました」
その場でコーヒーカップにコーヒーを注ぐ。それをみるのも楽しい。私はコーヒーを飲んで少し落ち着いてきた。
<午後三時>
私は彼のスマホに電話をした。
『現在電波の届かないところにいるか、電源が入っていません』
彼はよくスマホの電源を入れていないことがある。だから珍しいことでもない。
<午後三時半>
コーヒーを飲み終わってしまった。私はもう一杯ならと店員さんを呼んだ。
「同じものをお願いします」
「かしこまりました。空いたカップをお下げいたします」
「あ、はい」
コーヒー豆を挽いた後のいい香りがする。二杯目のコーヒーが運ばれてきた。それを口にする私。
<午後四時>
私は彼のスマホにまた連絡をした。だがスマホの電源が入っていない。
<午後四時半>
彼は来ないつもりかもしれない。帰ろうか……。
<午後五時>
彼はやって来ない。それが答えなのか……。
<午後五時半>
私は席を移動し、カウンターへと座った。
「マスター、同じものをもう一杯ください」
「はい」
マスターは豆を挽き、サイフォンでコーヒーを淹れ始めた。少ししてコーヒーが出来上がった。カウンターからマスターが出してくれる。私はそれを受け取りながら、カップのお皿の上に何かが乗っていることに気がついた。
「おまけです」
マスターが茶目っ気のある顔で笑った。コーヒーカップのお皿に乗っていたものはチョコレートだった。一口チョコレートを食べてからコーヒーを飲む。甘さとほろ苦さが絶妙に絡んでいる。この味が今までの彼とのことを思い起こさせた。
<午後六時>
カフェの閉店時間だ。私は支払いをしてお店を出た。
その日以降、彼からの連絡は途絶えた。
それからあのカフェには行っていない。あのコーヒーを飲めるのはいつになるだろうか。




