16 がんばるぞ
お題「電話」
僕は「電話」という機械だ。人の声と声をつなぐという重要な任務を背負っている。僕たちはそう言われて、工場からお店へと出荷される。そして、それぞれ人に買われて勤め先へと行くんだ。
僕もそうしてこの島村家へとやって来た。
この家の「人」を紹介しよう。まずはお父さん。證券会社に勤めてるんだ。次にお母さん。お母さんは主婦で、家のことを色々している。そして最後は五歳の咲ちゃん。三人暮らしなんだ。そして僕は今日も人の声を届ける仕事をしている。
あ、通信の連絡が来た!それ!
トゥルルルル
「はい、島村です」
お母さんの声は僕の受話器を取ると、一段高くなる。何故だろう。でも友達だとすぐに普通の声になる。それにお母さんの通信は長いんだよね。
あ、通信の連絡が来た。でもお母さんは話し中だからつなぐことが出来ないや。ごめんね。またかけ直してね。
ようやくお母さんの通信が終ったみたいだ。さっきの通信の連絡が来るかな?あ、来た!
トゥルルルル
「はい、島村です。……いえ、そういうのはお断りします」
ガチャン!
わあ!お母さん!もう少し丁寧に置いてよ!痛いよ!どうやら「カンユウ」の通信だったらしい。いつもお母さんはこういう通信の時は、僕の受話器を叩きつけるように置くんだ。もう「カンユウ」なんかの通信は来ないで欲しいよ。僕の体が痛いからね。
あ、また通信の連絡だ。それ。
トゥルルルル……
あれ?いつもよりも力が出ないぞ。
「はい、島村です」
なんとか通信はつなげて良かった。
あ、お父さんが帰ってきた。みんなで夕ごはんだ。楽しそうだなあ。
「ねえ、あなた」
「ん?どうした?」
「電話の調子が悪いみたいなの。音がいつもより小さいのよ。故障じゃないかしら。そろそろ新しいのに買い換えてもいいんじゃない?」
「故障か。後で見てみるよ」
え!?僕のこと!?僕、壊れたの!?捨てられちゃう!嫌だ!僕はもっと頑張れるんだ!
あ、通信の連絡だ!うんしょ!
トゥルルルル!!
「わっ。小さいんじゃなかったのか?」
「おかしいわね」
ああ、今頑張ったら、体の力が抜けてきた……。僕はもうダメなのかな……。
「あれ、コンセントが抜けかけてるよ」
「あら、本当だわ。咲!」
「あたしじゃないもーん」
カチッ
あ!体の力が戻ってきた!
「これで大丈夫だろう。スマホから電話してみてくれ」
「わかったわ」
トゥルルルル
「どうやら平気みたいだな」
「そうね」
良かった!僕はまだまだ働けるぞ!これからもこの島村家の通信をつなぐ仕事を続けていくんだ!
でも、咲ちゃんには注意だな。