15-2 出会い
お題「クリーニング」
がこん、がこん、がこん
うちには洗濯機がない。置く場所がベランダだったので買わなかったのだ。だからこうしてコインランドリーで洗濯をしている。
家にいれば洗濯機から離れても大丈夫だが、ここでは目を離すと下着泥棒が出たりするらしい。だから本を読みながら、ここで待つしかない。
私はいつも通りに洗濯物を洗濯機に放り込むと、本を読み始めた。だが、急に睡魔が襲ってきた。昨日の夜更かしが悪かったのかもしれない。私はうとうとし始めてしまった。
その時だった。
ばん!
え?今の音は……。私の洗濯物を入れた洗濯機が開いてる!泥棒!?
「ちょっと!返してよ!」
「え?」
私は目出し帽を被った男性に詰め寄った。
「何のこと?」
「しらばっくれないで!私の洗濯物を盗んだでしょ!」
「え?俺は知らない……あ、あそこの洗濯機?さっき男が……」
「え?」
私達が話している時に、入り口から逃げようとする男がいた。
「待ちなさいよ!」
私は男の後を追った。すると先程の目出し帽の男性が追いかけてきた。
「君、危ないよ!俺が捕まえるよ!」
「大丈夫よ!」
犯人は足が遅かった。目出し帽の男性は追い付くと、男を捕まえようとした。と同時に私も男に追い付いた。
「どいて!」
私は叫びながら男を捕まえると、背負い投げをした。
ダン!
男は意識を失ってしまったようだ。そして目出し帽を被った男性の帽子が吹き飛んでいた。
「君、凄いね」
「私、柔道をやってるの……って『柏崎 健人』!?」
「しっ、静かにして。俺のことは内緒にしてよ」
「どうして俳優がコインランドリーになんて……」
「うん。次のドラマの役作り」
「へえ。とりあえず警察呼ぶから、帰ったら?」
「……そうするけど、君はあまり俺に興味ないんだね」
「そうね。身近じゃないからね。じゃあね」
「……」
『柏崎健人』はその場から去り、警察がやって来た。その男は常習犯だったらしい。
そしてまた同じ日々が始まるはずだった。だが、コインランドリーに『柏崎健人』が現れるようになった。そして私と話をして帰っていく。それが当たり前のようになっていった。
「次のドラマはいつからなの?」
「もう始まってるんだけど……」
「そうなの?知らなかったわ」
「……本当に俺に興味ないんだね……」
「え?何か言った?」
「……静ちゃん、俺と付き合って欲しいんだけど」
「は?」
「いや、だから、えーと、静ちゃんのあの男の投げっぷりに惚れたというか……」
健人は真っ赤だ。こんな顔はテレビでも見たことはない。私は急に恥ずかしくなってきた。胸の奥がむずむずする感じだ。
「あ、えーと、返事は急がないから!」
健人は逃げるように帰っていった。
私は洗濯が終わると家に帰った。家に帰ってから、ドキドキと心臓がうるさい。『柏崎健人』と言えば、『彼氏にしたい男』のトップ3に入ってるのに、私ったら今まで考えてなかった。彼は本気なんだろうか。
それから一週間後、またコインランドリーで彼に会った。しかしいつものラフな格好ではなく、スーツを着ている。
「静ちゃん、俺本気だから!」
彼はそう言うと、恥ずかしいのか後ろを向いてしまった。耳が真っ赤だ。するとその時、彼のスーツの襟元にクリーニングのタグがついているのが見えた。
「ぷっ」
私は吹き出してしまった。
「静ちゃん!」
「違うの。襟元を見て」
「え?あ!」
こんな始まりもいいかもしれないと私は思った。