15-1 縁起
お題「クリーニング」
落ちない。落ちない。どうしよう。クリーニングに出す?ううん、危険だわ。クリーニング屋ならすぐにわかってしまうに決まってる。じゃあ捨てる?でもうちは洋服はリサイクルだわ。可燃ごみでは透明な袋だから分かってしまう。
ああ、どうしてこんなことに……。
早くしなければ旦那が帰ってきてしまう。とりあえずこのブラウスは洗濯機の中に隠さなければ!旦那は洗濯機を開けたりしないから大丈夫。
「ただいま」
「おかえりなさい」
「あれ、博人は?」
「夏休みだし、半月くらい私の実家に遊びに行ったのよ」
「そうなのか。いつも賑やかだから、少し寂しいな」
「……そうね」
久しぶりに二人で過ごす夕食。なんて落ち着いているのかしら。博人がいないだけでこんなにも変わるのね。やっぱり博人は私とは合わなかったのね。
「ねえ、あなた、私子供が欲しいわ」
「博人がいるだろう?」
「……兄弟を作ってあげてもいいと思うの」
「そうだなあ。博人の育児が一段落してからにしよう」
「……わかったわ」
十日後。
「博人がいないと寂しいよ。そろそろ迎えに行ってもいいだろ?」
「……実家の両親が喜んでるのよ。もう少し待って」
やっぱり落ちない。漂白してもダメなのね。なんとか可燃ごみに紛れ込ませるしかないわ。
私はブラウスを丸く小さくすると、周りを可燃ごみで埋めてから捨てた。
これできっと大丈夫だわ。
一週間後。
「もう博人を迎えに行ってくるよ」
「……ええ、お願いね」
「……ママ、ただいま」
「お帰りなさい。博人。あなた、お疲れさま」
「いや、君のご両親は博人の成長ぶりに驚いていたよ。お風呂も一人で入れたらしいよ」
「そう、博人。偉いわね」
私はにっこりと笑った。そんな私への博人の怯え。旦那は気づかなかった。
「さあ、博人、背中を出して」
「……ママ、痛いの嫌だよ」
「大丈夫よ。この前みたいに血が吹き出ることはないわ」
「……でも……」
「早く脱ぎなさい」
「……はい……」
博人の背中に現れたのは、龍の刺青。
「博人にとって龍は縁起がいいのよ」
「うう、痛いよ……」
私は博人の刺青を完成させた。
これでこの子は私とも上手くやっていけるはずだわ。私は博人の背中の刺青を満足して眺めた。