12 視える?
お題「ピアノ」
楽器にはそれぞれ精霊がいるのを知っていますか?
その楽器を人が奏でる毎に、精霊は聞き惚れているのです。バイオリンには少し気取った精霊が、フルートには上品な精霊が、トランペットには面白可笑しい精霊がそれぞれついているのです。
そしてピアノの精霊は気難し屋な精霊でした。
そんな楽器たちを奏でてくれるのは、演奏の上手な人ばかりではありません。みんな練習して上達していくのですから。精霊たちはそんな練習にも付き合い、お世辞にも上手いとは言えない演奏を聴いているのでした。
あるピアノ教室へ、イタズラ小僧がやって来ました。彼は親から無理矢理ピアノを習うように言われてピアノ教室へやって来たのです。でも無理矢理なので、もちろんやる気などありません。彼はピアノの鍵盤をバンバンと叩きました。
『うるさいなあ。ピアノが壊れるじゃないか』
「え?」
「どうしたの?智也くん」
「今声が……」
イタズラ小僧の智也がグランドピアノの奥を覗くと、精霊と目が合いました。
『お前、俺が見えるのか?珍しいな』
「な、なんだよ、お前!」
「智也くん、どうしたの?今日はもう練習時間もないし、終わりにしましょうか」
ピアノの先生に言われて、智也は帰っていきました。
その三日後、智也はまたピアノ教室へやって来ました。そして、ピアノの奥を覗きました。すると、小人のような精霊がいました。
『また来たのか?ピアノが好きじゃないなら弾かないでくれる?耳障りなんだよね』
「別にピアノが嫌いって訳じゃ……お前はなんなんだよ?」
『俺はピアノの精霊さ。ピアノの音を聴いて生きてるのさ』
「じゃあ、ピアノが上手い人のを聴く方がいいの?」
『それは当たり前だろう?』
「それなら僕はダメだね」
『決めつけることもないさ。これから練習すればいいだけだろう?』
「練習すれば君は喜んでくれるの?」
『そりゃあ嬉しいさ』
「智也くん、お待たせ。どうしたの?」
ピアノの先生が入ってきました。
「なんでもないよ。先生、レッスンお願いします」
ピアノの先生は驚いていました。今までイタズラ小僧で、ピアノなど興味もないような子だったからです。でも智也はピアノの精霊と話して、少しでも綺麗な音楽を届けたいと思いました。それから智也は真面目にレッスンに励みました。すると、みるみるうちに上達していきました。
そして、コンクールで優勝したのです。でもコンクールで優勝すると、留学しなければいけないのです。智也はピアノの精霊に会えなくなるかと思うと、気が進みませんでした。
「僕、留学なんてしたくない」
『なんでだい?もっと上手くなれるだろうに』
「君と離れるのは寂しいよ」
『精霊はピアノのあるところなら、どこにでもいるさ。それよりもピアノの音を聴かせてくれよ』
智也は精霊に聴いてもらうために、心を込めてピアノを弾きました。精霊は満足そうでした。
『これからも頑張れよ。たまにはピアノを弾いて聴かせてくれ』
「……うん。もっと上達して帰ってくるね」
『ああ、待ってるよ』
智也は精霊との約束を果たすために留学し、一流のピアニストになりました。そして精霊に会いに、ピアノ教室へと向かいました。
「あら、智也くん」
「先生、レッスン室のピアノを弾かせてもらえますか?」
「もちろんいいわよ」
智也はピアノの前に行きました。でも精霊はいませんでした。智也が大人になったために、精霊を見ることが出来なくなっていたのです。それでも智也は約束通りにピアノを弾きました。精霊はそれをじっと耳を澄ませて聞いていました。
(智也、頑張ったな)
智也の耳には精霊の言葉が聞こえた気がしました。これからも智也はピアノを弾き続けるでしょう。