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10 別れたら

お題「キッチン」

 私たち夫婦は恋愛結婚だ。とても穏やかな彼に、私は居心地の良さを感じていった。

 そして付き合いは順調に進み、私たちは結婚した。


 穏やかな新婚の日々を想像していた。ところが、彼が豹変したのである。私へは命令口調。服も脱ぎっぱなし。私はそれを片付ける毎日。私は彼に言ってみることにした。


「……服なんだけど、きちんと一ヶ所にまとめてくれない?」

「はあ!?それがお前の仕事だろ」


 この人には何を言っても無駄なのだろうか。付き合っていた頃はとても穏やかな人だったのに……。でも私は会社を寿退社していて、自分のお金も稼げない。このまま彼の奴隷として生きていかなければいけないのだろうか。私はゾッとした。嫌だ。とりあえずは実家へ帰ろう。

 私はその日のうちに役所で一枚の紙をもらってきた。離婚届だ。

 彼がその日会社から帰ってきて食事の後、私は切り出した。


「話があるんだけど」

「なんだよ。疲れてるんだから、休ませろよ」


 やはり彼にはついていけない。私は離婚届の用紙を彼のテーブルの前に差し出した。


「離婚してください」

「……なんだよ、それ」

「これ以上横暴なあなたと一緒にいたくないの」

「なんだと!?離婚なんかしないぞ!」


 彼は離婚届を破り捨てた。でもこれも予想の範囲内だった。

 次の日私は彼が会社へ言っている間に逃げることにした。最初は実家へと考えていたが、それではすぐにバレてしまうだろう。私は考えた末に、親戚の家にお世話になることにした。親戚の家は九州だ。東京からは中々探すのも大変だろう。


 そして十日が経った。もちろんその間に彼から電話やメールがあったが、全て無視した。そんなメールなどが減ってきたこともあり、私は実家へ戻ることにした。

 私が実家の玄関を開けた時だった。


「ただいま~」

「随分遅かったな」


 彼は私の実家で待ち構えていたのだ。私は動転しながら彼に言った。


「か、帰ってよ!あなたとは離婚したいのよ!」

「とりあえず話し合おう」

「そうよ。いきなり離婚だなんて。少し話してみたら?」

「お母さん!?」


 私の味方だと思っていたのに……彼は母を味方につけたらしい。私は無理矢理彼の車に乗せられ、二人の家に帰ることになってしまった。


 家に着くと彼は態度を豹変させた。


「ったく。手間とらせんなよ。さっさとメシの支度でもしろよ」


 私は十日ほど留守にしただけだ。それなのに、部屋の床が見えないくらいにゴミや彼の脱ぎっぱなしの服が散乱していた。


「早くメシ!」


 私はキッチンへと向かった。キッチンはそれほど汚くはなかった。彼が料理などしなかった証拠だ。

 それでも!この十日間の始末を私がしなければならないのか。私は沸々と怒りが沸いてきた。そんなとき彼がキッチンに顔を見せた。


「まだかよ」


 私は咄嗟に包丁を手にした。


「な、なんだよ」


 衝動のまま、私は彼へと包丁を向けた。


「やめろ!」


 彼が私の手首を掴んだ。でも私は包丁を離さない。彼と私は揉み合いになってしまった。すると、私が持っていた包丁が、私の脚に突き刺さったのだ。彼は慌てた。


「お、俺のせいじゃないからな!」


 私は入院することになった。動けないのだから仕方がない。しかも後遺症が残るかもしれないとのこと。私の衝撃は大きかった。そんなときに彼が病院へとやって来た。


「これで満足だろ」


 彼が私に差し出したのは、『離婚届』。

 彼は後遺症の残るかもしれない私を見捨てたのだ。彼はそのまま帰って行った。私は離婚届をじっくりと眺めた。そして笑いが込み上げてきた。


「ふふふ」


 これが家だったら大爆笑しただろう。私は彼に勝ったのだ。私はしばらく離婚届をうっとりと眺めていた。


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