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陽だまりの図書室  作者: 竜泉塚 神楽
9/9

夜の電話

その日の晩。

大地は、借りてきた本を片手に持って郁香に電話をかけていた。

数回コール音が鳴ったあと

「もしもし」

と、郁香が出た。すると大地は

「もしもし。山倉です。今大丈夫ですか?」

と尋ねた。郁香は

「大丈夫だよー。あ、でもお風呂から上がったばかりだからドライヤーかけながらでもしかしたら聞こえないかもしれないからその時は言ってね」

と何でもない風に言った。しかし、大地も思春期の健全な男子だ。その郁香のお風呂上りであるという様子を想像してしまい少しドギマギした。大地は何もないとかぶりをふると

「でしたら少し間開けましょうか?あんまりうるさくなるようだと大事なこと話せないでしょうし」

と提案したが

「ううん。面倒だしこのままで大丈夫だよ。あらかたは乾かしていたし」

と、答え何かを探しているのかガチャガチャしている音が聞こえた。

「あ、あったあった」

というと

「さ、始めようか。私たちの小説を作る会議を」

と言い話始めた。そして

「君はどんなお話を書きたい?」

と、大地に尋ねた。

大地は答えに詰まった。小説を書きたいと言い、ある程度の設定は確かに思い浮かんだがそれは成り行きによるものでありどういう話を書きたという思いから来たものではなかった。そこで大地は

「実はあんまり考えてないです。この前話した設定も思いつきで話しただけなので」

と言い

「郁香先輩は何かありますか?」

と逆に尋ねた。すると郁香は困ったように

「んー、実は私もあんまり考えてなかったんだよね。主人公とヒロインの交換日記風にするっていう発想が面白いとは思ったけど」

と言葉を詰まらせた。そして、お互いに気まずい沈黙が流れた。

二人が唸るように考えていると突然、郁香が

「あ、そうだ!とりあえず交換日記をかかない?」

と提案した。大地はわけがわからなかったため

「えっ?」

という間抜けな声をあげていた。そして、郁香は興奮した声で

「私たちが普通に交換日記を書いてそれに後付けでストーリーを書き足したらいい話になると思わない?」

と続けた。

大地は稲妻に打たれたように目を見張った。そして少し考えた後、

「いいですね」

と、口にしていた。

そこから二人はいつから始めるのか、どちらから始めるのか、どんなこと書くのかを決めた。

するとある程度の物語の設定やストーリー像が二人の中で沸き上がった。思いついたことを二人で話していくうちに時間はアッという間に過ぎ去っていった。そして、大地のもとに

「ただいまー」

という女性の声がした。驚いて大地が時計を見ると深夜の0時を少し過ぎていた。そして郁香に

「先輩、すみません。母が帰ってきたみたいです。申し訳ないのですが続きは明日でもいいですか?」

と尋ねた。すると、郁香は

「え?帰り遅くなるって……ってもうこんな時間!?」

と時間に気づき驚いていた。そして名残惜しそうに

「そうだね。仕方ないけどこれ以上はさすがに私もダメだね。うん、また明日話そうか」

といい

「じゃあね。おやすみ」

と言った。大地も

「おやすみなさいです」

というと電話を切った。

そしてちょうど部屋がノックされ

「大地ー、おきてるのー?」

と声がした。その声に大地はドアを開けながら

「おかえり、もうすぐねるよ」

と答えた。そこには大地の母、由香がいた。由香は

「そう」

と言いつつ大地に

「そういえば誰と話していたの?彼女?」

と尋ねた。

「ちがうよ。学校の先輩」

と慌てながら

「そういえば仕事はどう?」

と話をごまかした。

「おーその反応は」

とニヤニヤしながら大地の頭に触れると

「とうとうお前にも春が来たか~」

と冷やかした。

「別にそんなんじゃないし」

と本当になんでもないように大地はふるまうが相手は親だった。あっさり見破られ

「はいはい、そういうことにしておいてあげるから今日は早く寝なさい。あ、でも今度会わせてね。今の電話の相手。」

というと自分の寝室へ向かっていった。

大地は途方に暮れ

「はぁ」

とため息をつき机を片付けて明かりを消した。そしてベッドに入りながらスマートフォンを見ると郁香からのメッセージに気づいた。

「また明日も考えようね。おやすみ」

と書かれていた。その文章をみて大地は少しうれしくなっていた。そして

「はい、おやすみなさい」

と返信して眠りについた。



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