彼彼女の出会い
一部タイプミス等があったので編集させていただきました
いつから朝が嫌いになったのだろう。
俺は鳴り続けていた目覚ましを止めて二度寝を決め込んでいた。
次に目が覚めたときには目覚ましは10時を指していた。
大地は、昔陸上部に所属していた。大会ではそれなりに活躍していて全国大会に出たこともある。けれどあの日すべてを失った。公園を飛び出してしまった子供を守ろうとして身代わりになり右足に後遺症が残ってしまった。それ以来学校に行く気を無くしすっかり遅刻、欠席の多くなってしまった。
教室の後方のドアを開けると前に立っていた教師が
「おはよう、山倉くん。お願いだからもっとはやくきてもらえないかな?」
と言っていた。大地はすみませんと謝りながらも話を聞かずに席についた。
大地は、窓際でグラウンドを見下ろしながら学校の施設の管理をしている人の手で花壇から抜かれていく雑草を見ていた。
その雑草にも名前があって生きているのに抜くのだ。人間って本当に自己中だな、と思いながら。
やがて、始業式の時間となり移動することとなった。
始業式は何もなく終わり、大地が気づくと教室へ戻っていた。そして、
キーンコーンカーンコーンキーンコーンカーンコーン
とチャイムが鳴ると立っていた奴らがガタガタと音をたてて自分の席に着いていった。
そして同時に担任の平坂先生が入ってきた。
「おーい、ホームルーム始めるぞー」
と言うと黒板に何か書き始めた。そこには、委員決めと書かれており、委員長やら体育委員など、どこにでもある委員が書き連なっていた。
「以上が今期の委員だ。誰か希望者はいないか?」
と平坂先生が言うが誰も立候補しない。大地は、関係ないやと思い机に突っ伏すように睡眠に身を委ねた。
やがて
「おい山倉、山倉」
「は、はい!」
「あと頼んだぞ」
「は、はい?」
すると平坂先生が指を指した黒板には
図書委員 山倉
となっていた。
「はぁぁぁ?え?どういうことですか?」
「いや、いつまでたっても決まりそうにないし、体よく居眠りしている君に少し腹が立ってね。それに欠席や遅刻の多い君を学校に来るようにするのも私の仕事のうちなんでね、君にした。」
「そんなの勝手に決めないで下さいよ!」
「それは、寝ている君が悪い。一応確認したのだが、反応がなかったのでいいと思ったのだ。」
「もう確定ですか?」
「確定だ。変更は面倒だから認めん。」
もうホームルームは終わりかけているためすべてが遅いのだろう。大地は諦めたようにため息をついた。そして、
「はぁ、わかりましたよ。やればいいんでしょやれば。」と言った。
大地は、名前だけ置いとけばいいやと甘く考えていた。
「そうかそうか、よかった。最後まで図書委員が残ったから良かった決まって。
よろしくな、図書委員。あ、あと私も図書室の担当だからよろしくな。」
と、大地に追加の猛烈な言葉のパンチを発した。
「え。うそ。」
それを聞き驚き呆然とした大地。大地の逃げ場は無くなったも同然だった。
「ま、そんな嫌そうな顔するな。」
そして平坂先生は今日の放課後は委員会だからなと言って去っていった。
放課後図書室に向かうと
図書委員であろう男女約15人がいた。
他には平坂先生と年齢の高そうな男の先生がいた。
席は自由ということだったので一番後ろに座っていると
「じゃあそろそろ委員会はじめまーす」
と声がかかった。
内容は担当教諭の自己紹介と当番を決めるだけだった。男の先生は神楽というそうだ。当番はどうやら各学年1人ずつの3人グループになるようだった。
自己紹介とかは当番の日でいいとなり、適当に用事のない水曜日を選び本日の委員会はお開きとなった。そのまま大地はすぐに帰路についた。
翌日は水曜日だった。放課後、大地が図書室に行くと一人の女子生徒と神楽先生がいた。掃除当番で遅くなった大地は
「すみません、遅くなりました。」
と言いながら入室すると神楽先生は
「いえ、構いません。まだ1年生の子が来ていませんから。」
と言った。やがて1年生の子が来ると自己紹介をしようとなった。まず3年生からとなり始めに来ていた女子生徒が
「私は3年の桜井郁香です。よろしくね」
背は低いが明るいかわいい先輩という印象を大地は感じた。
「2年の山倉大地です。よろしくお願いします」
と大地が言うと一番遅かった1年生が
「1年生の小宮山明里です」
と言った。彼女は、眼鏡をしたおとなしそうな子だと大地は感じた。
その後は、特に会話は続くことはなくどこか気まずいまま神楽先生の指導のもと図書室の整理や貸し出し記録の整理など図書委員の仕事をこなして行った。作業が一段落した頃。神楽先生が
「後は、閉室時間まで利用者の貸し出し手続きなどをしていてください。特にすることがなければ本を読んでいても構いません。私は申し訳ないのですが、今日は会議があるのでこれで一度離席します。会議が長引きそうであれば閉室時間には一度戻ってきますので後は宜しくお願いします」
というと図書室から去っていった。特にすることもなかった俺たちは、神楽先生の言葉に甘えて本を読んで過ごすことにした。郁香や明里は本が好きなのかすぐに本を探しにいったが本をあまり読むのが好きではない大地は図書室に少しだけあった漫画を何冊か選んでカウンターで読んでいた。すると欲しい本が高い位置にあるために手が届かないから背伸びをしているが届いていない女子生徒が見えた。郁香だった。彼女は、大地に気づくと少し照れて
「ごめん。あの本とってもらってもいい?」
と尋ねてきた。
大地は一言で了承すると軽く背伸びをして本を取った。彼女に渡すと彼女はかわいらしい笑顔で
「ありがとう!」
と言った。大地はそのかわいさに少し照れて
「いいえ。大したこと無いですよ。」
と言って渡すと本のタイトルに目を落とした。それは本を読まない大地でも聞いたことのある作家の作品だった。大地は思わず
「その本、面白いのですか?」
「え?」
「すみません、唐突に。あんな手の届かない所にあるものを読もうとしていたので、よほどおもしろい本なのかと」
「どうだろう、実は読んだことのない本だからわからないや」
「そうなのですか」
そこで会話が途切れた。彼女は気まずそうに
「面白かったらおすすめしようか?」
「いいえ、大丈夫です。会ったばかりの人にはさすがに図々しいと思うので」
「気にしなくていいよ。同じ図書委員の仲間だし仲良くしようよ」
「それは、そうなのですけど・・・実は、あまり本読まなくて」
「あ、そうなんだ。ごめん」
そして気まずい沈黙が辺りを支配した。すると郁香が
「でも、本を読むことは楽しいよ?何冊かおすすめするから読んでみる?」
と言った。大地は思わず
「苦手な人でも読める面白い本ありますか?」
と聞いた。すると郁香は眼を輝かせて
「あるよ!いっぱい!」
と言うとおすすめを紹介してくれた。その本は俗にライトノベルと呼ばれる本で漫画みたいで面白いとのことだった。大地が実際に手にとって読んでみると、面白く時間を忘れたほどだった。
やがて閉室時間になると神楽先生が鍵を閉めて帰っていった。明里は早々に帰っていったが郁香はどうやら大地が気に入ったのかが気になったようで
「面白かった?」
と聞いてきた。
「面白かったです。特に最後の主人公のあの決めのシーン。メチャメチャかっこよかったです!」
「ゲームも面白けど読書も面白いでしょ?」
「そうですね。またおすすめ教えてください」
「うんいいよ」
と言うとじゃあまたねと自転車で帰っていった。
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