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ホームレス転生~異世界で自由過ぎる自給自足生活~  作者: 徳川レモン
後日談

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ピーターの苦難の日々6


 高級車は門を抜けて敷地へと入る。

 玄関前で停車し、僕はドアを開けて外へと出た。


「ここがピーターの家か。なかなか住み心地が良さそうじゃないか」

「本当ですね。こぢんまりとしていて、なんともほどほどなのが好ましいです」

「あの、大きい家の部類だと思うのですが……」


 二人の指導員は僕の家を見て、こぢんまりと表現していた。

 そりゃあ師匠の自宅と比べれば十分の一もない敷地面積ではあるが、それでも豪邸と呼ばれるくらいには大きな屋敷だ。

 近所には有名な俳優や女優に資産家も住んでいる。

 言うなればここは現代の貴族街。


 白色の短髪にシルバーフレームの眼鏡をかけたスーツ姿の青年は、芝生の生えた広い庭を観察するように歩く。


 もう一人の指導員、赤い長髪を風になびかせるスーツ姿の若い女性は、青年の行動をじっと見ていた。


「どう思うフレア」

「ペロ様とモフモフするには狭いかと」

「違う。俺が聞いているのは彼の指導についてだ」

「そちらについてもいささかスペースが足りないでしょうね。タナカグループの特別訓練施設なら問題ないと思いますが」

「では、明日からそっちで面倒を見てやれ。俺はこっちをメインにする」


 勝手に話が進んでいる。

 まだ自己紹介もしてないのに。


 ようやく青年が戻ってきて僕に微笑んだ。


「俺はペロ・タナカ。父に君の面倒を見てやってくれと頼まれた」

「私はフレア・タナカです。彼の妻をしております」


 ペロ、フレア、まさかそんな。

 あの聖獣にして伝説のワーウルフ?

 全てのワーウルフの母と呼ばれるあの?


 でも、ペロさんの姿はどこからどう見ても人だ。

 ワーウルフには全然見えない。


「姿は気にするな。俺はすでに神の位にいる存在、見た目などどうにでもできる」

「ええ、モフモフなお姿になるのは私の前だけですからね」

「余計なことを言うな。一週間モフ禁にするぞ」

「そんな!?」


 ガーンとフレアさんは青くなる。

 上下関係がはっきりした夫婦のようだ。


「両親への挨拶はすでに済ませてある。これから毎日、俺がみっちり勉強を教えてやるからな。絶対に学年十位以内に入ってもらうぞ」

「ひぇ」

「クラリス戦の指導は私が行います。場所については明日お伝えしますので、本日同様に車でお迎えいたしますね」

「ひぃ」


 二人から絶対に逃がさないオーラが出ていた。





「――そこはそうじゃない。なぜその答えになる」

「すいません」

「謝るな。怒っているわけではない」


 ペロさんとマンツーマンで勉強を教わる。

 彼は見た目通りできる人のようで、質問には答え以上の答えを返してくれる。それでいて丁寧で一見すると冷たい印象の人だが、話してみると優しい人柄であることが感じ取れた。


「少し休憩にしよう」

「この座学っていつまで続けるんですか」

「毎日だが?」

「あの、そうじゃなくて、もう深夜なんですが」

「そっちか。無論、睡眠時間は与えてやる。もう寝たいなら寝ていいぞ。起床は七時間後だ」


 ペロさんは足を組んで、眼鏡を布で拭いていた。

 部屋のソファにはフレアさんが鼻提灯を出して熟睡している。


 七時間後って……起きてもすぐ登校しないといけないのだけれど。


「もしや翌日の登校時間を気にしているのか?」

「それはまぁ」

「先にも言ったが、俺はすでに神の座にいる。そして、俺は二十四時間を七十二時間にすることも可能だ」


 な、なな、七十二時間!??

 それってつまり!


「みっちり勉強漬けにできると言うことだ。しかし、何事もやり過ぎは良くない。きちんと休息日は設けてやるぞ」

「ひぃ」


 ニヤリと笑うペロさんが師匠に見えた。

 ここにも鬼がいた。


「だが、そう不安になることはない。君は進化したことで身体能力だけでなく、記憶力も向上しているはずだ。考えているよりも早く成績は上がるだろう」

「そ、そうなんですね」


 確かに以前より物覚えが良くなった気はしていた。

 記憶の引き出しがすんなり開くから応用もしやすいし。


 師匠の思うとおりに改造されてるようで、なんだか複雑な気分だ。


「俺も父も選択肢を与えているに過ぎない。この先で力や知識をどう使うかは、君次第だということを忘れるな」

「もしかして、僕の心を読んでます?」

「まぁな。だが、読み取るのはここまでにしておこう。プライバシーは尊重されるべきだ」


 彼は眼鏡をかけ、勉強を再開すると言った。



 ◇



 フレアさんに案内された先は、比較的真新しいビルだった。

 プレートには『タナカ第四研究所』と刻まれている。


 噂に聞いたことがある。タナカグループには兵器を開発する研究施設があると。

 それが第四研だったはずだ。


「付いてきてください」

「はい」


 フレアさんが入り口の警備員にカードを提示する。

 それから一枚目の自動ドアを超えて、二枚目の自動ドアの前でカードを機械にかざした。

 機械音が響き、二枚目のドアもあっさり開く。


 広いエントランスは近代的なデザインで構成され、シンプルながら洗練されたお洒落な空間を作り出している。

 行き交うのは白衣を着た研究者達。

 スーツを着たフレアさんはやけに目立っていた。


「こっちこっち、ピーター君」

「あ、すいません!」


 ぼーっとしている間に、フレアさんは先に行っていた。

 駆け寄ると彼女は微笑む。


「なんだか昔のペロ様を見ているようですね」

「冗談ですよね」

「本当です。今のペロ様も格好良くて逞しくてモフモフしてて素敵ですが、昔のペロ様も可愛くて可愛くて、おっと、エレベーターが来ましたね」


 僕と彼女はエレベーターへと乗り込む。

 地下一階~三十階まで階はあるが、彼女はボタンの下の蓋を開けて、先ほどと同じカードを差し込み地下三階のボタンを押した。


 ずいぶん厳重なセキュリティだ。末席の僕が入って良い場所なのだろうか、そんな不安が不意にのしかかった。


 エレベーターは到着し、ドアが開く。


 フレアさんは先に降りることで、僕に付いてこいと無言で言っていた。


「なんですかここ」

「特別訓練施設です。もっと具体的に言えば、パワードスーツなどやAI搭載型万能戦闘機などの直接戦闘に関わる兵器の実験施設ですね」

「すごい……」


 無数に並んだ窓から実験を見ることができる。

 パワードスーツを着込んだ二人の男性が格闘戦を繰り広げていた。

 別の窓からは二足歩行のロボットがアサルトライフルで、大型スライムを銃撃している姿が見えた。


 僕は別の窓を見て足を止める。


 分厚いガラスの向こうで、クラリスが剣を握って男性と戦っていた。

 服装も普段とは違う。近接戦闘用のボディスーツに身を包み、苛烈に相手を壁際へと追い込んでいる。


「クラリスですね。あの子もなかなかの才能の持ち主のようです。いま戦っているのは、腕の良い兵士なのですが……あの調子だと彼も長続きしなさそうですね」

「彼女もここにいたのか」

「祖父に頼み込んで施設を使用させてもらっているそうですよ。なにせここはこの辺りで一番頑丈で、戦う相手にも不足しない場所ですからね」


 どうしてそこまで力を求めるのだろう。

 彼女はタナカ家のご令嬢、物理的な強さなんて二の次三の次だと思うのだけれど。


 クラリスは対戦相手を蹴り飛ばし、壁へと叩きつけた。


「さ、行きましょうか」

「はい」


 後ろ髪を引かれつつ、僕はフレアさんを追いかけた。


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