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初めてキミと……〜前半〜











「…………………はぁ…」





クラウスと再会したその日の夜…王妃の部屋に来たジークフリートは疲れたようにソファに腰掛けていた。

隣に座ったアンナはそんなジークフリートを見て…心配になる。

「………大丈夫…?ジーク…」

「………ん?…あぁ…大丈夫……」

そう言ってジークフリートはまた溜息を吐く。

こんなに弱ってる彼を…初めて見たかもしれない。

アンナも…話さないでと言われたから言えないが…クラウスの件があったから……少し甘えたい気分だったが…今の状態では我慢しようと思った。

しかし……。

「アンナ」

「ん?」

ジークフリートはアンナを手招きする。

アンナが空いていた距離を詰めるように移動した瞬間ー。

ギュウッ……。

「っっっ⁉︎」

唐突にジークフリートに抱き締められた。

優しく、強く抱き締められて…胸が煩いくらいに脈打つ。

「ジッ…ジーク……?」

「…………すまん…もうちょっと…このまま……」

「…………」

「………ちょっと……疲れたんだ…」

アンナは目を見開く。

ジークフリートの弱音を初めて聞いた。

今日は初めて尽くしで…アンナはとても驚く。それと同時に…弱音を吐く位に……信頼してくれてるんだと思うと…きゅうっと胸が苦しくなった。

「………………いいよ…ジーク…」

「……………ぇ…?」






「貴方が望むなら……」






自分に何かをしてあげれることがあるなら…せめて、彼の望みを叶えてあげたかった。

「…………………っ…‼︎」

ジークフリートが息を飲む気配を感じた。

次の瞬間ー。

「ばっ…かしゃねぇのっ⁉︎」

「はぁっ⁉︎」

咳き込みながらジークフリートがそう叫んだ。アンナは身体を離してジークフリートを見ると……。

「……………………え。」






ジークフリートは…高熱なんじゃないかと思う程に真っ赤になっていたー……。






「ちょっと…大丈夫⁉︎」

「だぁあっ‼︎大丈夫だから、今、お前から触んなっ‼︎」

「触んなって酷くないっ⁉︎」

「煩いっ…‼︎」

言い争って肩で息をする二人は…見つめ合うと…同じタイミングで「ぷっ」と声を漏らす。

そして、困っように笑い合う。

「あー…もう何してんだか……」

「……それはこっちの台詞なんどけど…ジークさん?」

「…………あー……」

ジークフリートは子供みたいにアンナの肩に頭を擦り寄せる。

「何があったかは聞かないんだ…?」

ジークフリートはそう呟く。アンナは考え込むように天井を見てから…柔らかく微笑む。

「別に…話さなくてもいいよ。話して楽になりないなら話してくれればいいし…ジークの好きなようで」

あやすように背中を撫でる。

歳上の…それも男の人にこんなことしていいのか?と思うが…アンナはそれを続ける。

「…………………はぁー…」

耳元で…彼の困ったような溜息が聞こえたのは……。

(……気の所為?)

「…………………やっぱ…」

ジークフリートのぼやくような呟き。アンナは何を言うつもりなのだろう、と首を傾げる。






「……やっぱ…お前《悪女》だな……」






「……………………………………は?」

アンナは素っ頓狂な声を漏らす。

ジークフリートは「………あ。」と変な声を漏らす。



互いに沈黙をして、数秒程度だったかもしれないー。



ジークフリートは勢いよくアンナから身体を離すと、楽しそうに笑う。

「いやーん♪俺、お前にたぶらかされてる気がする〜」

「…………………………」

アンナも…その行動がはぐらかしているものだと分かっていた。

……………………………しかし、だ。





その時のアンナの視線は……極寒だった。





ジークフリートはその視線に狼狽する。

「……………ちょっと…その視線止めろよ。さっきの冗談だから。俺のジョークだから」

「…………………」

「その無言の圧力、止めような?冗談だから」

「…………………………………」

アンナは何も言わずにジーッと見つめ続ける。その視線に彼はうめく。



「……………ごめんなさい…」



ジークフリートが本気で誤ったの見て、アンナはギョッとする。謝らせるためにジト目してた訳ではないが…いつも人を小馬鹿にするようなジークフリートが本気の謝罪をするなんて……。



(……明日は槍でも降るの……⁉︎)



驚愕で硬まったアンナをジークフリートは怒っていると勘違いしたのか、慌てて弁解をする。

「……いや…その…さっきの《悪女》って言ったのは…褒め言葉っていうか……」

しどろもどろでそう言う彼は、恥ずかしそうにそっぽを向いていて……。

「………ちょっと…アンナが爆弾発言するから…《悪女》みたいだって思ったていうか……別に悪い意味で言った訳じゃないって…………………」

段々、声が小さくなり…最後には俯いてしまった。アンナは俯いた顔を下から覗き込んだ。

「………………ジーク…?」

ゆっくりと顔を上げたジークフリートは…まるで子供のようにムスッとしていた。

「…………………ジー…ク…?」






「…これは…えーっと…あれだ。全部、アンナが悪い」






「えっ⁉︎」

いきなりの責任転嫁(?)でアンナは変な声を出す。ジークフリートは一人納得するように、頷く。

「アンナが無意識に爆弾発言するから悪い‼︎」

「はっ⁉︎爆弾発言なんてしてないでしょ⁉︎」

「俺にしてみたら爆弾だっ‼︎爆弾通り越して魚雷ぎょらいだって‼︎」

「魚雷って爆弾よりタチ悪いじゃないっ‼︎」

「そんだけタチ悪いこと、言ってんだよっ…‼︎」

二人して睨み合う。

なんでこんな言い合いしているのか、意味が分からない。

いや、多分…ジークフリートが誤魔化したのが、話をこじれさせたのだ。


「あーっ…もうっ‼︎この話は終わりっ‼︎」


話をこじれさせた本人ジークフリートが無理やり、話を終わらせる。我儘な彼に今度は淡雪がムスッとした。

しかし…困惑顔のジークフリートを見て…アンナは渋々、それを受け入れる。



(………まるで…言う気はなかったって顔してるんだもの………)



嘘で誤魔化すタイプのポーカーフェイスだと思っていたジークフリートがこんなにも感情を表に出すのだ。

それだけ本人も困惑しているということだろう。

「……………疲れてるんじゃないの?」

アンナはいつもの仕返しとばかりに、小馬鹿にするようにそう言う。

「……………そうかもしれないな…」

覇気のない声と乾いた笑みを浮かべるジークフリート。

(………そんなに弱ってると…仕返しにならないんだけど…)

いつもと違うジークフリートに、アンナは変な気分になる。落ち着かない、と言った方が正しいかもしれない。

そんなジークフリートが静かに目を閉じたと思った次の瞬間、バッと立ち上がった。

「決めた。明日から二日間、出掛けるぞ」

「…………………はぁ…」

唐突な決定にアンナは適当な相槌を打つ。

(確かに…最近、働き詰めだったから…休んだ方がいいよね…)

「気をつけて行ってらっしゃい」

アンナがそう言うと、彼は不思議そうに首を傾げた。

「何言ってんだ?」

「え?」

そして…アンナに驚愕の言葉を告げる。











「アンナも一緒に行くんだよ。泊まる準備しとけよ」











「うん、分かった……って…んんっ⁉︎」

〝つい〟脊髄反射のように返事をしてしまったが、そこでピキッとアンナの動きが止まる。

(………今…なんて……言った……?)

ぎこちない動きで目の前の人を見つめる。

今、ジークフリートは止まる準備をしておけと言った。

つまり…それはアンナも行くということで。

そこでやっと意味を理解したアンナは赤面しながら慌て叫ぶ。

「えぇっ⁉︎私も行くのっ⁉︎っていうか泊まりなの⁉︎」

「……そう言ってるだろ?返事したんだから、ちゃんと準備しとけよ?明日の朝七時に出発な」

「ちょっと待ってよっ‼︎どこに行くのっ⁉︎」

「それはついてからのお•た•の•し•み♡」

楽しそうに笑うジークフリートは既に通常通りに戻っており……。

アンナは冷や汗が止まらない。

「俺、もう寝るな?おやすみ」

ジークフリートは一方的にそう言うと、部屋を出て行ってしまった。

(………嘘…)

残されたアンナは赤面しながら、そこに立ち尽くす。

一応、夫婦ではあれど…一日目の夜、つい眠ってしまった以来、夜を共に過ごしたことはない。

夜更けの人が寝静まった頃、ジークフリートは自室に戻っていた。

それなのに……外泊するということは、夜を共にするということで。

アンナの心臓が痛いくらいに脈打つ。






「…………………どうすればいいのよぉっ……⁉︎」






アンナがその夜、緊張の余り寝れなかったのは……言うまでもない。


























◆◆◆◆◆










王都を出て、馬車で数時間ー。





昼を少し過ぎた頃に辿り着いたのは…郊外の森だった。

深いその森の奥に見えて来たのは、暖かさを感じさせる古めかしい屋敷だった。

馬車はゆっくりとその屋敷の前に止まった。

「…………わぁ……」

アンナは馬車の窓から見て、感動した声を出す。先に降りたジークフリートが手を差し出した。

「お手をどうぞ?」

ジークフリートに手を引かれて馬車を降りる。近くで見ると、可愛らしいお屋敷だった。






「「おかえりなさい、ジークフリート坊ちゃん」」






ギィィィィィイ……。

正面の玄関扉が開き、中から白髪交じりの老夫婦が現れた。杖を突いたお爺さんに、そのお爺さんの手を引くお婆さんだ。

アンナはその二人が言った言葉に目を見開く。

(………ジークフリート…〝坊ちゃん〟……?)



「ただいま…アルゴ、シュリー」



隣にいるジークフリートが穏やかな声で老夫婦の名前を呼ぶ。

ジークフリートはアンナと手を繋ぎながら、二人の前に歩み寄った。

「あらあら…そちらのお嬢さんはどうしたのですか?」

お婆さん…シュリーがアンナを見て、驚いた声を漏らす。ジークフリートは「あぁ…」とアンナを見つめる。

「この子はアンナ。俺の妃だよ」

「は…初めまして……アンナと言います」

アンナが慌てて頭を下げる。

「ふぉふぉっ…まさか…坊ちゃんのお嫁様でいらすとは……お顔に触れてもよろしいですかな?」

「え…あ……はい…」

お爺さん…アルゴはアンナの顔に手を添える。そして、輪郭を辿るように指先で触れた。

「お綺麗なお顔をしてらっしゃる…きっと素晴らしい娘さんなのでしょうな」

「えぇ…とてもお綺麗なお嬢さんですよ、お爺さん」

アンナはアルゴの様子に目を見開く。

アルゴは「ありがとう…失礼致しましたな」と言うと、手を離した。そして、頭を下げる。

「わたしはアルゴと申します。ジークフリート坊ちゃんを幼少の頃からお世話させて頂いた者です。こちらは妻のシュリーです」

「よろしくお願い致しますね…アンナ様」

柔らかで暖かな笑みを浮かべる老夫婦。

アンナはアルゴとシュリーの話に目を見開いた。ジークフリートはお屋敷を見ながら、口を開いた。






「昔、身体が弱くてな。王宮じゃなくて、ここでアルゴ達と暮らしてたんだ。要するに…二人は育ての親ってことだな」






「……………えっ…」

振り返った先の光景に…アンナは言葉を失くした。






ジークフリートの……その横顔が…とても悲しそうに見えたからだ。






「お疲れでしょう。早く中にお入り下さいな」

シュリーに支えられたアルゴがそう言って、杖を突きながら屋敷の中に歩いて行く。

二人の後ろ姿を見ながら、アンナは呆然とする。

「アルゴは目の病気で失明してしまったんだ」

アンナが質問する前にジークフリートが答えるように先に説明する。

「シュリーがアルゴを支えて、二人っきりでここで暮らしてる。なるべく、来ようとしてるんだが…やっぱり仕事が忙しくてな」

「………」

「……出来れば…俺の大切な人達だから……アンナにも仲良くなって欲しいんだ」

アンナは息を飲む。

目の前のジークフリートは…迷子みたいだった。

迷子のような印象を受けた、というか………それだけ…消えそうな笑顔だったのだ。

アンナは繋がれていた手を強く握り返す。

そして…拗ねたように頬を膨らませた。

「……別に…ジークに言われなくても仲良くするよ?」

「…………」

「………私が仲良くしたいよ」

ジークフリートに頼まれたからじゃない。自分の意思で、ということを示したかった。

それを察したのか、ジークフリートは嬉しそうに笑う。

「…………ありがとな」

二人は手を繋いだまま、御者から荷物を受け取り…屋敷の中に入って行った……。































「ジークフリート坊ちゃんがお嫁様を連れて来られるとは…このアルゴ、生きていて良かったです」

広間の椅子に座ったアルゴは嬉しそうにそう言う。

シュリーもそれを見て嬉しそうだ。

「アンナ、で大丈夫ですよ?アルゴさん」

「いえいえ…坊ちゃんのお嫁様ですから」

真面目な顔でそう言われてしまった。

「俺もいい加減…〝坊ちゃん〟は止めて欲しいんだけどな…」

「ふふふっ…無理でございますよ、坊ちゃん。坊ちゃんはわたくし達の大切な方ですからねぇ」

ゴネるようなジークフリートの言葉を、やんわりと拒否するシュリー。そういう所が、流石は育ての親…反論出来ない空気を醸し出していた。

「そういえば…お昼はお食べになりましたか?」

アルゴが気づいたように聞く。ジークフリートが「あぁ」と答える。

「馬車の中でサンドウィッチを食べたから、大丈夫だ」

「では…夕飯は坊ちゃんが好きなものをお作り致しましょうねえ」

シュリーが上品に微笑む。それを聞いたアンナは「あのっ…」と声を上げた。






「私も…手伝っていいですか…?」






恐る恐るといった様子でシュリーを見る。

シュリーはキョトンと驚いたような顔をしていた。

「あらあら…アンナ様のお手を煩わせるようなことではありませんよ…?」

「そんなことないです‼︎その…ご迷惑ならいいのですが……私も…手伝いたいので……」

「……………」

そう言った瞬間、シュリーは薄く目尻に涙を浮かばせる。そして…とても嬉しそうに微笑んだ。

「迷惑だなんてとんでもない…とても嬉しゅうございます、アンナ様」

「………そんな…」

そこまで喜んでもらえるとは思わなかったから、アンナは慌ててしまう。

それを聞いていたアルゴも嬉しそうに微笑む。

「坊ちゃん…とても素晴らしい娘さんをお妃様に致しましたね……こんなに心優しい方が坊ちゃんの伴侶様で…わたしもとても嬉しゅうございます」

「…………」

そう言われたジークフリートは動きが止まる。そのまま、無言のまま硬まってしまった。

その頬がジワジワと赤くなっていく。

それを見たシュリーが「あらあら…」と自身の口に手を添えて、驚いた声を出す。

「坊ちゃんが照れてらっしゃるなんて珍しい……」

「…………そんなこと…」

「昔はもっと達観していらしたじゃありませんか」

「………………シュリー…」

ジークフリートが低い声を出す。その声で彼の気持ちを悟ったシュリーはおかしそうに笑いながら謝罪をする。

「失礼致しましたわ、坊ちゃん」

「……アルゴさん、シュリーさん」

しかし…アンナはそれを見逃さなかった。

「如何されましたかな?」

そして……アンナはとても満面の笑顔で笑う。






「ジークを恥ずかしがらせたいので、ジークがいない時に昔話を聞かせて下さいね♡」






「「ほぇ…」」

アルゴとシュリーが素っ頓狂な声を出した。

ジークフリートもキョトンとした顔をした後…さっきとは比べものにならないくらいに真っ赤になってアンナを睨んだ。

「………………アンナ〜っ…⁉︎」

隣に座る彼は恥ずかしさに震えていた。

それを見たアンナはニヤッと悪い笑みを浮かべる。

その顔は…いつものお返しとばかりに悪そうな顔をしていて……。

「………………まぁ…ふふふふっ…」

「はっはっはっは……坊ちゃん…これはとてもとても素晴らしいお嬢さんでございますなぁ」

アンナの言葉に老夫婦は笑いを抑え切れなかった。

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ‼︎」

そんな中で…ジークフリートだけが声にならない悲鳴を上げて…その後、静かに怒気を孕んだ雰囲気を醸し出し始めた……。






「………あぁ…本当…俺には勿体ないくらいにい子だよ……‼︎」






(…………………あ…やらかした……。)

その一言で…アンナの気持ちが冷える。

………後悔するのはもう、遅かった。

ジークフリートがとっても爽やかに微笑んでいた。




背景バックが超絶ブラックで。




アンナはプルプルと震え出す。

さっきまでの威勢はどこへやら……久しぶりの悪魔降臨ならぬ魔王降臨に、アンナは動揺を隠せない。

ジークフリートはアンナの耳元に唇を寄せる。二人に聞こえないくらいに小さなドスの効いた声で…囁く。











「…………………先に喧嘩売ったのはお前だから……夜…覚悟しとけよ……?」











「………………っ…」

アンナの喉が恐怖の余り、ゴクッと鳴る。

仕返しのつもりが…自分で自分の首を絞めたことを後悔せざる負えないアンナであった……。































夕飯前の時間ー。



キッチンではアンナとシュリーが夕飯の用意をしていた。

ジークフリートとアルゴは広間で夕飯が出来るのを待っている。

今日の夕飯は、色鮮やかなサラダに暖かな野菜のスープ。メインは香草ハーブチキンでデザートには木の実のパイを焼いていた。

「坊ちゃんは木の実のパイがお好きなんですよ」

「そうなんですか?」

石釜オーブンを見ながら、シュリーが話す。

「はい。幼い頃はよくねだられたものです」

幼い日のジークフリートがそんな可愛らしいことをしていたのか…とアンナはクスクス笑ってしまう。

それと同時にどうして悪魔あぁまで育ってしまったか……悲しい気持ちにもなる。

そして…この後のことを考えたら、小さく身体が震えた。

そんなアンナの様子に気づいていなかったシュリーは悲しそうに眉を寄せる。



「………ですが……それ以外は一切、文句も何も言われない方でした」



「…………………え?」

「……いくらどんなことをおっしゃっても良いんですよ…と言っても子供らしい願いは一切言われませんでした」

シュリーは昔を思い出しているのか…悲しそうに呟く。






「坊ちゃんは…自分がいらない子だと思っておられたんでしょうね……」






「……………え…?」

アンナの声にシュリーはハッとする。そして、慌てて首を振った。

「辛気臭い話をしてしまいましたね…わたくしの口から坊ちゃんのことを話してしまうのはダメでしょう」

「………………ぁ…」

ジークフリートは昔のことを話して欲しくないかもしれない。だから、勝手に聞いてしまうのは間違っている。

アンナは「ごめんなさい」と呟く。そして、ニコッと笑い掛けた。

「ジークには…自分で聞きます」

「…………申し訳…」

シュリーが深々と頭を下げようとしたのを、アンナは止めた。

「謝らないで下さい‼︎大丈夫ですから。それに……」

顔を上げた彼女に…アンナは柔らかく微笑む。






「私はジークの妃です。ジークが本音を話してくれて……少しでも心の重荷を下ろさせるのが……夫を待つのが仕事ですから」






「………………」

そう言ったアンナの顔が先程のジークフリートに負けないくらい赤くなっていく。

(私っ……何言ってるのー……っ⁉︎)

アンナは困惑していたが…目の前にいるシュリーは、自分のことのように嬉しそうに涙を浮かべるのだったー……。








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