番外 ある年の夏の日
作者の急病(夏バテ、夏風邪、腹痛、腰痛の4コンボ)につきまして…今月は短い番外一本のみになってしまいます。
楽しみにして下さっている皆様、申し訳ありません。
今後ともよろしくお願いします
これは…ある暑い日のこと。
執務室に呼ばれたアンナは、最早ブラウスを肩に掛けるだけのジークフリートに赤面しつつ、彼の言葉に首を傾げた。
「えー…只今より、納涼祭を開催しまーす」
ジークフリートが気怠げに呟く。
アンナは「納涼祭……?」と不思議そうに首を傾げた。
「熱い。素直に熱い。ならば納涼祭だろう?」
「あの……えー…?」
確かに今日はとても暑くて…王宮内もにやる気の無い空気になっている。
「という訳で……はい、ロウソク」
「え?」
渡されたのは火のついていないロウソク。
意味が分からずに更に首を傾げた。
「海外の行事(?)のようなものでな…怖い話をした後にロウソクを消すそうだ」
「それ納涼祭じゃないわよね…?」
「それじゃあ行きまーす」
こうして、第一回…〝納涼祭という名の怪談大会(ロウソクは危ないから止めました)〟が始まった……。
あれは……俺が幼い頃の話だ。
この王宮の地下には牢獄があってな。
父には『そこに近づいてはならん』と口を煩く言われていたんだ。
でも…ガキってのは駄目と言われたらその分だけしたくなるタチでな。
ある日…近づいてしまったんだ。
薄暗くジメジメとした地下。
独特で嗅いだことのないような匂い。
仄かに聞こえる声は……呻き声のようにも聞こえて。
でも、その時ふと思ったんだ。
地下には誰もいない筈なのに…なんで声がするんだって。
声の方へと歩み進めて……そして……。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁあっ⁉︎」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁあっ⁉︎」
暗幕を閉めて灯りも一つだけにして、薄暗くなった執務室で、ジークフリートが大声を上げるものだからアンナも悲鳴を上げてしまった。
涙目で睨むと、彼はケラケラと楽しそうに笑っていた。
「そこにあったのはなぁ〜地下工房で」
「ちっ……地下工房……⁉︎」
「発酵食品とか作ってたんだよ。酒とかな」
「…………………へ?」
悪戯を成功された子供のように笑いながら、彼は頷く。
「子供の俺が近づくなって言われたのは…酒を作ってるとアルコール臭が充満して酔っちゃうから……っていう、怪談っていうか昔話っていうか……そういうオチなんだけど」
「〜〜〜〜〜〜っ‼︎」
アンナは頬を膨らませながら、彼の身体をベシベシ叩く。
ジークフリートはそれさえも楽しそうにしているのだから、腹が立つ。
「次は私ねっ‼︎」
私が下町にいた頃……こんな噂がたったの。
〝男の亡霊が…恋人を探して夜深くに彷徨う〟って噂。
なんでも…外套を被った幽霊みたいな男が「どこにいるんだ……」って呟きながら彷徨っていたのだって。
果物屋のおじさんが、その亡霊らしきモノに遭遇した時……声を掛けようとして、その肩に触れようとしたら。
次に目が覚めた頃にはもう朝で。
町の人に何をしているんだと声を掛けられて、目が覚めたんだって……。
それから直ぐに私は王宮に来ちゃったから、その亡霊がどうなったかは知らないんだけど……ね……。
「………………」
「どう⁉︎怖いでしょっ⁉︎」
少しドヤ顔で言ったが…ジークフリートが訝し気な顔をしていて、アンナは眉を顰めた。
「…………何…?」
「………いや…その亡霊って外套をしてて、夜中に彷徨いてたんだろ?」
「そうだよ。噂じゃ若い男の声だったって」
顎に手を添えて…彼は意を決したように顔を上げた。
「……………それ…俺かも……?」
苦笑するジークフリートに…アンナは呆然とした。
「……………………はぁっ⁉︎」
「いや…多分、それ王妃(仮)探ししてた時のことだと思うんだ。顔は覚えてないけど…触れられそうになって条件反射で人をぶん投げた記憶があるし」
「…………………」
亡霊の噂の正体が目の前にいるなんて…アンナは頭を押さえて、溜息を漏らした。
「まぁ…多少は涼しくなったか」
「うん」
「国王陛下ぁぁぁぁぁあ?」
「「…………‼︎」」
ギィィィィイ……。
執務室の扉が重々しく開いて…鬼の形相のグランドが顔を覗かせる。
「なぁにサボってんですかぁぁあっ‼︎」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁあっ⁉︎」
暑い中…激務をしていたグランドと、サボっていた国王。
キレたグランドはまさに……。
どんな怪談より怪談だったー……。




