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国王陛下の誕生日










ジークフリートは自室で式典用の服に身を包み、鏡に映る自分を見ていた。

今日はジークフリートの誕生日。

生誕祭なんてものは面倒でしかないのだが…愛しいアンナからの誕生日プレゼント(ご褒美込み)を想像すると誕生日も悪くないと思ってしまう。

「………こんな風に思う日が来るなんてな……」

呆れたような困ったような顔で呟く。

自分がこんな風に思うなんて、思いもしなかった。

産まれたことを後悔するような日々だった。なんで生きているのか?

なんで産まれたのか?

何度も逃げようとしたが…逃げたら、死んだ二人に申し訳がなくて。ずっと苦しんでいた。

でも…今、こう思えるのは…それだけアンナが自分を変えてくれたということで。

「………一体…俺はどれだけアンナを好きになれば済むんだろうな……」

呆れにも似たような溜息を吐きながら、ジークフリートは鏡に額をコツンッとつける。


昨日よりも今日。


今日よりも明日。


ドンドン、好きになる。


好きに際限がない。


何度も何度も…アンナに恋をして。


恋が深まって……愛おしくてたまらない。


そう思うと、じわりと頬が熱くなった。

ジークフリートは溜息を吐くと、自身の頬を軽く叩く。

今日は生誕祭の後には、アンナの実母との面会があるのだ。アンナの家族に挨拶をしなくてはならない。

こんなにだらしがない顔をしていて…アンナの夫として認めないと言われたら、どうにかなってしまいそうだ。

普通…結婚するときは、相手のご両親の許可を取るものだが、そんなことをしないでアンナと結婚した。つまり…正式な顔合わせは初めてという訳だ。

認めてもらいたい。

アンナを預けても大丈夫だと安心して欲しい。

グランドによるアンナの家族についての調査は既に終わっており…報告書も事前に受け取り、目を通し終えていた。

だが…そんなの関係なしで、妻の家族である彼女らにじぶんを認めてもらいたかった。




アンナを……大切にしたいから。




「………やっぱ…変わったよな……」

鏡に映る自分の顔は人間味のあるもので。

全ては愛しいアンナが教えてくれたことだ。






「よしっ……頑張るかなっ……‼︎」






ジークフリートは不敵に微笑むと、その場から立ち去ったー……。


















*****









ジークフリートの生誕祭はそれは盛大なものだった。国民達は楽しそうに祭りを楽しむ。

当の本人は、昼間は教会に篭り…法王の洗礼を受け、夕暮れ時に王都を凱旋した。

そして…夜の帳が降りる頃、王宮では生誕祭が華やかに行われていた。



各いう…アンナはというと……。

「……………………緊張する…」

清楚系のメイクと生誕祭用の白地に金の刺繍のされたドレスを身に纏い…控え室で呻いていた。

「我慢してね、アンナ」

「お姉ちゃん……」

男装姿ではなく…華やかなクリーム色のドレスを見に纏ったクリスティーナはアンナの側でそのドレスの着付けをしていた。

このドレス…言うなれば、教会の作ったドレスと言えるもので……王妃の役目…生誕祭の最後に国王陛下に祝福をするという伝統をするための衣装らしい。

「いや…でも……なんで…最初にジークに祝福キスをするの……」

「昔ながらの伝統なのよ?国王陛下に取って最高級かつ一番初めに贈られる誕生日の贈り物といえば……それは王妃の〝変わらぬ愛〟っていう意味なのよ」

「だからって……公衆の面前でっ…‼︎」

「我慢、我慢」

「うぅぅぅ……」

アンナは逸る胸を押さえつけるように、胸元に手を添える。

別に…ジークフリートとキスをするのは嫌ではないが…人前だと恥ずかしい。

「国王陛下とはその時まで会えないけど…きっと喜んでくれるわよ」

「………それも…伝統?」

「そうよ?ある意味、サプライズなのよ」

クリスティーナはジークフリートにその時まで会えず、悲しそうにするアンナを励ますようにそう言う。

「大丈夫……きっと上手くいくわ」

「…………うん…」

そうして、アンナはその時までクリスティーナと共に控え室で待機するのだった。























*****












ジークフリートは厳かな雰囲気に満たされた大広間の王座に座りながら…他国の使者、その他諸々から祝いの言葉を受け取っていた。

《祝福の儀》が終わるまでは静かに待つのが、伝統だ。他国から来た者にはそれを強要する気はないが…自国の貴族などは、それが終わるまで国王陛下には挨拶をしようとしなかった。

そんな挨拶も少し落ち着いた頃……側で控えていたグランドは感慨深そうに溜息を漏らした。

「どうした?グランド」

「…………いえ…随分と長いように感じましたが…そうでもなかったと思いましてね」

グランドが言おうとしていることはなんとなく理解出来た。

アンナと結婚してから今日まで…時間にしてはそれ程経っていないのだが、今までの人生とはまるで違う濃い時間を過ごすことが出来た。

「そうだな」

「ジークフリート様が…アンナ様のお陰でとても変わられたのは、喜ばしいことです」

グランドはそう言って優しく微笑む。

国王になってからずっと使えてきてくれた相棒みたいな存在だ。

グランドからしたら、昔と今のジークフリートは全然、別人なのだろう。

「そうだな…アンナがいてくれたから…俺は……前を向けることが出来た」

「はい」

「なぁ、グランド」

「なんでしょうか?」

ジークフリートは少し困ったように笑いながら、優しい目を向ける。

「俺の人生みちは…アンナがいてくれたから、輝き出した」

「はい」

「でも、それはアンナだけじゃなくて……ミレーヌ…エスト…アルゴ、シュリー…クラウスやクリスティーナ……メリッサ……それにグランド。お前がいてくれたからでもあるんだ」

「…………っ‼︎」

ジークフリートは不敵に微笑む。

グランドも嬉しそうに微笑んで…恭しく頭を下げる。

「これからも頼むぞ」

「…………………喜んで、我が主」

ジークフリートが満足気に微笑むと…どっかの国の偉い軍人が挨拶にやって来る。






それっきり話は終わってしまったが……二人は晴れやかに微笑んでいた。
























*****














「それでは…《祝福の儀》を行います」







クラウスが法王の正装を身に纏い、そう告げる。

(とうとうだっ…‼︎)

アンナは大広間に繋がる大扉の前で深く溜息を吐く。その場まで付き添ってくれたクリスティーナは「頑張って」と微笑む。アンナが頷いて返事を返すと…ゆっくりと大扉が開いていった。

アンナは一歩一歩…大広間へと歩を進める。

「…………………っ…‼︎」

そのアンナの姿にジークフリートは息を飲んだ。

教会が用意したドレスに身を包んだアンナは…まるで花嫁のように美しくて…その場にいた者は見惚れた声を漏らす。

厳かに…花婿ジークフリートのいる元へ向かうようにアンナが人の花道を通って歩いて来る。

そこに《悪女》なんていう強かそうな王妃はいない。

まさに…純粋無垢そうな……柔らかくな笑みを浮かべて、恥ずかしそうに頬を赤らめていた。

「………ジーク様…」

「………アンナ…」

ジークフリートは側に寄ったアンナの手を取り、彼女を見つめる。

折角ここまで折れそうな心に訴え掛けてここまで来たのに……ジッと見つめられるものだから、アンナは恥ずかしそうに目を伏せた。

「……………こんなの…やっぱり…恥ずかしい……」

そう呟くと…ジークフリートは困ったように微笑んだ。

「………恥ずかしがり屋だな…綺麗なのに……」

「……うっ…煩いっ……‼︎」

緊張の所為で涙目になっているのか…アンナは恨めしそうに上目遣いでジークフリートを睨む。

「…………煽ってるのか?」

「いいからっ…早くキスしようっ…‼︎」

「おねだりみたいだな……」

「馬鹿っ…‼︎」

意地悪くするジークフリートにアンナは益々、赤くなる。

クラウスが二人を見ながら、両手を広げた。

「では……最愛の者に祝福を……」

そう言われて、アンナは自分から軽くジークフリートの唇にキスをする。

しかし…それじゃ満足しなかったジークフリートがアンナの後頭部を押さえて、貪るようなキスをする。

「んっ…⁉︎」

どれ程そうしていたのか…一瞬のような数十秒なような時間の後……目の前でジークフリートは悪魔のように恍惚とした笑みを浮かべる。

「…………………ありがとう、我が妃よ」

「……………っっっ……‼︎」

次の瞬間、大広間からは歓声が上がった。

それを合図に生誕祭は賑やかなものになる。

この国の者達が一斉に挨拶を開始する。

アンナはジークフリートの隣に立ち、それを微笑んで聞いていた。

その時……。






「…………………アンナ…?」






国王陛下に挨拶にやって来た女性の姿。

その隣には…人の良さそうな老紳士がいた。

アンナは少し苦笑しながら、ドレスの裾を摘んで頭を下げる。

「あの日振りです、お母様・・

そう…そこに立つのはアンナの母親、エレノアとその夫のガルディだった。

「………エレノア…?…一体……」

ガルディが困惑気味の顔で二人を交互に見つめる。

微妙な沈黙を破ったのは、ジークフリートだった。

「先日は失礼致した、お義母様」

「……………えっ…⁉︎」

「改めて…我が名は国王ジークフリート。詳しい話は使いをやった通り…生誕祭の後に王宮の休憩室レストルームで話そう」

「えっ……えぇ……」

エレノアは呆然としながら頷く。

その後、二人は典型通りに国王陛下に挨拶を済ませて去って行く。

去り際、エレノアが困惑した顔でアンナを見つめていたが…アンナはそれに気づかないフリをした。

「まさか、ちゃんと話す前に会うなんてな」

「仕方ないよ。お母様は…貴族の妻だから」

「………だな…」

ジークフリートは慰めるようにアンナの頬を軽く撫でる。

その時…流れる音楽が変わった。ジークフリートはそれに気づいて、アンナに笑い掛ける。

「踊るか?」

「えっ⁉︎」

唐突な言葉にアンナは後ずさる。

「一応、踊れるだろ?」

「……グランドさんに…一応は習ったけど……」

妃ゆえに人前で踊ることもあるかもしれない…と初めの頃、ダンスは習った。

「そんなに上手くないわ」

「いいさ、気にしない」

ジークフリートは片膝をついてしゃがみ込むと、アンナの手を取りその甲に軽い口づけをする。






「……踊って下さいますか?マイ•レディ?」






余りにも真剣で…自然な仕草でするものだから…アンナはその格好良さに頬を赤くする。

「………喜んで……」

そう答えると…アンナはジークフリートに連れられて大広間の中心に向かう。

音楽に合わせてステップを踏み始める。

ジークフリートがリードしてくれるお陰で…アンナはとても踊りやすかった。

身体と身体が密着した状態で…見つめ合いながら、踊り続ける。

恥ずかしくても……嬉しくて。

アンナはふわりと微笑む。その笑顔にジークフリートは、キョトンとした。

「どうした?」

「……なんか……ジークと一緒にいられて……嬉しいの」

「…………………」

ジークフリートは分かりやすい溜息を零すと……少し照れたように頬を膨らませる。

「俺だって嬉しいよ」

二人だけの世界になっていたアンナ達は気づいていなかった。

とても仲睦まじく踊る国王夫妻に…あの噂を思い出す。






王妃は国王陛下を誑かす《悪女》である。






でも…そこにいるのは、全然《悪女》に見えやしない……普通の王妃で。

あんなに…幸せそうで、国王陛下ジークフリートに恋をしているような顔が…国王陛下を騙すために王妃になった人間に出来るはずがない、と思わせるには充分だった。







そして……この日の姿が…人々の間では……少しずつ《悪女》の噂が…間違いであったと広まり始めるきっかけになるのだった。


























*****











生誕祭が無事に終わった後…アンナ達はとある休憩室レストルームの一室に向かっていた。

扉を開けると…そこには既に、エレノア、ガルディ、後から来たらしいレノンとルーがソファに座って待っていた。

「おにいちゃんっ‼︎」

「やぁ、ルー…また会ったな」

ルーはその緊迫した空気に似合わない笑顔を浮かべる。

アンナとジークフリートは向かいのソファに座ると、エレノア達を見つめた。

「先程も話した通り…わたしは……国王だ。アンナは我が妃ということになる」

「…………っ……‼︎」

その言葉にエレノア達…ルーを除いた三人が驚愕の顔になる。

「今回…このような場を設けたのは、以前…お義母様が我が妃に共に暮らしたいと進言なされたからだ」

「…………それは…」

「最初にはっきりと言っておこう。我が妃を連れて行くことは叶わぬ」

「……………ぇ…‼︎」

ジークフリートが有無を言わさぬ笑顔で微笑む掛ける。

「何を驚いている?国王の妃なのだ。簡単に我が元を離れることは出来ないだろう?」

「………それは…そうだけれどっ…‼︎……私達は家族なのよっ⁉︎一緒に暮らした方がっ…‼︎」

「…………………は?」

その言葉にジークフリートがドスの効いた声を漏らす。その顔は完全に怒気に染まっていた。

「………今更ながらに…家族・・…だと?」

「そっ…そうでしょうっ…⁉︎血の繋がった……」

「寝言は寝て言えよ」

ジークフリートはエレノアが言い切る前に一蹴する。アンナはそんなジークフリートを呆然と見つめていた。

「……血の繋がりがある…確かにそれは家族だ。でもな…だからって……小さい自分の家族こどもを置いていくことが出来るのか」

「それはアンナが〝行って〟って……‼︎」

「それが子供の強がりだと気づかなかったのか」

「………………えっ…⁉︎」

エレノアは困惑した顔でアンナを見つめる。

「アンナは…貴女の幸せを願った。本当は置いて行って欲しくないという我儘を我慢したんだ。普通、親ならばその本音・・に気づくべきだったんだ」

「……そんなの……嘘よね……?アンナ…」

「現にアンナに取って貴女と暮らすことは…他人事に過ぎないんだ。それはそうだろう?まだ生き方も知らない子供が生きるために、苦しんで…精一杯ここまで来たんだ。そもそも…そんな苦しい時に親がいない。寄る辺ない一人だ。今更、一緒に暮らそうなんぞ…虫が良すぎる」

「………っ…‼︎」

ジークフリートの言葉に…アンナは自分が思っていた気持ちに気づいた。

彼が…アンナの気持ち気づかせてくれた。

(……私……苦しかったんだ……)

あの時…行かないでと言えたなら。

もし、行かないでと言えたなら……アンナはずっとエレノアといれた。でも、エレノアは……自分を置いてガルディの元に行きたいという顔をしていた。

言葉にしていなくても……態度で分かってしまった。

いつもいつもガルディの話ばかり。恋する乙女のように…嬉しそうにするエレノア。

だから……自分が邪魔なんだって悟って……断ることなんて…子供の自分が考える訳なかった。

だけど…せめてもの自尊心で大丈夫だと強がった。

そんな…自分の恋を選んだ母親が今更、恋のために捨てた自分と一緒に暮らそうなんて言われて……あの時の決断はなんだったんだって悲しくて…一緒に暮らそうなんて言うならば…あの時でも良かったじゃないかって憤りを覚えて……苦しかったんだ。

でも…今、アンナの大切な人が……アンナの気持ちを大切にしてくれて…自分の代わりに怒ってくれた。

そう思うと…苦しくて押し潰されそうな心が、少しだけ軽くなる気がした。

「………………お母さん」

「…………アンナ…」

「私はお母さん達とは暮らせない。私は私の家族の元で幸せになるから」

「……………なっ…‼︎」

アンナは隣に座るジークフリートの手を握り、ニコリと微笑む。

「余り…調子が良いこと言うなよ?」

『……………っ…‼︎』

その言葉遣いにアンナ以外の全員が目を見開く。愕然とするエレノア達に比べて…ジークフリートは一人、爆笑していた。

「あはははっ…流石っ……」

「……ジーク…笑い過ぎ…」

「すまん、すまん……お前はどれだけ俺を惚れさせれば良いのだろうね?」

「こんな時まで惚気るなっ……‼︎」

ジークフリートは真っ赤になりながら唸るアンナの額に軽くキスをすると、向かいの四人に冷たい笑みを浮かべた。

「まだ何かあるか?」

「そんなの……姉さんが悪い」

「……………え?」

レノンが冷たい声でアンナに告げる。

「そう言うなら、行かないでと言えば良かったじゃないか」

「それはお前が必要とされた人間だからだろう?」

しかし、それもジークフリートがドスの効いた声で一蹴する。

「お前は自分が必要じゃないと実感した時があるか?ないだろ?お前は母親に許されて連れて行かれたんだから」

「何を……」

「自分は必要じゃない……害でしかない人間なんだと実感した時の絶望が分かるか?」

ジークフリートの乾いた笑みにレノンは目を見開く。その威圧に押されていた。

「苦しくて…死にたくなるんだ。それを自分の母親に告げられんだぞ?その絶望は計り知れない……それでもここまで生きてきたアンナはとても美しくて強い。お前にそんなことが出来るか?」

レノンは押し黙る。ジークフリートはそれを見て頷くと、ニコリと微笑んだ。

「では……アンナはお前達とは共に暮らさないということで……」

「待って下さい‼︎国王陛下‼︎」

しかし、今まで黙りを決め込んでいたガルディが立ち上がりながら声を上げる。

ジークフリートは険しい顔をしながら、ガルディを見た。

「なんだ?」

「エレノアは悪くないのですっ…わたしが……いらないと言ったから…」

「でも、それを受ける程にアンナの母親殿は貴方に惚れていたのだろう?断ることが出来ないようにアンナに話したのは…エレノア殿だ。それでも悪くないと?」

ガルディはジークフリートの言葉に何も言い返せない。それはジークフリートの瞳が鋭く怒気を放っていたからかもしれない。

「何を言おうがアンナは俺が幸せにするんだ。アンナの家族に認めてもらいたくてこのような時間を設けたが…もう認めてもらわなくてもら構わない。俺はアンナを幸せにする。それだけは宣言する」

「…………ジーク…」






「話は終わりだ…即刻立ち去れっっっ‼︎」






ジークフリートの大きな声が響くと、扉がノックされてグランドが入って来る。

「それでは…お送り致しましょう」

有無を言わさない笑顔でエレノア達は退散させられる。

二人だけで残されたその場所で…アンナはジークフリートの首に腕を回して、強く強く抱き締める。

「あっ…アンナ…⁉︎」

「………すっきりした」

「…………え?」

「ごめん…少しだけ…こうさせて……」

ジークフリートは目を見開く。

アンナの身体が震えていて…嚙み殺すような嗚咽が聞こえていた。

「……幾らでも構わないよ」

静かに……アンナだけの嗚咽がその部屋に響く。













互いの心臓の音を聞きながら…二人はいつまでも…抱き締める合っていた……。














アンナが散々泣いた後、ジークフリートは彼女を抱き上げて、国王の部屋に連れて来た。

「ごめん…なんか……雰囲気ぶち壊しなんだけど……誕生日プレゼント…持って来ていい?」

目尻を赤くしたアンナはそう言いながら首を傾げる。そんな彼女の頭を撫でて、ジークフリートは優しい笑みを浮かべる。

「別に…無理に持って来ようとしなくても大丈夫だぞ?」

そう言うとアンナは不服そうに拗ねたように頬を膨らませた。

「だって…ジークのために頑張って作ったんだもの」

「俺のために?」

「そうだよ。持って来るね?」

アンナは直ぐにその部屋から出て行く。

暫くして戻って来たアンナの手には、ラッピングされた袋があった。

「お誕生日おめでとう、ジーク」

嬉しそうにアンナが差し出す。それを受け取り、中を開くと……二つの焼き菓子が入っていた。

「アンナの…手作りか?」

「そうだよ。美味しくなかったらごめんね?」

「美味しくない訳ないだろ‼︎」

ジークフリートはそう言って嬉しそうにパウンドケーキを口に運ぶ。

「美味いよ」

「……本当?」

「嘘ついても仕方ないだろ」

苦笑するジークフリートは瞬く間にパウンドケーキを平らげる。そして…直ぐに木の実パイも頬張ると……同じように瞬く間に食べ終えてしまった。

「美味かった…ご馳走様」

「良かった…」

ジークフリートの満足気な笑みにアンナはホッとした。

「後ね………まだ、あるの」

「何がだ?」

少し恥ずかしそうにそう告げるアンナ。

ジークフリートはそんな彼女を見て首を傾げる。

「……………誕生日プレゼントっていうか…〝ご褒美〟…」

「……………っ…‼︎」

その言葉にジークフリートは息を飲む。

そんな彼の耳元に…アンナは恥ずかしそうに、口元を寄せた。

「………………………」

「……………っっ…‼︎」

小さな声にそう囁かれて、ジークフリートは悶絶する。

「………………それ…本当に……?」

「……………うん…」

「本当に……いいんだな……?」

試すような視線に…アンナは躊躇うことなく頷く。

「……………ジーク…好きよ?」

「………………もっと言って…」

子供みたいに愛を請うジークフリートは…甘い笑みを浮かべながら、アンナの身体をゆっくりと押し倒す。

「……………大好き…」

「………うん…」

優しい口づけの雨が降る。

何度も何度も繰り返して…互いの想いを伝えようと、唇を重ね合う。











「愛してるよ…ジークフリート…」




「俺も…愛してるよ……アンナ…」











静かな夜の帳が二人を包む。

この日…二人はいつまでも離れることのない愛を誓い合った………。














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