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未来は有望、今は友人





少し短めです















ジークフリートの誕生日の朝…アンナは朝から早起きして、キッチンで何かを作り始めていた。

「……だっ…大丈夫ですか…?王妃様…」

アンナの後ろではシェフが心配そうにあっちに行ったりこっちに行ったりをしていた。

アンナはボウルと泡立て器を置いて、ニコリと微笑む。

「大丈夫ですよ。朝早くからすみません」

「いえっ…そのようなことは……ただ、怪我をなされたら…」

「大丈夫です。お菓子作りは慣れてますから」

そう…アンナが作っているのはシュリーお手製の木の実パイだ。

誕生日だから、ジークフリートの好きな物を作ってあげたいと思ったのだ。それだけでなく…アンナの得意な果物のパウンドケーキも作っている。

だが…王妃自身がお菓子作りをしているのは、シェフに取っては珍しいのだろう。さっきから「怪我してませんか?」とか「大丈夫ですか?」とか何度も繰り返し聞かれる。

アンナは仕方ないかな、と思いつつも…プロであるシェフに後ろにいられることによるプレッシャーで…作り辛いな、とも思うのだった……。



















「………………出来た〜…」

テーブルの前に置かれた少し作り過ぎてしまった木の実パイとパウンドケーキを見て、アンナは満足気に頷く。

シェフも無事に終わったことに安堵の息を漏らした。

「お邪魔しました、シェフさん」

「いえ……」

アンナはラッピングという名の袋詰めまで終えるとお菓子を大事そうに抱えながら、頭を下げでキッチンを後にする。

(ジーク…喜んでくれるかな……)

アンナは頬を赤らめながら廊下を小走りで進む。

廊下の角を曲がろうとした時ー……。






「「わぁっ⁉︎」」






誰かとぶつかってしまい、その人が持っていた数十冊の本が空を舞う。

アンナも後方に倒れてしまい…じんじんとお尻を強かに打ちつけた。

「イタタタ……あっ⁉︎眼鏡は何処いずこっ⁉︎」

「痛い…」

アンナはお尻をさすりながら、ぶつかった人を見る。長い茶髪を二本の三つ編みにした少し地味な長いワンピースを着た女の人だった。

彼女は側にあった眼鏡を見つけると、それを掛ける。眼鏡の向こうで好奇心旺盛そうな赤茶色の瞳が輝いていた。

「いやいや…ぶつかってごめんよ。大丈夫だったかい?」

「う…うん……」

独特な喋り方の彼女はニパーッと微笑む。そんな彼女は周りに散らばった本を見て、「ぎゃぁあっ‼︎」と悲鳴を上げる。

「図書館に蔵書する本がっ……‼︎」

「あっ…手伝うよっ‼︎」

「ごめんよ〜ありがとね‼︎」

アンナは袋詰めしてラッピングしたお菓子を置くと拾うのを手伝う。

二人で黙々と拾っていると…彼女がアンナを見て、笑い掛けた。

「あたしはフィルチェって名前なんだ。フィーって呼んでよ。国立図書館で司書をやってるんだ〜…君は?」

「私は…アンナっていうの」

「アンナ?王妃様と同じ名前だね」

「…………………あ…」

アンナは忘れてたというような声を漏らす。その声を聞いたフィルチェは「………ぇ…」と呆然とする。

「………まさか…王妃…様……?」

「………えーっと……」

アンナは気まずい顔を背ける。この空気の中では…否定出来る気がしなかった。

「……………………そうです…」

フィルチェの眼鏡がズルリッとズレる。なんとも言えない沈黙。アンナは今すぐ逃げ出したい気持ちになる。

そんな中でフィルチェはズレた眼鏡を押し直すと……。

「ウソォッ⁉︎あのちょ•う•ぜ•つ•っ‼︎《悪女》と有名なっ⁉︎」

「そんなに有名なのっ⁉︎」

「いや、昔程じゃないけど」

「どっちなのっ⁉︎」

フィルチェは興奮した様子でアンナの手を取る。

「いやぁ〜まさかこんな平凡・・なのが王妃様なんて‼︎ビックリだけど…王妃様と会えるなんてねぇ〜‼︎まさにビバッ‼︎キ•セ•キ•♡」

アンナは会ったことのないタイプのフィルチェの態度に困惑する。

「へっ…平凡なのに……信じるのっ…⁉︎」

王妃モードではない自分を信じてもらえるなんて…驚いてしまった。フィルチェは何を当たり前のことを言ってるんだ…と言わんばかりの顔で首を傾げる。

「え?オネーサン、可愛子かわいこちゃんの話は信じるゼ?でさぁ〜……出会って早々悪いんだけどさぁ〜お願いがあるんだ‼︎」

「なっ…何……⁉︎」











「あたしに王妃様のお話を書かせて欲しいんだっ‼︎」











「私の話…⁉︎」

狼狽するアンナにフィルチェはニカッと微笑み掛ける。

「あたし、司書として働いてるんだけど…作家としても働きたいんだ。だからね?王妃様と国王陛下のお話を書きたいんだ‼︎だから、聞かせてくれないかなっ⁉︎」

「私達の話を……?」

「だって何かあるだろ〜?全然、《悪女》らしくないし‼︎」

「えっ⁉︎」

アンナは彼女の言葉に思わず反応してしまった。フィルチェはアンナの握っている手と逆…本を抱えている方を指差す。

「だって……本当に《悪女》なら本拾いなんて手伝わないだろう?逆に…『なんで妾が手伝ってやらねばならないの?汚らわしい』とか言いそーじゃん‼︎」

「……………え…私ってそういうイメージなの……?」

「うんにゃ、あたしの偏見。でも、今少し接しただけで王妃様が超良い人だって分かったよ⁉︎」

「…………っ…‼︎」

そう言われてアンナは恥ずかしそうに頬を染める。

そんなこと、言われたことなかったからだ。

真っ赤になったアンナを見て…フィルチェは鼻血を出さん勢いで口元を押さえる。






「うきゃぁ〜照れてるの⁉︎超絶可愛いねっ⁉︎えっ…なにこの子‼︎超可愛いじゃん‼︎誰だよ、《悪女》って言ったの‼︎」






フィルチェが興奮気味にそう言う。

アンナは余計に恥ずかしくなるが…コホンッと小さく咳払いをすると、フィルチェに微笑んだ。

「今はジーク様の誕生日で忙しいけれど…日を置いたら、話してあげる」

彼女ならば、話したところで変なことにはしないだろうと……彼女のオーラのようなもので感じた。

そして…王妃と知りながらも、普通に接してくれるフィルチェの態度が嬉しくて……アンナは彼女を好ましく思った。

だからこそ……話してあげても良いかなと思い、そう答えた。それを聞いたフィルチェは目を輝かせながら、ガッツポーズをする。

「お?約束したかんね?守ってもらっちゃうからね?あたしが地獄の果てまで追いかけて行っちゃうんだからね?」

「言ってる内容が怖いわっ‼︎」

「嘘だよ、楽しみにしてる♡ありがと、王妃様‼︎もうここまで来たら友達だね‼︎」

「…………友達…‼︎」

アンナはその言葉をじんわりと嚙み締める。嬉しくて…泣きそうだった。

「あっ⁉︎王妃様に失礼だったかなっ⁉︎」

「ううんっ…嬉しい……‼︎友達になってくれる……?」

「………‼︎モチのロンだよ‼︎」

二人はニコニコと笑い合う。フィルチェはアンナを見て「ウンウン」と頷く。

「いやぁ〜あたしが男だったら、まず惚れてたね。ホの字だね。あたしのとこに嫁に来る?」

「ジーク様がいるのでご遠慮します」

「そこは即答なんだっ⁉︎そこら辺も次会った時に聞かせてねっ‼︎恋バナだよ‼︎惚気話だよ‼︎んじゃ、またねっ‼︎」

フィルチェは急いで残りの落ちた本を拾うと、軽くウィンクをして「アデュー☆」の言いながら図書館の方に歩いて行った。

「またねっ…‼︎」

その後ろ姿にアンナも声を掛ける。嵐のような彼女の後ろ姿を見つめて…呆然とする。

暫くその場に立ち尽くすと、床に置いてあった袋に目が向いた。

「…………………あっ…急がなきゃ……‼︎」

アンナは本を拾うために置いた、お菓子袋を手に取るとジークフリートの生誕祭の準備のため駆け出す。



























この出会いが…後に有名なこの物語を書籍化して、絶大な人気を誇る作家となるフィルチェとの出会いだったりするのだが……。








今の二人は、そんなこと知る由もないのだった……。











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