家族のカタチ
静かな部屋で…ジークフリートと横になりながら、穏やかな時間を過ごす。
大きな手に頭を撫でられていると気持ちが良くて…微睡みそうになるが、アンナは思い出したように顔を持ち上げる。
「………そういえば…誕生日パーティーがあるの?」
「……誕生日……パーティー…?」
「そう。お母さんが国王陛下の誕生日パーティーに出席するために来たって……」
「んー……?」
そう言われたジークフリートは瞬きを繰り返しながら、思い出すように顔を顰める。そして、少しするとハッと口元を押さえた。
「……………そうだった……」
そう言われて、アンナはなんとも言えない顔になってしまった。
「………いや…自分の誕生日でしょ…?」
「ほら…自分の誕生日って結構、気にしないだろ?」
面倒そうにそう言うジークフリートは顎に手を添えながら険しい顔つきだ。
「今、何歳だっけ……?」
その呟きにアンナは呆れたような溜息を吐く。
「二十五でしょ…」
「あー…じゃあ、次は二十六歳か……アンナとは八歳差になるのか?」
「なんでそこは覚えてるのっ⁉︎」
「ん?アンナの誕生日は祝ってやりたいと思ってたからなぁ〜…二ヶ月後だろ?」
(私の覚えてて自分の覚えてないって……)
アンナは嬉しいと思いながらも、なんとも言えない複雑な気持ちになる。
アンナは彼の頬を軽く摘みながら、拗ねたように頬を膨らませた。
「ジークが私の誕生日を祝いたいって思うのと同じように…私もジークの誕生日を祝いたいよ?」
「………………」
「ちゃんと教えてよねっ…‼︎」
そう言うと…ジークフリートは「うわぁ…」と声を漏らしながら、自分の顔を両手で覆った。
「ジーク?」
「やばい…恥ずい……けど嬉しい……あぁ、でも…こんなの初めて過ぎて死ねる……」
「何言ってんのっ⁉︎」
恥ずかしいことを言ってのけるジークフリートに真っ赤になりながらアンナは狼狽する。
真っ赤な顔のジト目でジークフリートがアンナを見つめた。
「……………どこまで俺をお前に惚れさせるんだよ……今のはアンナが悪い」
「えぇっ⁉︎」
「アンナ、好きだよ」
「わっ…私も好きだけどっ……いきなりの告白は止めてっ‼︎恥ずかしいからっ……‼︎」
互いに真っ赤になりながら見つめ合う。
そして…どちらとなく、笑い合う。
穏やかで…幸せな時間。こんな時間が過ごせるなんて……城下町にいたころは思いもしなかった。
「で?ジークの誕生日パーティーはいつなの?」
アンナは少し興奮気味で問う。彼は首を傾げながら、小さく唸る。
「えー……っと…五日後?」
「すっごく近くないっ⁉︎」
「だから忘れてたんだって……誕生日なんて後悔する日でしかなったからなぁ……」
ジークフリートはそう言うと少し翳った笑みを浮かべる。それを聞いたアンナは思い出す。
かつて、自分の所為で大切な人を亡くしたと言っていたジークフリートだ。
きっと…産まれたことを後悔する日もあったのだろう。苦しんでいた時もあったのだろう。
「ジーク」
「………んっ……」
アンナは…ジークフリートの唇に自分からキスをする。
呆然とする彼に微笑み掛けた。
「ジークが誕生日のことをどう思ってるから分からないけど……私は…ジークが産まれてきてくれて嬉しいよ」
「…………ぇ…」
「ジークが産まれてなかったら出逢えなかったもの」
ジークフリートの瞳から…ポロリと涙が溢れる。それを見たアンナはギョッとした。
「ジッ…ジークっ⁉︎」
「………やばい…もう…本当アンナ最強…俺、こんなに誕生日楽しみなの…初めてかもしれない……」
目尻を拭いながらそう言う彼は本当に嬉しそうで…そんな彼を見るとアンナも嬉しくなる。
「楽しみにしてて?」
「おう…〝ご褒美〟もあるしな?」
「…………あ。」
「家出騒動で有耶無耶になり掛けてたけど…法律改正が終わったらご褒美を貰う約束だったもんな?」
ニコニコと微笑むジークフリートは「忘れてないよなぁ?」と念を押す。
「誕生日だし?ご褒美も豪勢になるんだろうなぁ〜」
今まで乗り気じゃなさそうだったのに、この乗り気感はなんだろう。
アンナはたじろぎながはも…それを叶えないともっと酷いことになるのが目に見えていたから……。
「そ…その時に…なったら……ね?」
と、オロオロしながら言うことしか出来ない。
「楽しみにしてる♡」
アンナは誕生日までに彼を納得させるようなご褒美を用意しなくては…と思った。
そんなジークフリートがハッと思い出したようにアンナに振り返る。
「……話は変わるけど……アンナのお義母さんと話す時間も作んないとな?」
「………………あっ…」
「アンナ…忘れてただろ…?」
「煩いつ‼︎」
久し振りに再会した母親。
でも…ちゃんと血縁関係であるのに、親であると思えないのだ。
生きるのに精一杯だったからかもしれない。
それとも……再開した母の姿が…昔と雰囲気が違うからかもしれない。
「……別に…話す時間を作んなくてもいいよ?」
「なんで?」
アンナは困ったように眉を潜める。
「………なんか…さ……私に取って…お母さんとのことは……他人事のような気がしちゃうんだよ……」
「…………………アンナ…?」
酷く冷めた顔で…アンナは天井を見上げる。
ジークフリートはそんな彼女の見つめて…悲しそうに目を細める。
「………………アンナ…」
「…………なぁに…?」
「他人事に感じても……仕方ないと思うぞ」
「…………ぇ…?」
アンナがジークフリートの方に振り向くと、彼は穏やかな顔で微笑んでいた。
「だって……十歳を過ぎていたとしても…アンナが母親と離れたのは…子供といえる歳だ。そんな時に親が離れたら……他人事に感じてしまうとも仕方ないだろう?」
甘やかすようにジークフリートがアンナの頭を撫でる。
「……………でも…」
「……………アンナは…あの人に一緒に暮らそうと言われたんだろう?」
「……………う…うん…」
「実の母親と一緒に暮らしたい?」
ジークフリートの問うような瞳が静かにアンナを見つめる。アンナは息を飲みながら…首を振った。
「……ジークと…離れたくない……」
「なら……お義母さんに…俺達のこと、ちゃんと話して…アンナは俺の腕の中で幸せなだから…貴女達と一緒にいかなくても大丈夫だって話さないとな」
「…………………え?」
「……だって…夫婦なんだから…ちゃんと親にも認めて欲しいだろ?そうすれば…この先、何があってもアンナのお義母さんが心配することはないしさ」
アンナは驚きに目を見開く。
ジークフリートの言葉は…二人の未来を考えてくれている気がした。
その言葉が嬉しくて……彼の首に腕を回す。
「……………うんっ…‼︎」
アンナは彼が夫で良かったと思うのだった………。
◆◆◆◆◆
「生誕祭の後、アンナ様のお義母様と話す時間を設けたい?」
翌日…ジークフリートは王宮の執務室で、仕事をしながらグランドにアンナの母親の話をする。
「あぁ…アンナに一緒に暮らそうと言ったらしい。だが、それは流石に無理だからな。せめて…アンナとアンナの家族が納得出来るよう話の場を作るのがいいと思ってな」
「何故、生誕祭の後に?」
「ちゃんと夫の素性が分かった方がいいだろ?アンナが誰の妃なのかも…さ」
ジークフリートはそう言って、書類をまとめてグランドに差し出す。
グランドは険しい顔で彼を見つめた。
「……アンナ様の家族に…貴女の御息女は国王陛下の妃ですと言うのですか?」
疑うようなグランドの台詞にジークフリートは困ったように顔を顰める。
「…………それを告げたことで……アンナの家族が取り付こうとすると思ってるのか?」
「……ジークフリート様達をお守りするのが自分の仕事ですから。あくまでも危険の可能性があるのならば、疑います」
凛とした眼差しでグランドが言う。
ジークフリートはそんな部下を見つめて…嬉しそうに、困ったように苦笑する。
「………ははっ…そういう仕事熱心なお前だから…俺はお前にずっと右腕でいて欲しいと思うよ」
「…………っ…‼︎」
グランドが驚いたように目を見開く。
そして…感動したように……顔をくしゃっと歪めて微笑む。
「………初めて…そう言われました…」
「そうだったか?」
「………そうですよ…はぁ…そう言われたら…やるしかないじゃないですか」
グランドは苦笑したがら、眼鏡を押し上げる。
「………アンナ様本人とは関係ありませんが…アンナ様の家族方を徹底的に調べましょう。ジークフリート様にも〝お考え〟がありますでしょうし?」
「…………流石…グランド♪」
ジークフリートがクスクスと微笑む。
その背後には…悪魔のような黒いオーラが漂っていた。
「よろしくな?」
「はい、お任せ下さい」
グランドは国王陛下に向かって、恭しく頭を下げる。
そうして…二人の間で着々と話は進んでいくのだった……。
*****
高級ホテルの一室で…エレノアは窓辺に立ちながら、ペンダントのロケットを開いていた。
「…………………」
そこに映る一人の色褪せた男性の写真。
優しい眼差しは…自分の娘に似るところがあった。
「どうしたんだい…エレノア」
「……貴方…」
エレノアの背後から、身なりのいい老紳士が現れる。白髪交じりの茶髪に深い緑の瞳の老紳士こそがエレノアの今の夫、ガルディだった。
「…………娘の話はしたことがあったでしょう?」
「………あぁ」
「………結婚したんですって」
「君の娘さんが?」
エレノアはアンナを抱き締めていた青年を思い出す。とても美しい美青年だった。
「………幸せそうだったわ…」
「…………エレノア…私は……君に謝らなくてはならないね…」
「謝らないで、貴方。後悔はしてないわ……あの子が背中を押してくれたんだもの……」
エレノアはそう言ってガルディの手を取る。
「……ねぇ…もし、アンナも一緒に暮らしたいと言ったら……納得してくれる?」
「…………私は、君を娶る時、あの子はいらないと告げてしまったんだよ?今更……」
「大丈夫よ、アンナは優しいわ。女の子だって欲しいでしょう?」
ルーが産まれたことでガルディの心に余裕が生まれていたことにエレノアは気づいていた。
今ならば…アンナを引き取っても、彼は納得してくれると思った。
「綺麗な服を着せて…音楽や本、お庭でお茶会をしたりするの」
「…………それは…」
「アレだったら、アンナの旦那さんも来てもえばいいわ。きっと幸せな老後を過ごせる。少しでも…貴方に幸せを感じて欲しいの」
エレノアは潤んだ瞳で訴え掛ける。
そんな彼女にガルディは参ったと告げるように両手を上げた。
「愛しい君の頼みだ。受け入れよう」
「…ありがとう…‼︎」
エレノアはガルディに抱きついて、満面の笑みを浮かべる。
幼かったあの子を一人にしてしまった。
悲しかったけれど…アンナが背中を押してくれたら、後悔はしなかった。
だけど…余裕があるならば、せめて親らしいことをしてあげたい。
幸せになって欲しい。
エレノアはアンナを引き取る未来を想像して、幸せそうに微笑んだ。
そうして……物語は国王陛下の生誕祭へと続いていく………。




