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後の話〜旅立ちの直前に〜












(あぁ……アンナにみっともないとこ、見せたなぁ……)









昼前の王宮の執務室で一人、ジークフリートは心の中で溜息を漏らす。

朝、アンナに抱き締められながら泣き声を漏らしてをしまった。

人前で弱音を見せるなんてしたことなかったのに…アンナの前だとどうにも弱い自分が出てしまう。



「………………はぁ…」



理由は…分かっていた。

予想意識に自分が幼馴染メリッサの毒を盛るという裏切り行為に当たるもの地味に傷ついていたらしい。

特別まではいかないが…大切な人の一人であったのは間違いないのだ。

「…………………」

感傷的になっている時、その部屋の窓につけられたカーテンから人の気配を感じた。

ジークフリートがゆっくりとそちらに視線を向ける。






「……………………何の用だ、暗殺者」






そう告げると、カーテン裏から黒い青年が出て来た。

メリッサに金で雇われ、ジークフリートの駒となった暗殺者。

「聞きたいことがあります」

「………………何…?」

「何故、自分達を国外追放・・・・にしたのですか?」

ジークフリートは静かに彼を見つめる。

「貴方は自分達を殺せる立場であった。命を奪わないのは何故ですか」

「……………………」

(……国外追放・・・・で済ませたのは……。)

その時のジークフリートの顔はなんとも言えないものだった。

苦しそうな、悲しそうな……。

「…………………」

「………そういうことですか…」

青年はジークフリートの顔を見て納得したように頷く。そして、困ったように顔を顰めた。

「貴方を悪魔だと思っていましたが…そうではありませんでしたね」

「………何…?」

「貴方は悪魔であっても最後まで悪魔さいていを演じきれない」

青年はそう言って笑う。

馬鹿にするようではなく…本当に困ったように笑う。

「………何が言いたい…」

「いえ?貴方なら自分を悪いようには扱わないと思っただけです」

「…………」

彼はそう言うと、窓を開けてバルコニーに出た。ジークフリートはその後ろ姿を見つめる。




「……お前…名は?」




今まで聞いてなかったが、ジークフリートはそう尋ねる。

青年は振り返らずに答える。






「自分はシノブと言います」






「…………そうか…シノブ」

「はい」

ジークフリートは…静かに口を開く。







「お前も…最後まで暗殺者さいていを演じきれないんだな」






そう言われて振り返らないシノブが息を飲んだ気配を感じた。

「…………………やっぱり悪魔ですね…」

国王と暗殺者。

身分も生きてきた環境も違うけれど、何か感じるものがあった。もし…出会い方が違えばいい関係になれたのかもしれない。



だが……奪われそうになった者。奪おうとした者。



二人の間には絶対に埋まることのない亀裂がある。



だからこそ、ジークフリートは自分が大切な王妃アンナを奪われそうになったことで、犯人達を殺さないようにするために国外追放・・・・をするのだ。

「質問の答えだ」

「…………はい…?」

ジークフリートは足を組みながら、ゆっくりと語る。

「俺はこの世の何よりアンナが大事だ。そんな彼女を奪われ掛けたんだ。何よりもお前達を許せない」

「……………」

「でも…アンナは自分の所為で誰かが死んだら悲しむんだよ。だから……俺がお前達に手を出せないくらいに遠くに行け」

アンナは優しいからきっと悲しむだろう。

自分の所為で誰かが死んだこと。自分ジークフリートの手がその血に濡れたことを。

ましてや…話したことがあるメリッサが消えるのだ。

アンナは……本当に苦しむに違いない。

それを聞いたシノブは苦笑したようなら声を漏らす。

「ふっ…愛妻家ですね」

「言ってろ」

「だから…貴方は最後までツメが甘いんですか?」

「……そうかもな。報告はちゃんとしろよ」

シノブはバルコニーから飛び降りて消え去る。

一人残されたジークフリートは目元を手で覆った。

「………ツメが…甘い…か……」

なんとなく思い出すのは昔の日のこと。

スカーレットとエミル…兄とミレーヌ…そして…メリッサ。

その人達が沢山の話をしてくれた。

穏やかで…永遠に続くと思っていたあの日。


今ではこんなにも道をたがえてしまったけれど…また重なり合う日が来るのだろうか……。










トントン…。

ドアがノックされる。ジークフリートが返事をすると、恐る恐るといった様子でアンナが顔を出した。

「今…いい?」

王宮の執務室に一人で来るなんて珍しいから、ジークフリートは目を見開く。

「どうした?」

「…………これ」

アンナが入って来ると小振りなランチボックスを差し出した。ジークフリートが受け取って中を見ると…そこには木の実のパイが入っていた。

「………これは…」

「何も聞かないけど……」

アンナは少し俯いて悲しそうな顔をする。

しかし、顔を上げるとジークフリートに満面の笑顔を向けた。






「私が傍にいるから……元気出してね」






「………………っ…」

ジークフリートは息を詰まらせた後…困ったように苦笑した。

「おう…」

例え…道が重なり合わなくてもいい。

彼女アンナがいるなら……それでいい。













ジークフリートはあの懐かしい日々は、二度と戻らないと思いながら……今ある幸せを噛み締めるのだった……。








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