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三月の短編系まとめ

リメイク版~魔王が勇者との決戦で魔法陣を使用したらサラリーマンが出てきた~project dark version

作者: 三月

 ――――惑星ディザイア


 その惑星は古来より人間と魔族による争いが絶え無い世界だった。

 互いに共存の意思は微塵も無く、甚大な被害を出しつつもお互いを滅ぼすまで争いが集結することはない。


 そして今宵――そんな負の連鎖を断ち切ろうと人間が送り出した勇者と呼ばれる一行は、魔族の総大将である魔王が住むという城へと侵入したのであった。



―――――――――――


「ほう………勇者共よ。とうとうこの地まで来たか」


「おのれ魔王!神に代わって成敗してやる!」


 魔王と呼ばれた者は3mを越える巨大な体躯を持った巨漢で、禍々しい大剣を携えながら勇者を迎え撃っていた。対して勇者と呼ばれる一行は、一人は剣と盾を持つ若い男、さらに一人は杖とローブを着こんだ女、最後の一人は国教とされているセクト教の祭服を来た厳しい中年の男の3名が魔王に対峙している。


 勇者と魔王――双方が交わる時、それ即ち最終決戦の時であった。


「キサマ等のような雑魚が、この地にやってくるとはな………我を倒そう等とは100万年早いわ!」


 そう言い放ちながら、魔王は呪文を唱える。

 魔王から膨大な魔力が放たれ、その力の奔流が牙を向き勇者を吹き飛ばした。


「我が出るまでもない。出でよ!我が最強の下僕しもべよ!」


「っく!何をする気だ!」


 魔力の奔流に吹き飛ばされた勇者は立ち上がるも、距離が開きすぎた為に魔王の呪文を阻止することは叶わない。


 魔王の術式が発動すると禍々しい魔力が場を支配し、辺りは光の奔流に飲まれた。

 やがて光が魔法陣を形成し、爆音を轟かせながら“ナニカ”が現れる。その何かはどうやら人間………いや、詳しく言えば中年男性のようだ。


 しかし現れた男の服装は、惑星ディザイアでは異質であった。


 上着にあたる部分はウエストの絞りが甘いボックス型のシルエットで、肩には丸みを帯びたドロップショルダーが気休め程度に入っていた。靴は外羽根式プレーントゥの革靴でかなりカジュアルテイストだが、どことなく男の着こなしにあった靴のように思える。俗にいうアメリカントラッドスーツを着こなしたその姿は、どこからどう見ても中年のサラリーマンにしか見えない。


「い、一体何が起こったんだ!」


「な、何者だキサマ!」


 勇者と魔王―――双方共に違う言葉を発しているが、共通してどちらも事情を把握出来ていない。そんな中、頭をポリポリとのんきにかきながらそのような事情など知ったことではないというように、目の前のサラリーマンは魔王に向かって一礼した。


「いやはや、これはお初にお目にかかります。私は“プロジェクト・ディストピア”異世界支店 営業1課の真田さなだ 信彦みちひこと申します」


 そう言いつつ懐から名刺掴んで魔王に差し出した。

 しかし魔王は衝撃の余り動きを止めていた為に名刺を受け取ることはなかった。


「お客様はお見受けしたところ………魔王と呼ばれるご職業の方かと存じますが、違っておりますでしょうか?」


 馬鹿丁寧に妙な事を聞いてくる“人間”の反応により、我に返った魔王はこの妙な侵入者に対して怒り狂った。

一寸とはいえ、魔王ともあろう者が不意を突かれたなどという事実は彼のプライドが許さなかったのだ。


「いかにも我は魔王である!その魔王に対し、貴様のような下等生物が気安く話しかけるでないわ!」


 激高した魔王は携えていた大剣に膨大な魔力を纏わせ、サラリーマンに向かって振り降ろした。


「あ、危ない!」


 勇者一向が助けに行こうと一歩前に踏み出すも、とうてい間に合う距離ではない。あわや大惨事かと思われた矢先、サラリーマンが大剣に向かって右手をかざすと不思議な現象が起こった。

 魔王の大剣はまるで見えない壁にでも阻まれたように止められ、魔王の渾身の一撃はサラリーマンを傷つける事無くそれどころか弾き返されてしまったのだ。


「何ぃっ!?」


 城壁さえも吹き飛ばす威力を込めた一撃をいとも簡単に防がれたという異常な事態に身の危険を感じた魔王は、狼狽えながらも目の前の得体のしれない男と距離を取った。


 彼は再び頭をポリポリとかきながら、大して驚いたようには見えないような口調でこう言った。


「これはこれは、わたくし、とてもびっくりしましたよ。

護身用に“通信教育”で“サイキック技能検定”を取得しておいて正解でしたね」


「き、キサマ………何をしたのだ!」


 ゆっくりと近づいてくる得体の知れない男に警戒する魔王。そんな様子など知ったことではないというふうに彼は魔王へと近づいていった。


「どうやら、アナタと対峙している3人………アナタが魔王であるならば、彼らはさしずめ“勇者一行”といったところでしょうか。召喚の魔法陣を出したということは、お困りなのでしょう?」


 彼は“勇者一行”と呼ぶ男たちを一瞥する。視線を受けた勇者一行は顔を強張らせながらサラリーマンに対し警戒を強めた。


「………何が言いたい?」


 魔王はサラリーマンの意思をはかり倦ねる。男は勇者一行と同じ人類のように見える。だとすると、同じ人類が魔王に味方するなど百害あって一利無しなのだ。こちらの味方をする理由なぞ思いつかない。


「私と契約しませんか?私と契約すれば、世界征服も今よりずっと簡単になりますよ?」


「な、何を言っているんだ!魔王に味方するなど、同じ人類とは思えない発言だぞ!」


 勇者一行はサラリーマンを非難する。サラリーマンを見ればどこからどうみても人間(人類)だ。頭に角なんて生えてないし、3mを越えるような体躯を持っている訳でもない。それに魔族の特徴である紫色の肌もしていないし、そもそも勇者一行が所持している魔族探知の魔石に彼は反応していないのだ。

 しかし残念ながら彼はこの世界の人間ではないため、例え魔族に惑星ディザイアに住まう人類が滅ぼされたとしても彼にとっては些細な問題である。

 その為、契約の邪魔になると判断した勇者一行を、持ち前のサイキック能力を使って人類の王が住まう城へと転送させた。サラリーマンが手を翳した瞬間に消える勇者一行を見て、更に驚愕する魔王。そこに彼は悪魔の囁きを行う。


「お話の邪魔になるかと思いまして、勇者一行には一時的にご退場願いました。

 ご契約内容にも寄りますがもし私の提示するプランにご契約頂けますと、先ほど私が使った“力”を手に入れることが出来ますよ。ちなみに当社での契約の代価は貨幣ではなく“魔力”で支払って頂いております。どうです?お話だけでも聞いてみませんか。」


 怪しい笑みを浮かべつつ営業を再開したサラリーマンの巧みなセールストークにより、魔王との契約が成った。


 サラリーマンと契約した魔王は、膨大な魔力と引き換えに様々な武器や能力を買い漁った。ある時はリザードマン部隊に装備させるレーザー銃一式を購入し、ある時はサラリーマンが使用したサイキック技能の教本を取り寄せたりもした。

 そして魔力が足りなくなると膨大な数の人間を生け贄に捧げて魔力を集め、そしてある程度集まった頃にまた購入するという自転車操業のような事を繰り返した。


 これにより魔族と人類のパワーバランスは一気に崩れ、勇者が魔王城に現れた後のわずか数ヶ月をもって人類は滅亡。魔族が勝利し、惑星ディザイアは魔族の惑星となった。

 しかし話はこれで終わらない。魔王による人類滅亡という大願が成ったが、魔族とは元々野心が強い生物なのである。共通の敵として居た人類が滅び、魔族のみの世界となったが、これを機に魔王に成り上がろうとする者たちが現れた。

 魔王に反旗を翻した者達は、魔王が購入した武器や能力を利用し反乱軍を指揮し世界各地で電撃作戦を行い、不意を突かれるような形となった魔王軍は一気に窮地に陥る。そんな中、再び契約により現れたサラリーマンはある品物を魔王に提示した。


「あなたが人類を滅亡させて貯めた全ての“魔力”と引き換えであれば、この“対惑星レーザー照射装置”の発射ボタンと取引することが可能です。全力照射を行うと惑星が破壊されますが、局地的に使うことも出来ます。恐らくこれが最後の取引となると思いますが、いかが致しますか?」


「おぉ、さすがはサナダである!もちろん購入致すぞ!彼奴らは既にこの魔王城まで進軍してきていると聞くからな………ふははははは!これで我の勝利は盤石となった!」


 魔王はその身に宿す膨大な魔力をサラリーマンが持っているスーツケースに全て注いだ。そしてサラリーマンは装置の説明を魔王にした後、一礼して消えていった。


 その後、惑星ディザイアの上空から数本の光の矢が放たれ、地表に落下。衛星軌道上からも観測出来るほどの大爆発を起こし、この惑星は死の星となった。


――――――――――


 魔王城から帰還した真田は、まっすぐに営業部の扉を開いた。そこには営業部の測定担当者が待ち構えており、真田が持っているスーツケースを受け取ると、特殊な測定器にそのスーツケースを起きコンピューターを起動させた。

 重低音を響かせながら測定器がスーツケースを測ると、担当者は驚きの声を上げ、真田が今月の売上トップである事を宣言した。

 測定器で観測された見た事もないような膨大な数字を唖然として見つめる営業部の皆を一瞥もせずに真田は休憩室へと足を運んだ。

 そこには先客がおり、真田が帰ってくるまでは今月のトップセールスであった小林がタバコをプカプカと吸っていた。


「よぅ、帰ってきたか。と言うことは、今月も俺は1位になれなかったって事かな?」


「これはこれは、小林さん。今回も私の運が良かっただけですよ。良い取引先に巡り会えましてね」


 そう言いながら、懐からタバコを取り出す真田。若いころからこれ一本を吸い続けてきた彼にとって、このタバコを吸うという行為は言わば“帰還の儀式”と化していた。


「それにしても、その魔王ってヤツは可哀想だな。お前さんのような悪魔と取引した結果、身ぐるみ全て剥がされて骨の髄まで絞り尽くさせるハメになっちまうんだからな」


「ははは、そんな人聞きの悪いことを言わないで下さいよ小林さん。誰が聞いてるか分からないんですから」


 ヘラヘラと笑う真田だが、目だけは野獣のようにギラギラと輝いていた。


「私はね、契約を介して商品を紹介しているんです。相手に購入の意思が無ければ販売することが出来ないし、あくまで買う買わないはお客様の自由。世界中で認定されている“異世界法”にも引っかかることは一つも行っておりません。何も悪いことなどしていないでしょう?まぁ、確かに、魔力の供給源となっていた人類が生け贄となって滅亡し、その貯めた魔力すらも失った魔王なぞ私にとって魅力の欠片もありませんので、これがあの惑星での最後の取引となってしまいましたがね」


 そう言ってタバコを一口、さしておいしくもなさそうに機械的に吸う真田。そして更に言葉を続ける。


「異世界が発見されてより今日こんにち、日々新しい知的生命体が住む世界が発見されております。現在観測されているだけでも数億の世界があり、その世界の数だけビジネスチャンスは生まれるのです。結果的に惑星一つのビジネスが喪失したところで、大した差じゃないでしょう?それこそ私が生きている間にどれだけつぶしてしまったとしても問題が無い上に莫大な利益が見込めるのですから、止める訳にもいかないでしょう?」


 相変わらず獣のようなギラギラとした目で語る真田。

 その様子を見て小林は嫌悪の感情を真田にぶつけた。


「どれだけ潰しても問題ないだと?お前は一体何様だというんだ!

それにお前が言っている“異世界法”だが、この法律が制定されたばかりで“穴”だらけなのは周知の事実だろうが!“直接殺さなければ罪に問われない”だの“契約者との取引内であれば例え兵器であっても販売出来る”だの、まるで16世紀の植民地に適用されていたような人を人とみていないふざけた法律だ!お前のやっていることは決して許されるものではないんだよ!」


 そう言って小林は目の前のテーブルに拳を叩きつけた。そんな様子を冷めたような視線で睨めつける真田。


「許されるものではない?はて………可笑しな事を仰る。

法を犯していないのであれば、許すも許さないもないでしょう。そもそも許されない行為というのは犯罪として取り締まりを受けます。

犯罪とは“法によって禁じられた事柄を行う行為”の事を言いますが、私のやったことのどこに法によって禁じられている行為があったのですか?

異世界での法律は全て“異世界法”に集約されるはずです。例え取引先が自滅して滅びようがそれが法で禁じられていないのであれば、私のやったことは全て合法なんですよ」


 吸っていたタバコの火を消して、さも小林の反応が愉快であるように大仰におどけながら言葉を続ける。


「会社ってのは利益を出してナンボなんです。そして会社は利益を上げるためだったら何だってするんですよ。それにどれだけの惑星が“結果として不運により”犠牲になったとしても数億ある世界の幾つかが消えるだけで、“少なくとも私が生きている間は”減ったところで何も問題が無いじゃないですか。

 それと法律の点において小林さんは人の善性を説いているように思われますので、この点について私の考えをお話させて頂きます。

 極端な話ですが、もしも人殺しが法律で罰せられていなかったとしたら、恐らく世界のどこかで人殺しが大きなビジネスマーケットになると私は確信しております。人の悪意や欲望というのは際限が無い事を身を以て知っておりますから。そして私はね………この世界に蔓延るそんな人の悪意が大好物なんですよ。もしかしたら“愛している”といっても過言ではないのかもしれませんね」


 そう言ってニタリと悪魔のような笑みを浮かべながら小林に微笑みかける。そしてこれでもう話は終わったとばかりに真田は営業部の部屋へと戻っていった。

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― 新着の感想 ―
[一言] SF的に考えると、数億発見されてるということは理論上無限の可能性があって、無限にアクセスできるかもしれない。 となれば、焼き畑農法でも決して森は無くならず、経済的に悪行とは言い切れない可能性…
[一言] うーん。焼き畑農業的思考って長期的な利益確保を阻害するんですよねぇ。 善悪ではなく利害として愚かな人物だとは思います。
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