ハミルの過去(サラ視点)
天界の女王であり母親である女神ミカエルは、長女の私と次女のアーシャの妹であるハミルを産もうとしてるところであった。
「もうすぐ産まれるのか…確か名前はハミルと決まってるそうだな。サラとアーシャよりも優秀で王女としてふさわしい子であったらいいが…。」
「ええ、そうですわよ。サラさんは国をまとめる力はあると思いますが、力が弱いですし、アーシャさんに関してはそのどちらもサラさんより劣っていらっしゃいますからね~。」
「こらこら~このままでは2人に聞こえてしまうぞ~。」
「大丈夫さ。2人共とっくに自分で自覚してるだろう。」
私達が少しだけしか離れていないのに、父と親族達は私達の悪口をこそこそ話し合っていた。
私とアーシャはそれらを聞いてその場に居づらくなったが、聞いてないフリをして、ハミルが産まれるのを静かに待っていた。
すると、部屋の中が光りだしたのか、ドアの隙間から光が漏れてきた。そしてドアが開いた。
「生まれたのか!?泣き声がしなかったぞ!?まさか死んでしまったのか!?。」
父がかなり焦っているのが目に見えた。私も心配だった。
そして部屋の中に全員入っていった。
「ちゃんと息はしていて動いているのですが…全然泣かないのです。まるで感情を置いてきてしまってかのように…。」
助産師は怪訝そうな顔をして言った。
「まぁミカエルもハミルも無事なら良かったよ。ところであの光は何だったのだ?。」
父は助産師に尋ねた。
「ハミル様を出した途端に光りだしました。40年この仕事をしていますが、一度もあのような現象はありませんでした。羽の色も見たことがない位真っ白なので、もしかしたらミカエル様よりもすごい力をお持ちだと思います。」
ちなみに天使や女神の間では、羽の白さによって力の強さが違って、白ければ白いほど力が強い。よって真っ白なハミルはトップレベルの強さなのである。
「おお!そんなにすごいのならハミルを次期女王としよう!。」
と父がとても嬉しそうに言った。
「それもそうね。でも生まれたての赤ちゃんが泣かなかったって…。このまま大きくなっても感情がないままなら女王は務まらない気がするけど…。」
と母は心配した。
母の不安が現実になってしまい、いつまでたってもハミルは笑ったり悲しんだり怒ったりしない、無表情で感情がない子のままとなってしまったのである。
無表情で感情がなかったが、ハミルは3姉妹の中で1番美しく、そして1番力が強い子になった。
だが感情がないが故に人の気持ちがわからないので、とても国を治められそうになかった。
両親はハミルにどうしても後を継いで欲しかったので、専属の精神科などを雇って様々な治療をしてきたりなど、あの手この手を使って心を開かせようとした。
だが、ハミルが15歳になっても変わらなかった。
とうとう後を継がせるのを諦めた両親はハミルを親族の誰かに預けようとしたが、親族達はハミルに感情がないことをいいことに、
「こんな気味の悪い子養いたくないわよ。」
「他のとこに頼んでくれ。」
「この子と暮らしてると鬱になりそうだ。」
などをハミルの前でも平気で言って断り、預かろうとしなかった。
昔からあった、ハミルは呪われた子だとかの悪い噂はずっと残っていた。
そして両親はとうとうハミルを殺そうとしたほど病んでしまった。
ちなみにそれを止めたのは私で、アーシャはというと、自分より年下なのに優秀なハミルが昔から嫌いだったので、止める気は全くないようであった。
なので、ハミルを守れるのは私だけしかいなかった。
だが、いつまでもこのままではいけないと思ったので、両親の元へ行き、
「お父様、お母様、お願いです。ハミルを人間界で暮らさせてください。」
とお願いした。
「な、なぜそのようなことを!?。」
さすがにこの提案には両親も驚いた。
「こんな窮屈な城に閉じ込めるよりも、人間界で伸び伸びさせる方がハミルの心を開くのに効果的だと思ったからです。ハミルは賛成してくれました。」
「確かにその方がいいかもしれんが…住む場所はどうするのだ?。」
「私がランダムで人間の家庭を選び、ハミルに悪いことはしないか見極めて、大丈夫な家であったら契約の為のハミルの羽の1部を置きます。
もちろん私が説明係として向かうし、天界のことなどを口外しないようお願いしておきます。」
「わかった、サラに任せる。ただし期限は契約が成立してから一年後とする。」
「はい、わかりました!。」
しばらく何もしゃべってしなかった母が、
「もしその契約者の方がハミルの心を開くことができたら、一つだけ何でも願いを叶えると伝えてください。」
と言った。
私はわかりましたと言い、ハミルと共に準備を始めた。
こうしてハミルは人間界で一年間暮らすことになったのである…。