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第83話 依頼決定

「臨時パーティ組んだところで、何の依頼を受けようか? アリンから色々依頼を紹介してもらってたところなんだが……」


 ルルがそう言うと、ラスティとオルテスが受付カウンターの上に広げられた依頼票を手にとってうなずきながら眺めた。

 それから、ラスティが言う。


「当たり前だけど初級向けの依頼しかないな。ショウドの宿場町周辺に出現したトロル三体の討伐……これ受けても二時間で終わるだろ。もっと他のやろうぜ」


 やはり、初級向け、と言うこともありそれほど難しい依頼はない、と言うことなのだろう。

 しかし、実際はトロルと言えば3メートルほどもある巨体とおそるべきタフさを誇るそれなりの魔物であり、本来なら中級相当と言ってもいい、初級向けの中でもそれなりに難しい依頼なのである。

 ラスティがそう言ったのはあくまで、ルルが相手なら、という部分を省略したに過ぎない。

 そのことをルルはさして考えもせず、流して次の話に移った。


「じゃあ何の依頼がいいんだ? 俺はまだ初級なんだ。あんまり冒険者稼業にも慣れてない。ガヤたちに教えられてある程度の常識は身に付いたつもりだが、どんな依頼を選んだらいいか、とかそういうのは経験が少ないからな……正直どの依頼も同じように見える」


 その質問に答えたのは、オルテスだった。


「ルルからすれば確かにどの依頼も大して変わりはなさそうだけど……あくまで一般的な冒険者の基準からすれば、討伐依頼なら魔物の強さや群になったときのやっかいさ、それに生息場所なんかを総合して考えるところだよ。そうでないものはそれこそ経験で見抜いていくしかないんだけど……ルルの場合はそっちの方の経験もなさそうだから、今回はそういう依頼を受けた方がいいんじゃないかな。魔物の討伐は、むしろどんな魔物でも大して問題なさそうだし」


 そんなことはない、とは言えない程度の活躍を闘技大会で見せている以上、ルルはオルテスの言葉を黙って聞く。

 それからオルテスは、


「だからといって、初級向けの町のお使いみたいな仕事を受けるのもそれこそ宝の持ち腐れ感が凄いからね。やっぱりここは中級向けの依頼を出してもらった方がいいだろう……頼めるかな?」


 そうアリンに言った。

 アリンはオルテスに頷いて、ルルに見せていた依頼票にさらに他の依頼票を上乗せして出してくる。

 その内容は、中級向けのそれなのだろう。

 ラスティとオルテスが依頼票の山から適当に何枚かとって、内容を吟味し始めた。

 ルルも真似してやってみたが、やはり正直どれがいいのか微妙すぎて選びがたい。

 初級のものより難しいものが多くなっていて、専門性も必要とされるものがあったりする。

 シュイやユーミスのような人材が育つ理由がわかる気がした。

 もともと好きだ、というのもあるのだろうが、必要にかられて調べたり、実地で色々なものを見たりするうちに下手な学者よりも詳しくなっていくこともあるのだろう。

 それからしばらくして、オルテスが、


「これなんか良さそうじゃないかな?」


 そう言って一枚の依頼票を提示した。

 そこにかかれているのは、王都から少し距離が離れている街の近くにある鉱山の魔物の発生原因の調査依頼だった。


「……鉱山都市ツェフェハの北に存在するアソオス鉱山の坑道から、一週間ほど前から大量の魔物が出現するようになった。ついてはその原因の調査を依頼したい。報酬は……」


 そこに書かれているのは、結構な額で、初級のものとはそれこそ桁が違く、最近経済的に非常に質素な生活をしていたルルは驚いた。


「こんなにもらえるのか」


 ついそう口に出る。

 その言葉にラスティは、


「まぁ、初級と比べれば結構な額だよな。でも、そこから武具代とか部屋代とか色々引いていくと微妙だぞ。特に武具代には初級の頃と比べて結構な額がかかるのが普通だからな。中級になったら借金返すのに必死、ってやつも少なくないぜ。それを考えるとミィとユーリはルルの武器もらってるからかなりいい方だな。俺は買ったけど、パーティに必要だからってことで折半してもらってるしさ」


 確かに以前、鍛冶屋に行ったとき、それなり以上の武具は結構値が張っていた記憶がある。

 初級から中級になって、その実力相応の依頼を受けようとすると必要なものである以上、借金をしてでも購入をしなければならないということになってくるだろう。

 それに、とオルテスが付け足した。


「中級の依頼は本来、初級のものよりも時間がかかるものだからね。初級は毎日受けても何とかなるようなものが少なくないし、実際だいたいの初級冒険者は頻繁に依頼を受けているけど、中級の依頼は数日に一度、受けられればいい方さ。今見せた鉱山の調査依頼も、本当なら今日明日でどうにかなるようなものじゃなさそうだし……」


 その言い方にルルは引っかかりを覚えて首を傾げる


「だったらやめた方がいいんじゃないのか? 闘技大会があるから、明後日までには片づけられるような依頼じゃないと……」


「まぁ、そうなんだけどね。でも、ほら。期限とかその辺り無いって書いてあるし、達成を認めるのは魔物の発生原因を突き止めたときのみ、って書いてあるから。その代わり、失敗しても特におとがめは無しだってさ」


 そんなことでは、そのアソオス鉱山はいつまでも落ち着かない、ということになりそうだが……。

 そう思ってルルが首を傾げているのを認めて、オルテスは続けた。


「こういう依頼はたまにあるんだよ。そしてこういう依頼を受けるのは必ずしも一組のパーティだけに限定されているわけじゃないんだ。たぶん、アソオス鉱山に行けばいくつかのパーティと顔を合わせることになると思うよ」


 その話にルルはなんとなくピンときたので言う。


「……つまり、あれか。依頼を達成できるのは一組だけ。その一組は結果を持ってきた者で、依頼者がそう認めた場合にのみ依頼達成と見なされる。依頼を受けるか受けないかは自由で、いつ始めてもやめてもいい……要は競争ってことか?」


 オルテスはルルが行った内容にうなずき、その理解で間違いがないことを示した。


「そういうことだね。依頼者としては、沢山の冒険者をただでつぎ込めるってわけだ」


「だったら全部そういう依頼にしたらいいんじゃないか?」


 当たり前の疑問に、オルテスは続ける。


「確かに自由にできるならそうした方がいいだろうね。ただ、こういう依頼をするには条件が色々あるんだよ。たとえば、今回みたいな、国や街なんかが管理する場所において起こった問題で、大きな被害が生じそうなとき、とかね」


 そうやって、限定することによって濫用を防いでいるわけだ。

 すべてをそう言う形式にすると、稼げる冒険者と稼げない冒険者で格差が大きく開きそうだし、人材の無駄遣いと言うことも多く起こりそうである。

 同じ依頼に何組も殺到して鉢合わせし、結果なにも得られない、では問題だろう。

 しかし、今回のような鉱山において魔物が大量発生し、早急にその原因を突き止める必要がある、というような公共の危険が発生している事案についてはそう言うやり方でもって大量の冒険者を無給でつぎ込むこともある、ということだろう。

 目的を達成した冒険者には報酬が支払われるし、本人の意思で参加不参加は決められる以上、不満も出にくいと言うわけだ。


「こういう依頼は報酬も高いからな。余計に文句は出にくいんだよ。それだけ難しかったり大変だったりするわけだが……今日明日の俺たちみたいに暇を飽かせてるような冒険者にはちょうどいい時間つぶしになるしな」


 ラスティがそう言った。

 確かに失敗しても何もペナルティがなく、期限も特にない、というのは今のルルたちにとってちょうどいい依頼だ。

 もちろん、受ける以上は解決するつもりだが、変に気負わずに済みそうである。

 ルルはそうしてすべてに納得して言った。


「じゃあ、これを受けるってことでいいよ。ラスティもオルテスもいいのか?」


 ルルの質問に二人は頷いて答えた。


「あぁ、もちろん構わないぜ。洞窟ってなんかわくわくするしな!」


「その気持ちは僕にもわかるなぁ……探検っぽいからね」


 そうして、ルルたち三人はアソオス鉱山の調査依頼を受けることに決まった。

 アリンに依頼を受ける旨伝える。


「これですかー……なるほど。こちらの依頼はまだ解決の目処は立ってないらしいですから、今からいっても十分間に合うと思います。それと、依頼者はツェフェハ領主のパラクセノ侯爵ですので、原因が見つかった場合はツェフェハ冒険者組合ギルドに報告するか、侯爵本人の領館がツェフェハにありますので、そちらに直接出向くように、とのことです。よろしいですか?」


 三人はアリンのその言葉にうなずき、それからとりあえずそれぞれの住居にいったん戻ることにする。

 どう考えても今日一日で終わる依頼ではないので、帰りは明日以降になることをそれぞれの同居人、およびパーティメンバーに告げるためだ。

 ツェフェハまでは高速馬車が出ていて、5時間もあればたどり着くということである。

 したがって、今から行くと着くのは夕方頃になるため、実際に鉱山を探索できるのは明日一日だけ、ということになりそうだが、ダメなときはダメなときだ。

 気楽に行こうということになった。

 集合場所は、ツェフェハまでの馬車が出ている王都東門である。


 それから三十分ほどして、それぞれの同居人たちに説明を終えた三人は、しっかり東門に集合し、そのまま馬車に乗ってツェフェハに向かったのだった。


 ◇◆◇◆◇


 馬車については、ラスティとオルテスが非常に手慣れていて、特にオルテスが値段交渉をしてくれたので意外なほど安く乗ることが出来た。

 あまりにも安かったので他の同乗者から文句を言われるのではないかと心配になるような額だったが、オルテスはルルとラスティと、鉱山の調査に行くことを説明したようだ。

 それについては、現地の人間も非常に困っているらしく、その解決のために行くというのであれば多少の値引きくらい別にいいだろうという話になったようだ。

 そのため、同乗者たちもルルたちを応援こそすれ、文句は言ってこなかった。


 王都デシエルトから北東にしばらく進むとある街、鉱山都市ツェフェハ。

 そこはまさにその名の通り、多くの鉱脈の走っている鉱山の麓に作られており、多くの鉱夫の他、鍛冶師などの鉱石を使う技術者が住んでいる街でもある。

 そのため、鉱山都市の名の他に、細工都市とも呼ばれることがあり、その街を少し歩けばいくつもの鍛冶屋や装飾品店、それに魔法具店などが軒を連ねていて楽しいところでもある。


「こいつは……なるほど、なるほど。いい工夫だ。刻印の魔力をこっちに通して効果を増やしているわけか……いいな。欲しい」


 特に、魔法具を作ることが趣味となっているルルにとっては、露店すらも玩具箱のように見えるようで、ツェフェハについてからずっとそんな調子であった。

 ラスティとオルテスは、はじめこそは意外なものを見るような目でルルの後をついてきて、魔法具の説明などを求めていたが、さすがに一時間を超えてくると疲れてきたようだ。


「……そろそろいいんじゃねぇか、ルル。見るのは明日、鉱山の調査が終わったあとでもさぁ……」


「いや、ちょっと待ってくれ。この剣がおもしろいんだ。もう少し、もう少しだけ……」


 ラスティの方に手のひらを向けて露店に並んでいる中から一本の剣を見つめてそんなことを言うルル。

 正直ラスティにはそのルルの見ている剣がさほどいいものには見えない。

 ついている値段も、適当で、不安になってくるほど片手剣にしては安い。

 不良品なのではないかと言う気もするが、ルルにとっては魅力的な品らしく、張り付いて離れようとしない。

 しかしオルテスが、


「はいはい。ルル。明日にしようね。明日に」


 などと言いながらルルの手をひっつかみ、すでに取ってある宿に引っ張っていこうとし始めたので、二人の堪忍袋の緒が限界に達していることを理解したルルは、慌てて、


「わかった! これ買う! それで戻るから!」


 と言って露店のおじさんと値段交渉を始め、とうとう購入してしまった。

 鞘にも入っていないむき出しの片手剣だったわけだが、ルルが大して値切りもしないで買ってしまったので、露店のおじさんはホクホク顔で鞘もサービスだと言ってつけてくれたのだった。

 と言っても所詮露店で売っているものだけあって、さして高い訳でもないのだが、怪しげな魔法の施された剣についているにしては高いと言えるだろう。

 露店のおじさんも値段をつけたはつけたが本当にその値段で売れるとは思っていなかったのだろう。

 良くて二束三文、それくらいの気でいたはずだ。

 しかしルルが購入してしまった。

 しかも嬉しそうに。

 そんなルルを見ながら呆れた様子のラスティとオルテス。

 しかし、本当にルルが宿に戻る気になったらしいとわかり、まぁいいか、という気分になってきたのだった。

 ルルが非常にうれしそうに片手剣を眺めながら歩いているのも微笑ましかったようである。


 実際、宿に戻ってから、ルルは片手剣を取り出して眺め、鞄から取り出した工具類を使って色々いじり始めた。

 どうやら魔法具職人として気になるところがあったようだとはわかるが、何をしようとしているのかは専門外のラスティとオルテスにはわからず、仕方なく放っておくことにした。


 話しかけても集中しすぎて反応しないため、二人でツェフェハ冒険者組合ギルドに行き、明日行くアソオス鉱山と坑道の場所を描いた地図を貸与してもらってきたくらいである。

 その際に、今回アソオス鉱山での魔物の発生したときの様子や、どういう被害が出ているかなどの概要も聞いておいたので、明日はしっかりと探索が出来ることだろう。


 それから、二人はとった部屋で眠ることにしたのだが、ルルはそれでも片手剣をいじるのをやめず、しばらく起きていた。

 ただ、真夜中に一度、ラスティが目が覚めたときがあったのだが、そのときにはルルもしっかりベッドに横になっていたので、明日の依頼に差し障りはないだろうと安心して眠ったのだった。

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