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第7話 眠れる乙女

「……これでよし、と」


 ルルが遺跡の一室で、巨大な画面に映写される様々な情報を読みながらやっていた作業は、ほんの数分の間で終わった。

 グランが去った後、遺跡の中に入ってみれば、外観はかなり老朽化していたが、内部は未だかなり立派というか、崩れている部分が少なく、設備もそのほとんどが生きていることがわかる。

 魔族の誇った魔導設備によるシステムは未だにこの遺跡の維持に一役買っているようで、あの魔導機械もまた、同様にこの遺跡の維持のための端末の一つだったわけで、しっかりと遺跡の中にある中央設備から指示を送ることができ、停止させることが出来たのでルルは安心した。


 これで特にやることもなくなってしまったので、村に戻ってもいいのだが、ルルとしてはこの遺跡を隅々まで調べたい、という欲求を感じている。


 遺跡の入り口から入り、階段を下ってさほど歩かないところにあったこの中央設備だが、遺跡全体を管理しているもののようであり、そこにはこの遺跡のマップも保存されていた。

 なので、ルルが今いるこの場所が遺跡の中ではまだ入ってすぐ、くらいの位置にあることもわかっている。

 つまり、この遺跡にはまだ奥があり、そこには古代魔族のものとおぼしき手がかりの数々がある可能性が高い。


 せっかくなので、中央設備に何か、ルルが魔王として死亡した後の情報が保存されていないか、確認してみたのだが、どうやらこの設備に関する情報しか保存されていないようで、しかもそれですら必要最低限に抑えられているようだった。


 まるで何かから隠そうとしているようだ。


 そう感じられるくらいには、この遺跡は色々な情報を出来るだけ見つけにくいようになっていた。

 魔導機械の停止がすぐにできたのは運が良かったからかもしれない。

 とはいえ、だからこそ、人族ヒューマンに古代魔族が滅ぼされたであろうあとも、この遺跡が長い年月残り続けたのかもしれないということを考えれば、ルルとしては色々複雑なものだ。


 岩巨人ルペス・ギガンテス魔砲蜂カノン・アピスについて、停止させるついでにどういう設定にあったのか確認してみたが、岩巨人ルペス・ギガンテスの方は老朽化した遺跡の地上露出部分の補修を、魔砲蜂カノン・アピスについてはその際の周囲の警邏が指示されているようだった。

 その場合に、何か脅威となるものを発見したら、一定距離に近づいたときに排除することも。

 どの程度が一定距離なのかは、岩巨人ルペス・ギガンテス魔砲蜂カノン・アピスで異なっているのではないかというルルの推測はおおむね当たっていたようで、だいたい遺跡からルルの村までの距離を警戒するように魔砲蜂カノン・アピスが設定されているのに対して、岩巨人ルペス・ギガンテスは遺跡から十数メートルまでとされていた。


 遺跡の地上露出部分については、古代魔族の技術力によりそれなりの長期間倒壊しないように設計されているのだろうが、かといって永遠に大丈夫というわけではないようである。

 数百年に一度は補修が必要なようであり、今回、運悪く、というべきか運良くと言うべきか、グランとユーミスはその数百年に一度に偶然出くわしてしまったらしい。

 倒壊した壁は岩巨人ルペス・ギガンテスが地上露出部分を補修し終えたのち、遺跡に戻るときに内部から完全に密閉するような形で新たに壁を作ってきたらしく、本当に今回はただの偶然らしい。


 ここにかつての魔王であったルルがいる、ということも含めればグランとユーミスの悪運というか強運はほとんど神懸かりに近いものがあるような気もするが、偶然とは案外そう言うものかもしれないなと、ルルはグランたちを待ちながら笑った。


 中央設備を調べて他にわかったことと言えば、この設備が人族ヒューマンとの戦争のために作られた拠点ではなく、何らかの保存設備だということ、そしてその機能が未だ生きているということだ。

 なにが保存されているのかは残念ながら、中央設備それ自体の不具合か、それとも最初から隠蔽していたかはわからないが、調べてもわからなかった。

 ただ、遺跡のマップがある以上、保存設備が遺跡のどのあたりにあるのかははっきりと確認できたので、グランとユーミスが来次第、調査することにしようとルルは考える。


 本当なら、ルル一人で調査しに行きたいところだが、約束は約束だ。

 破ったところで良心が咎めるだけであり、何ら罰が与えられるわけではないとわかっているが、グランは善意からそう言ってくれたのであり、それを裏切るのはなんとなく気が引けた。


 だから、ルルは待つことにした。

 グランがラスティたちを村に送り届けて、ユーミスを連れてくるだろうそのときまで。


 ◆◇◆◇◆


 かつん、かつん。


 古代魔族の作り上げた魔導技術による設備が埋め尽くす部屋の中で、ルルは膝を抱えて突っ伏しながら、グランが来るのを待っていた。

 すると、遺跡の中に反響する音が聞こえてきた。

 それは、よく耳を澄ませてみれば、誰かの足音であることがわかった。


 そしてそれが誰の足音であるのか判別することは極めて容易な話だ。

 こんなところまでやってくる者など、早々現れるはずが無く、そうだとすれば、それはラスティたちを置いてきたグランに他なら無いはずだから。


 実際、しばらくして部屋の中にやってきたのは屈強な剣士、グランだった。

 豪快な笑顔をこちらに向けているグランの表情に、ルルは少し癒されるものを感じる。


 かつての仲間が作り上げ、そして誰もいなくなったこの遺跡の中に一人でいるのは、思いのほか寂しく、つらかったからだ。


 グランがやってきて、体の中に、暖かさが戻ってきたような感覚がする。

 やっと体に、血が巡る。


 そんな憔悴しきったようなルルの顔を見たグランは笑顔を少し曇らせて、


「……おい、大丈夫か?」


 と聞いた。

 ルルはふっと微笑み、答える。


「大丈夫だ……どうも遺跡の中は冷えるからな」


 言われて、グランは改めて辺りを見回し、それから気づいたように体をさする。


「確かに冷えるな……まぁ、地下だからだろう。風邪を引くほどじゃねぇ」


「そうだな。……じゃ、そろそろ遺跡探索するか?」


「あぁ……なんかお前に仕切られてるのは変な感じがするぜ、ルル」


「別にいいだろ。魔導機械を止めたのは俺だ……止まったよな?」


 ルルのその言葉にグランは思い出したかのようにうなずき、言った。


「おぉ、そうだったそうだった。村に襲いかかってた蜂型の魔導機械は全部きっちり停止したぜ。よくやったな。がらがら崩れて地面にぶつかって壊れちまった……ユーミスは少し泣きそうになってたな。貴重な古代の遺産が! とかなんとか……」


 グランは少しおどけてそんなことを言った。

 ユーミスが大げさに悲しんでいる様子が目に浮かぶようだ。


「少しくらい壊れても研究の役に立たなくなるってわけじゃないだろう」


「まぁ、そうなんだろうがな。より完全な状態で手にしたかったってよ」


「その気持ちは分かるけど……今更どうしようもないな。遺跡を探せば似たような魔導機械があるかもしれないけど。あぁ、そういえばユーミスはどこに? 一緒に来たんじゃなかったのか?」


 そう聞くと、グランは顔をしかめて非難するように言った。


「おいおい、お前、自分がなにをしたのか忘れたのか?」


「え?」


「ユーミスの話じゃ、村に張った結界に手を加えたらしいじゃねぇか。ユーミスが出れない出れないって泣き叫んでたぜ。その割に、ラスティたちはすんなり中に入っていったがな」


 言われて、ルルは思い出す。

 そういえばそんなこともしたなと。

 しかしそうだとすれば、なぜグランは閉じこめられなかったのか疑問だ。

 確かルルは、ラスティ、ミィ、ユーリ、そしてグランは結界内に入れるように設定しておいたはずだからだ。

 そして誰も出れないようにした。

 なのに、グランは今ここにいる。

 そう話すと、グランは言った。


「俺が結界に入る前に、ユーミスが叫んだんだよ。結界に入るなってな。危ないところだったぜ」


「あぁ……単純な話だな。それで今もユーミスは結界の中か。また術式書き換えればいいのに」


 そうルルがつぶやく。

 するとグランは首を振って、


「お前、簡単に術式の書き換えとか言うが、それがどれだけ難しいことかわかってるのか? よほど力量差があればまた話は別だが、魔術師がそうほいほい人に術式を書き換えられてたら使い物にならねぇだろうが。一端の魔術師の術式を書き換えるには少なくとも数十分はかかるぜ」


「その数十分はもう過ぎてると思うんだが」


「ユーミスの術式はあいつオリジナルだからな。元々書き換えしにくい上、それにさらに高度な術式を上書きされた結果、どうすれば書き換えられるのか分からなくなってしまった、とユーミスは言ってたな。俺も魔術師の術式については一般的なことしかしらねぇが、ユーミスはあれで一流の魔術師なんだぞ? それを……」


 ユーミスの張った結界はそれなりに高度なものだったので、ルルとしては術式の書き換えくらいある程度時間をかければ出来るものと考えていたのだが、ことはそう単純ではないらしい。

 そういう技術は、数千年の時を経て失われたのかもしれない。

 術式の書き換えは、ただ魔術を使うこととは少し異なるものの考え方の必要になる技術だから、そうなってしまうのも理解できる気もした。


「ま、ユーミスについては戻ったら結界を解いてやればいいだろう。グラン、ここで突っ立ってるのも何だ。話は歩きながらでも出来る。そろそろ進もう」


 そう言ったルルに、グランは首を傾げて疑問を口にした。


「……なんだかな。お前本当に七歳か? 年上と話しているみたいな気がしてくるぞ」


 実際、魔王だったときの年齢を加えると、ルルの方が年上なのは間違いないのだから、その感覚は正しいだろう。

 しかし、現実には、ルルは七歳に過ぎない。

 なんて尊大な口を聞くガキなんだ、と感じたのかもしれない。

 そのため、ルルは素直に謝った。


「そうか? それは悪かった。注意するよ」


 しかしその謝罪すら、何かおかしなものに聞こえたらしい。

 グランはさらに顔をしかめるが、諦めたような顔になって言った。


「……だからなぁ……まぁ、いい。行くか」


 そうして、ルルとグランは歩き出したのだった。


 ◆◇◆◇◆


 遺跡の中は意外なことに暗くなく、空気もあまり湿った感じがしない。

 遺跡の天井はそれ自体が柔らかに発光しており、足下が心許ないということもなかった。

 それら遺跡の設備を見ながら、グランが感嘆の声をあげる。


「凄いもんだな……これならユーミスが遺跡に夢中になる気持ちもわかるってもんだぜ」


「それはどういう意味だ?」


「この……なんだかよく分からねぇ明かりもそうだが、魔導機械が警備を担ってくれたり、他にも色々ありそうじゃねぇか。これだけの技術、一つでも解析できれば生活は相当に便利になりそうだぜ」


「こういうの、大きな街とかにはないのか?」


 ルルは村からほとんど出たことがなく、行ったことがあるのもせいぜい隣町くらいで、大きな都には未だ足を踏み入れたことがなかった。

 そのため、そういった文化の中心地の技術レベルというのがよくわからなかったので、グランに聞いて知っておこうと思ったのだ。


「まぁ……なくはないんだが、こういう建物全体に配置できるような数の確保は難しいだろうな。それに、使う魔力も半端じゃねぇから、長時間の使用には耐えられないのがほとんどだ。ところが、この遺跡ではどうもそうじゃなさそうだ。なにせ、少なくとも数千年は経ってるわけだろ。なのに未だに稼働しているし……どういう仕組みなのかはわからねぇが、相当凄い道具なんだろうな……」


 ルルはその言葉から、かなり原始的な魔法具しかこの時代には出回ってはいないのだろうと推測する。

 父であるパトリックがいくつか魔法具を所有していたし、父の話から、王都にはある程度の数、そういうものがあるということは分かっていたが、一般市民にまで過不足なく行きわたるような大量生産は出来ていない、ということだろうか。

 魔導機械は一部再現できるものもある、と実家に所蔵してある書籍には記載してあったのだが、本当に一部であり、滅多に出回ることがないものなのだろう。

 魔導機械のすべてが魔法具より優れているとは言わないのだが、それでも非常に便利なものが多いことはこの遺跡の明かりからして明らかだ。

 燃費も違うので、一般に大量に出回らせようとした場合には魔導機械の方が都合がいい。

 ルルとしてはいつか、魔導機械の一部を作り、世の中に出回らせようと考えていたのだが、この調子ではそんなことをしたら厄介ごとを生みそうだ。

 父、それにグランからの話だけで全てを判断するわけにはいかないが、もしかしたら止めておいた方がいいことなのかもしれない。

 

 遺跡通路では、幾体かの魔導機械も稼働していたが、ルルとグランに彼らが襲ってくることはなかった。

 中央設備に触れたときにルルがその設定をいじったからだ。

 遺跡設備の維持管理だけにその機能を割り振っているため、ただ歩き回っているだけで、ルルたちには完全に無関心である。


 グランはどうもその様子に慣れないようで、魔導機械が通るたびに大剣を構えて警戒しているが、ルルは肩の力を抜いてずんずん進んでいく。

 そんなルルを見つめて、グランは言った。


「……度胸があるのか無謀なのか、わかんねぇな」


 どちらでもなく、ルルはただ知っているだけだ。

 魔導機械はその設定通りに動く。

 そして今、その設定は人を襲わないものとなっている。

 だからルルたちは安全である。

 ただそれだけの話だ。


 だが、それを説明するわけにはいかないし、しても理解はしてもらえないだろう。

 そのことを分かっているルルは、なにも答えずに微笑み、そして遺跡をさらに奥へと進んでいったのだった。


 ◆◇◆◇◆


「ここが一番奥になるのか?」


 遺跡の一本道を進んだその先で、グランは足を止めてそう質問した。

 彼の目の前には、巨大な両開きの扉が鎮座していて、威圧的にルルとグランを見下ろしている。


 材質は、金属だろうか。

 つるりとした銀色の扉には劣化の色は見えず、相当な長年月をその状態で耐えてきたというなら、耐久性はおそろしく高いと言えるだろう。


 グランはその扉をさわったり押したりしながら、開かないか調べていたが、しばらくして諦めたように首を振り、ルルに振り返って言った。


「だめだな、こいつは開かないぜ」


「扉なんだから開かないはずはないんだが……」


 そうルルが言うと、グランは少し考えてから言った。


「ユーミスの話だが、遺跡の扉ってのは何らかの条件を満たさないと開かないものが少なくないらしくてな。これもそのタイプなんだろうよ……あのお前がいたごちゃごちゃした部屋から操作しないと開かないとかなんじゃねぇか? ……戻るか」


 それは提案だった。

 確かに戻ればあけられる可能性はなくはない。

 けれど、ルルが先ほど調べた限りではそんな機能はあの中央設備にはなかった。

 しかし、グランには適当にいじったと言ってあるので、あまり詳しく説明するわけにはいかないから、そう言う訳にも行かない。

 魔導機械が止まったのは、あくまでたまたま、そういう話なのだ。

 だから、その筋に合うように話を考えて言った。


「いや、ここまで来て戻るのも面倒だろう。それに戻ったからってあけられるとは限らない。もう少し調べてもいんじゃないか」


 ルルのその提案に少し考えたグランは、はっと思いついたかのような顔で言う。


「それもそうだが……いっそぶった切るか?」


 目から鱗、とは言わないまでも、ルルももっとも可能性がありそうで簡単な手段はそれなのかもしれないと思った。

 それに、だめなときはだめなときだ。


「……それもいいかもな。グラン。やってみてくれ」


「おうよ」


 そう言って、大剣を構えて魔力を練っていくグラン。

 まともに剣を振るうのは始めてみるが、やはりその姿は一流の冒険者なのか、相当に力強い。

 これならあの扉も切断できるかもしれない、と思ってしまうくらいには。


「うおらぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 そうして走り出したグランは、気合いを込めて剣を振り下ろした。

 大剣は確かに扉に向かい、その刀身を扉に触れさせた。

 けれど、


 がきぃん!


 と、金属と金属の触れあう音とともに火花を散らせてはじかれてしまう。


「……だめか」


 そういって、がっくりくるグラン。

 大剣が触れた場所をさするが、


「……傷一つ刻めねぇって自信なくなるぜ……」


 などと言っている。

 ルルの目から見ても中々の一撃だったとは思うが、扉の耐久性の勝利と言うことだろう。

 おそらく、あれは魔族でも最上級の技術を使って作成されたものなのだろう。

 こうなっては正攻法で挑むしかなくなったが、中央設備に戻ってもだめなのだ。

 どうしたものか……。


 ルルは扉に近づき、その銀色の縁に触れてみる。

 すると不思議なことにどこかから声が聞こえてきた。

 過去、魔導機械によく使われていた、人工音声。

 その中の一つが、少し掠れて響く。


『……魔……の波……力確認……検索……第100……王……ルルスリア=ノルドと一致……権限……第一位……大……のロックを解除……すか?』


 ざざざ、とノイズが混じっていて、聞こえない部分が多いが、無視できない単語が混じっている。

 しかし今問題にすべきは、そこではない。

 グランにも聞こえたようで、


「……開けてくれるって言ってるのか?」


 と天井を見ながらつぶやいた。

 別に天井からその声が聞こえて来ているわけではないのだが、どこから聞こえてきているのか分からないのでなんとなく天井を見てしまったのだろう。

 グランの言うとおり、人工音声は、おそらく扉を開けるかと聞いているのだろう。

 しかも、ルルの魔王としての名前を呼んだ。

 ルルを魔王本人として認識して。

 今は人族ヒューマンなのにどういうことか、と思わないでもなかったが、今すべきはこの声に答えることだろうと切り替えて、ルルは叫ぶ。


「開けてくれ!」


 開けるかと聞かれているのだから、その一言で良いはずだ。

 案の定、ルルの声を確認したらしく、人工音声は、


『……了解……』


 と一言だけ言った。

 そして目の前の大扉から、がちゃり、と鍵が開くような音がし、それから手も触れてもいないのに、ぎぎぎぎ、と扉が開いていく。

 グランとルルが、驚きとともにその様子をしばらく見つめていると、扉は最後まで開ききったようで、ががん、という音が鳴ってその動きを止めたのだった。


「……扉が開いたみたいだし、中、入るか」


 ルルがそういうと、グランがあわてたようにうなずいて答える。


「お、おう……しかし、本当にこの遺跡は何度も驚かせてくれるぜ……」


 そうして二人は、かつかつと扉の中に入っていったのだった。


 ◆◇◆◇◆


 扉の内部はかなり広い空間になっていた。

 半球状になった天井が部屋全体を支えていた。

 なんとなく厳かな雰囲気が漂っていて、静寂が満ちているような気がする。


 そして、そんな部屋の中心には、透明な材質で作られた円筒形の容器が設置されていた。

 だいたい、人一人分くらいの大きさだろうか。


 それを見て、ルルはそれが何なのかをすぐに理解できた。


 あれは、カプセルだ。

 かつて魔族の、長期睡眠用に作られたそれだと。

 ただし、ルルが死んだ時点で実用化の目処は立っていなかったはずなのだが、それが今ルルの目の前にあった。

 誰かが中にいるのか。

 魔族がかつてのルルの仲間が、いまこの数千年の時を経た今も、そこに眠っているのか。


 そう考えて、強烈な仲間への渇望を覚えたルルは、あわてて足ももつれそうになりながらカプセルに近づく。


 そこになにもいなければ、何かが折れてしまうような、そんな気さえした。


 だから、お願いだから、誰かそこにいてくれ。

 お願いだから。


 ルルはそう思った。


 そしてルルは、覚悟を決めてカプセルの内部を見つめた。


 



 ――すると、その中には、一人の少女が、静かに眠っていたのだった。

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