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第65話 帰って来た王都

 それからしばらくして、村に騎士団の騎士たちがやってきた。

 その迅速な到着に驚いたが、話を聞けば別に王都から直接やってきたというわけではないようだった。

 彼らは王都から連絡を受けて村に急行した近くの砦に――と言っても10キロ近く離れているが――常駐していた騎士たちの一部であり、だからこそこれほど早く辿り着けたのだと言う話にルルたちは深く納得した。

 普通に考えて、王都からこんなに早く辿り着けるわけがないのだ。

 ルルたちは聖獣フウカという言わば裏技を使った結果として一日もかからずにここまでやってこれたのであって、普通に馬などでやってきたら数日はかかったことだろう。

 そのことを考えれば彼らは十分迅速に行動したと言うことになるだろうが、あの黒服たちと比べればその動きは鈍いと言うほかない。

 まぁ、騎士団とあの黒服たちはその存在意義からしてかなり異なっているだろうから、求められているものが異なり、得意分野も違うという事なのかもしれない。


 レナードにもおそらくああいった諜報染みたことを担当する部署の一つや二つはあるだろう。

 騎士団より、むしろそちらが逃げた彼らをどうにかしてくれることに期待するしかない。

 ルルたちからすれば、オルテスを確保できたことで十分目的は達成できたと言えるから、続報はなんとなく知っておきたいと思う程度の事に過ぎないが。


 とは言え、大きく事件に関わったルルたちはやはり事情聴取を免れることは出来ず、しばらくの間、ここで起こったことの説明を騎士団に求められた。

 特に何か疑われている、というわけではなく、純粋に事態把握のために協力を、という雰囲気だったのが救いだろう。

 それに、聴取自体、意外と早めに終わった。


 これは、ルルたちが闘技大会の出場者であり、出来るだけ早く戻らなければならないということを告げたこと、それに意外なことに、一番はじめに魔術による睡眠から目覚めたあの冒険者ディアスが、元騎士ということで、騎士たちに対する橋渡しをしてくれ、また詳しい話は彼に大体していたから、代わりに報告を担ってくれたと言う事情もあった。


 それが故、後に細かいことを聞くことがあるかもしれないから、一応居所と所属は明らかにしていってくれ、と言われたくらいで、二、三時間で聴取は終わり、それからルルたちは王都に戻ることになった。


 闘技大会は彼ら騎士たちも楽しみにしているものらしく、今回の大会を仕事で見に行けないことを悔やみながらも、ルルたちの活躍を祈ってくれたので気分よく村を後にできる。


 誘拐されていた冒険者たちも個々に事情聴取を受けていたが、オルテスについては早目に終わらせてもらえないか頼んでみたところ、事態解決に寄与したことも相俟って、そのお願いは認められた。


 結果として、ルルたちは他の者たちより早く王都に戻ることを認められた。

 フウカの変身時間も残り少なく、それは非常にありがたいことだった。

 騎士たちはその巨大な白銀の狼に驚いていたが、聖獣だとまでは思わなかったようで、キキョウが魔物使いか何かだと思ったようである。

 納得して送り出してくれ、ルルたちはそのまま王都に戻ることにしたのだった。


 ◆◇◆◇◆


「は……はやい……はやいよっ……!」


 などと、オルテスが驚きに目を瞠っている。

 フウカの背中は四人で乗ったら狭いのではないかと思ったが、そんなことはなく、ふかふかのその背中は楽に四人が載れるくらいには広かった。

 乗り心地も良く、スピードも落ちていないあたり、フウカのこの姿は相当優秀だろう。

 一月に一度だけしか変身できないという問題さえなければ、ずっとこの姿のままでいればいいのにと思ってしまう。


 まぁ、王都にこんな巨大な生き物が闊歩していたらみんな驚いてしまうに違いないだろうが、しばらくすれば慣れることだろう。

 フウカは穏やかな気質であるし、大きくても小さくてもその可愛らしさにさほど変化はない。

 多少大きい方が威厳と迫力を感じないではないが、本質に変わりは無いのですぐに馴染むことだろう。


「このまま王都に入ろうとしたらやっぱり止められますよねー……」


 キキョウがそう言ったので、ルルは頷く。


「止めなかったらその門番は間違いなく失格だと思うが。街の手前で降りて、元の子犬の姿に戻ってもらうのが一番いいだろうな」


「ですよねー」


 そんな会話に、オルテスが尋ねる。


「子犬の姿って、この巨大な狼は……一体何なんだい?」


 その質問にそう言えばその辺り説明していなかったと、イリスが一通りの解説をしてくれた。


「この狼はキキョウさんの相棒で、フウカと言います。普段はもっと小さい、普通の子犬のサイズなんですけど、変身が出来ると言う謎の特殊能力をお持ちでして……」


 その説明にオルテスはしきりに首を傾げ、そして考えても納得がいかないと思ったのかため息をついて言ったのだった。


「世の中には不思議なことがたくさんあるんだね……」


「ま、それくらいに思っておくのが楽でいいだろうな」


 ルルがそう言ってその話を閉めた。


 ◆◇◆◇◆


「もうそろそろ着きますよーっ!」


 キキョウのそんな声が聞こえて、ルルたちはふかふかのフウカの背中で感じていた微睡から引っ張り出される。

 流石に一睡もしないで闘技大会に挑むのは無謀と、フウカの背中で順番に睡眠をとっていたのだ。

 時間にして4、5時間と言ったところだろうか。

 その程度で王都まで走りきったフウカの脚力に感嘆する。

 それでもかなりゆっくり進んでくれたつもりらしく、それはルルたちに睡眠時間を与えようと言う気遣いだったらしい。

 飼い主よりずっと気が利くフウカを褒め称えつつ、ルルたちは見えてきた王都を覆う壁を見た。


「昨日ここを通ったんだから、それほど時間は経ってないはずなのに、なんか久しぶりに見たような気がするな」


 そうルルが言うと、イリスが頷いて答える。


「随分と忙しい一晩でしたから……少し、疲れましたわね」


 体力的に、というよりかは精神的な疲労の事を言っているのだろう。

 イリスはその気になれば三日三晩走り抜いても大丈夫な程度の体力がある。

 改めてそう考えると、古代魔族の身体能力と言うのは飛び抜けているなと思う。

 ルルは人族ヒューマンになった影響で、ある程度睡眠をとる必要のある体になってしまったから、うらやましい気もする。

 ただ、睡眠は非常に甘美なものであるという事も同時に知ったので、特にほとんど睡眠を必要としない古代魔族の体に戻りたい、とそこまでは思っていなかった。

 もちろん、古代魔族も睡眠がとれないわけではないのだが、人族ヒューマンと比べるとかなり浅いものだったのだと今になっては分かる。

 その影響が多少残っているのか、人族ヒューマンの体になっても睡眠欲は薄い方で、短時間の睡眠でもかなり疲れは取れる方だが、それでもゆっくりと眠りたいと思ってしまうあたり、しっかり自分は人族ヒューマンになってしまっているのだなと思った。


 王都についたのは朝早くであったが、ちょうど門が開けられる時刻に当たった。

 もしかしたらフウカがその辺りを考えてスピードを調節してくれていたのかもしれない。

 そうだとするなら、なんて優秀なのだろうと深く感じ入る。


 門に入るためには身分証などを提示する必要があるが、ルルとイリス、それにオルテスには冒険者としてのカードがあるし、キキョウは旅行者であることを証する国の発行する証があるのですんなりと中に入ることが出来た。


 それから、オルテスは家族を安心させるためにすぐに家に戻っていった。

 それを見送った後、ルルたち三人は急いで家に戻り、闘技大会の準備を整えることにする。

 と言っても、それほど複雑なことはなく、服を着替えて、組み合わせと対戦時刻を確認するくらいである。

 三人は服を着替えたのち、そのまま闘技場へと向かう。

 本選は全ての試合が国営闘技場で行われる。

 そのため、組み合わせを見るにはそこまで行かなければならない。


 ルルたちが国営闘技場に向かうため、家を出ようとしたそのとき、こんこん、と家の扉が叩かれる音がした。


「……朝っぱらから誰だ?」


 別に今日は特に誰とも約束はしていない。

 当然だ。

 何時くらいに戻ってこれるかも分かっていなかったのだから。

 とは言え、無視するわけにもいかない。

 ルルは扉を開き、誰が尋ねてきたのかを確認する。


 すると、そこに立っていたのはグランとユーミスであった。


「おう、ルル。戻ってきたって聞いたから来たぜ。よく眠れたか?」


 どこから聞いたのかは分からないが、大方シフォン辺りが情報網を駆使してルルたちの帰宅をいち早く察知したのだろう。


「聞いたなら分かってるだろ。全然眠れてないな……」


「だろうな。そう思ってお前たちの対戦表は俺たちが見てきてやった。わざわざ闘技場に出かけることはねぇぜ」


 その言葉にルルはありがたく思い、礼を言う。

 そうすると、試合まではとりあえず家の中でゆっくりしていられそうだからだ。

 昨日から始まった怒涛のように忙しい時間も、少しの休憩を挟めそうである。


「本当か……ありがたいな。とりあえず玄関って言うのもなんだ。中に入ってくれ」


 話を後ろで聞いていたイリスとキキョウは既に家の奥に引っ込んでいる。

 イリスはとりあえず朝ごはんを、キキョウはソファで寝転がってくつろいでいて、いつもの光景が戻ってきたような気がして気が楽になっていくのを感じた。


 それからみんなでテーブルについて、朝食を食べながら、今回の事件の顛末について話した。

 とは言っても、大体の事をグランとユーミスは掴んでいる。

 シフォンがその氏族クランにいるのだから当たり前と言えば当たり前だろう。

 むしろ、彼らはルルたちに今回の事件についてどういう思惑が絡まっているのかを説明しにやってきたようである。


「とりあえず、よくやった、と言っておこう。お陰でアンクウ以外の冒険者たちはみんな帰ってきたからな。今はまだ問題の起きた村にいるようだが、全員特に後遺症なんかもなく元気みたいだ」


「あぁ、それは俺たちも確認してから来たよ。魔術で眠らされていたが、解呪もしておいたからな。基本的には安心だろう」


「ルル、お前がそんなことまで出来るとは知らなかったぜ……普通、解呪関係は神官の御業だからな。今回みたいな場合は仕方ねぇが、あんまりほいほい使うのは勧めねぇぜ。ここに変な宗教家とかがやってきたりするかもしれねぇからな」


 それは確かに勘弁したいところである。

 ルルは頷いて、グランに続きを促した。


「……それでよ、今回の事件の黒幕についてなんだが」


「何か分かったのか?」


「いや、それが……不思議なくらい何にもわからないみたいだな。実はこの国には騎士団とは別の諜報機関があるんだが……」


 やはり、そう言った組織がこの国には存在するらしい。

 これだけ大規模な事件だ。

 そういうところが調べていたのだろう。

 しかしそれでも分からない、となるとかなり問題なのではないだろうか。

 そう思って尋ねる。


「その諜報機関が調べても何も分からなかったのか?」


「あぁ。たとえば、お前らが村で見つけた馬車の御者たちの身柄は結局その機関に渡ったんだが、何も覚えていないらしい。というか、もはや廃人に近い状態だったみたいだな」


 確かに、どこかおかしいと思わせる雰囲気だった。

 あれはわざとやっていたという訳ではなく、もはやまともな人間としての精神を保っていなかった、ということだったのだろう。

 魔術によって長期的に洗脳、ということは出来ないとされているが、ただ精神を破壊することなら出来なくはない。

 一定以上の魔力を持つ者相手にそれは難しいが、そうではない一般人相手ならおそらくある程度の実力のある魔術師なら可能だろう。

 グランは続ける。


「それに、馬車自体も燃えていたな。型番くらいは分かったようだが、せいぜいそれくらいで……どこで買われたものだとか、そういうことは全くの不明だ。問題の黒服たちにしても、国境で網を張って待っていたらしいんだが、結局撒かれてしまってな。何も分からずじまいだ。最後にイリスとキキョウが倒した黒服たちだが、身に付けているものは全てどこにでもあるようなもので、所属が明らかになるようなものは一つもなかったということだ。あえて言うなら暗殺や諜報を得意にしていたんだろう、と言えるくらいの統一性はあったがな。それくらいの情報は、見れば分かることだしな……」


 つまり、纏めて言って何も分からなかったということなわけだ。

 国としての威信は大きく傷ついたことだろう。

 さらに、中級クラスとは言え、騎士を何人か攫われている。

 ある程度の機密も握っていただろうから、どうしても行き先くらいは掴みたかっただろうが……。


「ま、どうにもならん。とは言え、それでお前らに責任が、とかそんなことはないから安心しろと言いに来た。それと何か続報があったらまた伝えてやる。この件については冒険者組合ギルドも無関係ではいられなくなったからな。攫われたのがほとんど冒険者、しかも上級であるアンクウが何も出来ずに結局誘拐されてしまっている……何か分かったらお前らも積極的に冒険者組合ギルドに報告してくれ。報酬は出る……っとそんなものかな」


 その辺りでグランが話を終える。

 それで、彼らの用事は終わったらしい。

 イリスが作ってくれた朝食に舌鼓を打ちつつ、それからしばらくの間、家で休んだ。

 彼ら二人も闘技大会に出ているが、対戦の時刻はルルたちより遅いらしく、くつろいでいる時間があったようだ。

 そしてルルたちの対戦の時刻が近くなり、一緒に闘技場に向かうことにしたのだった。

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