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第26話 歓迎会とラスティたちの行方

 火竜解体ショーも終わり、それから氏族クラン本拠地に戻ったルルたち。

 それと他の氏族クラン構成員たちは、ショーの勢いそのままで今度はルルたちの歓迎会へとなだれ込んだ。

 料理はあとにして、とりあえず酒場のある酒をそれぞれのグラスやジョッキにそそぎ込み、


「そう言うわけで、新たな仲間の門出に、乾杯!」


 ジョッキに並々と入ったエールをグランが掲げて、そう言うと同時に、続いて酒場に集まっている他の人間も同様に「乾杯!」と言ってジョッキを掲げ、ぶつけ合って、ルルたちを歓迎してくれた。


 氏族クラン"時代の探求者エラム・クピードル”は大所帯、というほどでもないが、少なくない数の冒険者が身を寄せているそこそこの規模の氏族クランのようで、酒場にいる人数はだいたい、二十人弱、と言ったところだろうか。

 大規模氏族クランになると百人二百人はいることもあるということだから、中堅規模ということになるのだろうが、それでも結構な人数で酒場の熱気がすごい。

 男女比は半々、という感じで、種族的にもばらばらのようである。

 ユーミスと同様の古族エルフ、それに村の周辺ではあまり見ることのなかった獣族アニマゼアスなどもいて、昔と同じように存在している種族に懐かしさを覚えた。

 こんな風に分け隔てなく同じ場所で多種族が酒を酌み交わしている、というのは極めて奇妙なものに見えるが、同時に昔実現できるものなら、と夢想した夢の一つでもある。

 それが目の前にあることに、ルルは少しばかりの感動を覚え、笑みを隠せずに、長い年月と偶然が作り出したのだろう奇跡の様子を眺めていた。


「よう、楽しんでるか?」


 グランがそう言って近づいてくる。

 隣にはユーミスがいて、少しだけ疲れた顔をしていた。


「楽しんでいるでしょうよ。見てよ、笑ってるじゃないの。そうよね、ルル? 楽しいわよね? 楽しいでしょ!」


 ユーミスが怒っているのか機嫌がいいのかよくわからないテンションなのは、酒に酔っていることと、解体ショーで多くの魔力を使用したことによる疲れからだろう。

 それでも結局半日近くあの規模の結界を維持していたのだから、その腕はこの時代の魔術師としては最高峰に近い。


「あぁ、楽しんでるさ。突然来たのに、こんな歓迎会まで開いてもらって悪いな」


 苦笑しながら答えるルル。

 しかしその顔は決して不機嫌そうではなく、言葉通り楽しんでいることがわかる。

 昔から、こういう場は嫌いではなく、むしろ好きな方だったから楽しいのは事実なのである。

 ルルのその言葉に安心したのか何なのか、機嫌良さそうに歌いながらユーミスはどこかのテーブルに消えていった。

 遠目に見ると、同じようなやりとりを他の氏族クランメンバーとも繰り返しているようである。

 酔っぱらいだ。

 グランは飲んでいるが、一応正気は保っているようで、まじめな顔で頷く。


「ならよかったぜ……ラスティたちがいないのが寂しい気もするが、まぁ、明日明後日には戻るだろうよ」


 グランの安心したようなその声に、ルルはこの場にいない幼なじみたちの様子が気になって質問する。


「そう言えば、あいつら今何してるんだ?」


「依頼だよ、依頼。って言っても、知り合いから出された指名依頼なんだが……」


「指名依頼って?」


 聞き慣れない言葉に、ルルは首を傾げる。

 グランは頷いて続けた。


「お前も冒険者になったらそのうちやることになるだろうから、今のうちに教えておくが、依頼には一般依頼と指名依頼、という大きなくくりがあるんだ」


 冒険者という制度が基本的に依頼制度により成り立っていることは知っていたが、その詳しいところはあまり知らないというか、調べようとしなかったのでルルはまじめに聞くことにする。


「だいたい意味はわかるだろうが……一般依頼、ってのは、特に依頼をこなす相手を指定しないもので、指名依頼、ってのは依頼をこなす相手を特定の人物や団体に限定するもののことを言う。さらに細かいことを言うと、制限一般依頼というものと、無制限一般依頼というものがあるんだが、制限一般依頼は、冒険者の位階を指定して依頼するもので、無制限一般依頼はその指定がないものだ。指名依頼にはそういう制限は性質的に不要だから、そういった区別はない。ここまでわかるか?」


 一息でそこまで言って、グランは言葉を一端止める。

 ルルはその内容を咀嚼し、理解していることを確認すると、イリスを見て同様に理解できているかを視線で尋ねた。

 イリスもまた、ルルと同様に問題なさそうで、


「つまり、制限一般依頼、無制限一般依頼、それに指名依頼、というのが冒険者組合における依頼の種類ということでよろしいでしょうか?」


 とグランに話をまとめて聞いた。

 するとグランは一応頷いたが、まだある、と言って続ける。


「いや……指名依頼には制限はないんだが、これもまた種類がある。通常指名依頼と、特別指名依頼というものだ。前者は通常の個人や団体が冒険者を指名して依頼するものだが、後者は冒険者組合それ自体が特定の冒険者に依頼を出すもののことを言う」


「なるほど……それ、依頼の種類はそれで以上か?」


 まだ続きがあるかもしれない、と思ってルルはそう尋ねる。

 するとグランは頷いて、


「あぁ、ここまでだな。というわけで、依頼には制限一般依頼、無制限一般依頼、通常指名依頼、特別指名依頼、の四種類があるということになる。で、冒険者組合に寄せられる依頼の大半は一般依頼と通常指名依頼になる。特別指名依頼は滅多なことでは出されない。一定以上の実力があるか、特殊な技能を持った冒険者以外には出されることがない性質のものだからな。特に新人冒険者には全く関係がないと言ってもいい類の依頼累計だ。……ただ、だからといってこれについて知っておく必要がないということにはならないからな」


「どうして?」


 ルルは不思議に思って首を傾げた。

 グランの話が事実なら、新人にはまるで関わりのない依頼のはずだ。

 であれば、特に気にする必要もなさそうだが。

 特殊技能についても、ルルとイリスは持っているかもしれないが、吹聴しようとまでは思っていないのだ。依頼に結びつく、とは思えない。


 グランは続ける。


「特別指名依頼は断ることが難しく、そして断ると罰則が科されることがあるからだ。だから、受ける受けないはよく考えなければならない、ということを一応頭の隅においておく必要がある。ちなみに罰則は色々だが、最悪除名処分になるからよくよく気をつけておけよ。お前等はその辺り、心配だからなぁ……」


 グランはそう言って、心配そうな目をルルとイリスにやった。

 除名処分、とは厳しいとは思うが、冒険者組合がそうまでして強制しなければならない重要性のあるものが特別指名依頼になる、ということだと考えれば均衡を逸しているとまでは言えないだろう。

 冒険者組合が、個々の国家による制限をほとんど受けることのない団体であるとはいえ、だからといって何の役割も期待されていないと言うわけではないからだ。

 特に、魔物に対する活動については、一定の義務が冒険者組合には課せられているらしく、魔物の大量発生が起こり、国家に属する騎士団だけでは対応できなくなった場合などには、冒険者組合にも冒険者の拠出義務が生じるらしい。

 特別指名依頼はそういうときに出されるものらしく、グランも何度か経験していると言う。

 だから、絶対に自分に出されない、とは考えるなという話だった。


 それからグランは話を戻して、ラスティたちがどうしているかについて語る。


「ま、それでだ……つまり、ラスティたちは一般指名依頼を受注しているわけだ。依頼主は、氏族クラン"時代の探求者エラム・クピードル"」


「それはどういう……?」


 自分の属する氏族クランから依頼を受けるのはありなのか、ということもそうだが、なぜ彼らに依頼を出したのか、というところも気になってルルは尋ねる。


「ちょっとした用事を頼んだというか……こないだうちの氏族クランに新人が三人入ったんだよ。とは言っても、うちの氏族クランのメンバーのガキなんだが……」


 グランがそう言って、酒場の中にある特定のテーブルに目をやった。

 そこには中年の男が二人と、男性と同じくらいの年齢と思しき女性が一人座っていて、グランの視線に気づくとジョッキを掲げて会釈した。


「あいつらのガキな。で……」


「その子供たちに依頼をしたのですか?」


 イリスが聞くと、グランは首を振った。


「そうじゃない。そのガキどもは普通に一般依頼を受けていったよ。初めての依頼受注だ。低位階向けの、制限一般依頼をな。だけどその依頼がなぁ……ニョルズ山中腹に生える薬草の採取ってやつで……問題がな」


「……それのどこがだめなんだ?」


 薬草採取。

 危険な魔物討伐、というわけではないので初依頼には良さそうなもののように思える。

 しかしそれは間違った推論らしいことが次のグランの言葉でわかる。


「いや、薬草採取自体はいいんだ。ただ、ニョルズ山の中腹まで行くのにここからなら二日はかかるんだぜ?」


「あぁ……そうか、日帰りできないと」


 理解してそう言ったルルに、グランは頷いた。


「最初の依頼なんだから薬草採取くらいにしろとは事前に言ってたんだけどな、せいぜい近くの森とかそういうところを選ぶくらいの感覚はあると期待してたんだが……気づいたらもう依頼受注して、街を出てたんだよな」


「それからどうなったのですか?」


 はらはらしたようすでイリスが続きをせがんだ。


「どうもならねぇよ。仕方ないから、ラスティたちに追跡と護衛を依頼した。見つからないようにな。とは言っても、ラスティたちにも生活があるから、いくら氏族クランに所属してるからってただで何日も拘束するのは悪いだろう。だから、指名依頼を出して向かわせた。まぁ、別にそのガキたちも弱い訳じゃないからな。それくらいの手続きをしても問題はなかった。少し過保護すぎる気もするが……一人前になるまでは面倒を見るのがうちの氏族クランの考えだからな」


 それでラスティたちがいないわけだ。

 ルルとイリスは理解して頷く。


「ま、ラスティたちもお前らに会いたがってたからな。ここ最近はあんまり街を離れる依頼は受けてなかったんだが、タイミングが悪すぎた……その謝罪も込めてるわけだ」


「その子供たちの追跡にグランたちが行くわけにはいかなかったのか?」


 ふと思いついて、ルルは尋ねた。

 実力で言うなら、今でもグランやユーミスの方がラスティたちよりずっと上である。

 心配だから追跡するというのなら、彼らが行った方が確実なはずだ。

 そんなに忙しそうにも見えないことであるし。

 もちろん、火竜解体ショーがあった、というのもあるだろうが、別に解体なら別の人間に任せてもよかっただろう。

 シフォンなんかは出来そうなのは間違いない。


 そんなルルの疑問にグランが答える。


「行ってもよかったんだが、もし見つかったときのことを考えるとな。俺たちが行くよりラスティたちが行った方が許されやすいと思ったんだ。ガキでも冒険者だ。プライドってもんがあるぜ。こういうことは、こっそりやらなきゃならねぇ。それによ、聞いてくれよ、ルル。そのガキども、俺よりラスティたちを尊敬してるんだぜ?」


 思いがけない話に、ルルは一瞬頭が白くなった。


「え」


 そんな反応を笑ったグランは、話を続ける。

 聞けば聞くほどおもしろい内容で、ルルの頭の中にどんどん想像が膨らんでいく。

 イリスも同様らしく、吹き出しそうな顔だ。


「まぁ、帰ってきてから見てやれ。おもしろいから。ラスティたちが兄貴とか姉貴とか呼ばれてんだぜ。まぁ……別にそのガキどもだけじゃなくて、他の氏族クランの新人たちもラスティたちを敬っているから、もう王都では見慣れた光景なんだがな。ただ……それこそ洟垂れの頃からあいつらを知ってる身からすりゃよ……おかしくてなんねぇぜ。くっくっく……」


 そう言って、グランはジョッキのエールを一息であおって、さらに酒を樽から注いで飲み干していく。

 あのラスティたちが、兄貴姉貴扱いをされている、というのは実際に見てみなければわからないが、ルルたちには滑稽に映りそうな光景だ。


 知り合いが有名人とかそんなものになって、誰かにちやほやされているというのは、すごい、というよりもむしろ笑いの方が先に出てしまうものである。

 実際、過去ルルが魔王になったそのときにも、イリスの父バッカスは吹き出しそうな顔でルルの顔を見つめていたのを覚えている。

 あのときとは逆のことが自分の身に起ころうとしているらしい。


 そう思ったルルは、たとえラスティたちが実際に兄貴とか呼ばれている現場を見ても吹き出さないようにしようと決意をしたが、そんな光景が目の前で繰り広げられることを想像すると、とてもその決意を全うできるとは思えなかったのだった。


 ◆◇◆◇◆


 次の日、ルルとイリスは冒険者組合の前に立っていた。

 王都についてから色々あった気がするが、やっとのことで登録である。

 登録それ自体にはそれほどの手間はかからないらしく、気楽に行ってこい、とのことだった。

 グランとユーミスの紹介状兼氏族クラン加入合意書もあるので、信用と言う面でも問題はなさそうである。

 冒険者組合には、子供というか、冒険者組合に加入できる年齢の最低限でやってくる者に対して、自分の村に帰るように、とか他に向いている職業に就け、だとか言う受付と言うのがたまにいるらしく、紹介状があれば、そう言った者に対する対策と言うか、面倒なやりとりなしで加入できるらしい。


「さて、いつまでもここにいても仕方ないな、行くか」


 ルルはイリスにそう言って、中に進むべく足を踏み出した。

 イリスもそれに続き冒険者組合へと入っていったのだった。

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