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第237話 人化の術開発

 次の日は、とりあえず買い出しなどをするということになった。

 と言っても、ルルたちにはそれほど買うものなどない。

 せいぜいが食事くらいだが、それはモイツたちが用意してくれる、と言う話になったからだ。

 そのため、買い出しもすぐに終わってしまい、三人は宿の中でゆっくりと休んでいた。

 ちなみに、明日からの足であるが、ルルたちはモイツとイヴァンが乗ってきた馬車に、まだ十分な余裕があるということで、それに同乗する形で、しばらく一緒に旅をすることに決まった。

 馬車に余裕がある理由は、モイツが乗れる馬車なのであるから、その大きさが普通のものよりも大きいものであるからであった。

 悪目立ちするほど巨大、という訳ではないが、通常のものより内部が広く、また材質も頑丈なもので作られているらしい。

 御者はイヴァンがするということ、馬車の荷台それ自体にはそもそも結構なスペースが余っていた、というのもある。

 そういうわけで、ルルたちはその好意に甘えさせてもらうことにした。

 ただで、というのは少し申し訳ないような気もするので、あとでルルがバルバラに教わった人化の魔術を教えてやることがお礼のようなものだということにすればいいだろう。

 まだあまり人化の魔術の魔力節約のための分析と改変は進んでいないが、ルルであれば半日もかければ何とかなると思われた。

 

「……ここの構成はどうした方がいいかな」


 宿の部屋の中で、ルルが空中に人化の魔術の基本的な構成の描かれた図面を投影しながら、ゾエとイリスに尋ねる。

 ゾエはそれをちらりと見てから、


「これでも魔力消費がまだ大きいような気がするわ。使うのが魔族なら問題ないでしょうけど、もう少し減らした方が……持続時間とか考えるとかどうかしら?」


「あんまり時間を短くするのもなぁ……複数作って時間毎に使い分ける形にするかな……」


 ルルがそう言って顎をさする。

 人化の魔術が持続する時間を魔術の中に組み込まないで魔力が続く限り、とすることもできるし、そういう構成の人化の魔術はすでにできているのだが、実際に使ってみれば時間を決めないでいるよりも魔力消費量が高いことが分かった。

 それもルルたちならともかく、一般的な魔術師が使った場合は誤差とは言えない量でだ。

 使っているうちに干からびる魔術は恐ろしくて使う気になれないだろう。

 それなら初めから持続時間が決まっていて、魔力も使用した時点ですべて使用される形にした方が気軽に使えるだろうと思い、その方向で調整しているのだった。

 ちなみに、改変した人化の魔術の実験台になっているのはニーナである。

 ルルたちに使ってもあまり意味がないからだ。

 ただ、そうは言っても一応、使ってみたところ、ゾエとイリスについては髪の色と目の色に変化が出たので、全く使えないと言うほどではない。

 色合いは魔術自体に色々と手を加えてある程度自由にできるようになったので、簡易的な変装魔術として機能するだろう。

 さらに進めて、容姿それ自体を変える方向にも発展させられたので、かなり役に立つ魔術を手に入れられたのかも知れない。

 こちらの変装魔術の方はモイツにも教えない方がいいだろう。

 あまり広まりすぎると、犯罪に利用されそうだ。

 ルルたちならそんな悪用はしない……とまで言えるかどうかは謎だが、少なくとも通常の犯罪を犯すことはないだろう。

 やむにやまれぬ事情があったら、話は別だが。


「人化したときの容姿は……まぁ、あんまりいじらなくていいか。このままの方がおもしろそうだし」


 ルルはそうつぶやいて、人化したときの容姿を決定づける部分はいじらないでおくことに決める。

 その部分は魔術に非常に詳しいルルをしても結構おもしろい、と感じるような作りをしており、人化の魔術を使った術者がどんな容姿になるかは使ってみないと分からないランダムな選択がされるようになっていたからだ。

 しかし、そうは言ってもめちゃくちゃな作りをしているわけではなく、またランダムと言っても完全なランダムというわけではないようで、術者の何らかの要素を読みとって、それに従い相応しい容姿にする、という作りをしていた。

 この部分を改変することで変装魔術としても機能するのだが、ここまで詳細に分析して新たな魔術を作り出すのは現代においてはルル以外には難しいだろう。

 人化の魔術は思った以上に複雑な作りをしており、その辺の魔術師が簡単に改変できるようなものではないからだ。

 シュイやウヴェズドクラスでも、難しいだろう、と思われるほどだ。

 この人化の術を基礎とする変装魔術が開発されるのはかなり先になることだろう。

 まぁ、開発されたところでルルたちは全く困らないのだが、社会は困るであろうから、積極的に進めるつもりはない、ということだ。


「……よし、こんなところでいいだろう。ニーナ」


「きゅっ!」


 ルルが呼びかけたので、小竜リガ・ドラゴン姿のニーナがぱたぱたとルルのもとまで飛んでいき、座った。

 それからルルはニーナに手を翳し、


「じゃあ、かけるぞ。……人化ホーマ・サンジ


 本来であれば、もっと長い呪文が必要なのだが、ルルの場合はそんなものはいらない。

 たった一語で簡単に発動させてしまう。

 さらに、その気になれば無詠唱でも問題ないのだが、そうすると使用魔力量が増えるので、一般人向けに開発していて、使用魔力量を正確に計りたい今はそうはしないことにしていた。

 後で、呪文も含めて唱え、さらに正確な使用魔力量をはかるつもりである。

 だが、その前に効果の方の確認だ。

 実際に使ってみて、使用魔力量はそれほどでもない。

 現代における初級上位魔術程度のもので、持続時間も二時間ほどと悪くないだろう。

 ルルの手から放たれた光がニーナを包んでいく。

 そして、それが晴れると、ニーナの姿は小竜リガ・ドラゴンから人族ヒューマンのものへと変わっていた。

 晴れた空のような青い色の髪をおかっぱに切りそろえた、琥珀色の瞳を持つ少女がそこにはいた。


「成功なの! いい感じなの?」


 ニーナがそう尋ねてきたので、くるっと回転してもらってまず容姿の方を確認する。

 見た感じ、問題はなさそうで、特にしっぽが生えているとか耳がおかしいとか言うこともない。

 色々といじっているときにはそういう失敗が何度かあったので、ルルは安心する。


「何か違和感とかはないか?」


「特にないと思うの。どこかおかしいところあるの?」


「いや、ないな。よしよし、これで人化の術開発も終了だな。モイツにいい報告ができそうだ……。ニーナも使おうと思えば使えるし」


 小竜リガ・ドラゴンとほぼ変わらない戦闘能力しか持たないニーナであるが、一応、魔術はある程度使える程度に魔力は回復している。

 満タンになるまではまだまだ遠いらしく、戦闘員としては全くあてにならないが、自由に人の姿になれると彼女も便利だろうと思って、魔力をある程度ためることのできる魔法具も渡していた。

 チョーカーのような形をしたそれは、ニーナの首に巻き付けられており、小竜リガ・ドラゴン姿から人族ヒューマンに変化してもはずれたり、首を締め付けたりすることなく自動的にサイズが調整されるという優れものだ。

 魔力をためるのは、ニーナ本人ではなく、その都度、ルルかイリスかゾエが補填する形である。

 つまりは、魔力タンクのようなものであった。

 ここまで小型化されたものはほとんど魔導機械に近く、売れば相当な金額になるのは間違いないが、ぱっと見はただのチョーカーにしか見えない。

 これを盗もうとするものはきっと現れないだろうと思われた。


「うれしいの! これでいつでもお菓子をたべにいけるの!」


 目的がそれくらいなのがあれだが、まぁ、いいだろう。


「じゃあ、早速試しに買いに行ってみるか?」


 とルルが言えば、


「いいの!? いくの~!」


 と目を輝かせてルルに抱きついてきた。

 それからルルは、ポケットに手を入れて、


「……じゃあ、これ、お小遣いな。買いたいだけ買ってくるといい。何かあったら、連絡するんだぞ」


 そう言って、お金を渡した上で、ニーナの耳にイヤリング型の魔法具をつける。

 イリスとゾエが身につけているものと効果は同じで、双方で会話のできるものだが、ただ一つ異なるのはニーナのものはほぼ通話先の人間の魔力だけを使用して通話を維持する点である。

 ニーナには少し魔力が戻ってきているとはいえ、この魔法具はそれこそ通常の魔術師に耐えられるような魔力使用量ではなく、駆け出しの魔術師くらいの魔力しか持たないニーナにはとてもではないが扱えないものだ。

 しかし、ニーナを一人で出かけさせるのも心配なため、ルルが新たに作ったのである。

 ニーナが街を出歩いているときは、魔力を追いかけて半ば監視しているのだが、それに加えてこんなものまで作ってしまうあたり、ルルは過保護であった。

 ちなみに、この道具もほぼ魔導機械であり、売れば一財産であるのは間違いない。

 しかしそんなことなど分かっていないニーナは、


「じゃあ行ってくるの~」


 と言ってリュックを背負い、部屋を出ていったのだった。


 ◇◆◇◆◇


 しばらくして、やっと宿に戻ってきたニーナはすぐに小竜リガ・ドラゴンの姿に戻った。

 効果時間ぎりぎりで戻ってくるあたり、ちゃんと計算していたらしい。

 効果時間ぎりぎりになってきて、街中で突然、少女が小竜リガ・ドラゴンに変化したところを想像したルルたちは気が気でなかったが、一応足取りは宿に向かってきているので大丈夫だろうと戻ってくるまで待っていることにしたのは間違いではなかったようだ。

 もしものときは、何か煙幕でも張ってごまかそうと考えていただけに、ニーナが何事もなく戻ってきたことはフィナルの住人にとっても幸いだっただろう。


 ちなみに、肝心のニーナが買ってきたお菓子であるが、リュックにたくさん詰め込まれていて、渡した金額と比べて、少し多すぎないか、という感じであった。

 どうしたのかと聞いてみれば、


「悩んでたら、お店の人がサービスしてくれたの! パパたちにあげたいのって言ったら、街を守ってくれたお礼だって言ってたくさん! これでも、持ちきれないからって遠慮した方なの~」


 と説明してくれた。

 小竜リガ・ドラゴン姿ならともかく、今の幼児姿のニーナを知るものはこの街にはいないはずである。

 けれど、妙に目立つ容姿であり、かつその口からルルたちの名前が出たことで、知り合いだということで納得したらしい。

 ルルたちの顔や名前をはっきりと知っているのは、あの戦いに参加した騎士や冒険者たちだけであるが、ある程度は街の人間にも知られているらしく、フィナル防衛の功労者として感謝の気持ちがあるらしかった。

 ありがたいことだが、こんなにたくさん食べきれる気がしないが……。

 そう言うと、ニーナが、


「大丈夫なの! あまったら私が全部食べるの!」


 と笑ったので、ルルは、


「……そう言えば、小竜リガ・ドラゴンって太るのか……?」


 と呟く。

 その言葉にイリスが、


「……太りますよ。街中で随分とぷっくりとされて、空を飛べなくなってしまった小竜リガ・ドラゴンとすれ違うことがありますし……ただ、ニーナちゃんは古代竜エンシェント・ドラゴンですから一概に同じものとは……」


 と微妙な表情で言った。

 ルルはさらに、太った場合、人化の術に影響が出るのかも気になってくる。

 そして、


「……ちょっとだけ太らせてみようか?」


 と言ったところ、ゾエに、


「おやめなさい」


 とぴしりと言われてあきらめたのだった。


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