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蘇りの魔王  作者: 丘/丘野 優


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第191話 穀物袋

 フィナルに戻ったイリスとゾエ、それに冒険者たちの一団はフィナルに入ると、まず怪我人を治癒術師のいる治療院に運ぶものと冒険者組合ギルドに報告や捕まえた少女の護送をする者とに分かれた。

 怪我人の数から、治療院に向かう者の方が多く、冒険者組合ギルドに向かう者は十人にも満たない少数である。

 報酬や今回起こったさまざまな事態の報告の問題もあることから、それぞれの班の代表者は全員いるが、それ以外の者は治療院の方に向かったことになる。

 ゾエとイリスは冒険者組合ギルドに向かう組の方に入っていて、それについて文句を言う者は特にいなかった。

 厳密に彼女たちが今回のあの少女や巨人との戦いにおいてどれだけのことをしたのかは理解できていなくとも、彼女たちがいなければ少なくとも今ここにいられなかっただろうということは分かっているからだ。

 そして、実際にあの者たちと戦った二人がいる必要があることも飲み込んでいて、だから何も言わない、という訳である。


 冒険者組合ギルドに入ると、そこにいた冒険者達、それに冒険者組合ギルド職員たちが出迎えてくれた。

 それは、今まで誰が行っても帰ってこなかった場所に行き、生きて帰って来た彼らに対する賞賛を含んでいるもので、本来なら胸を張っているべきところだった。

 しかし、数多くの怪我人を出し、最も重要な敵と思われる者たちに手も足も出なかったという事実があった上でそうできる者はおらず、全体的に沈んでいる雰囲気である。


 それを見て、職員や冒険者たちは怪訝そうな顔をしていたが、この場で詳しい説明をするわけにも行かず、そもそもまず第一に組合長ギルドマスターオロトスや、領主クロード、それに北方組合長ノース・マスターモイツに報告すべきことなので、リーダー格の男は真っ直ぐに職員のところに行き、言う。


「……見ての通り、森まで行って帰ってきた。早急に報告の必要な事柄がいくつかある。組合長ギルドマスター、それに領主様とモイツ様に会いたい」


 言われた職員はその言い方に余程の事があったのだろうと察知したらしく、即座に指示を出してクロードとモイツを呼びに行かせた。

 組合長ギルドマスターオロトスは森に行った冒険者たちの帰還を今か今かと待っていたらしく、


組合長ギルドマスターは皆さまの帰りを待っておられましたので……来たらすぐに三階の大会議室に上げるようにと仰せつかっております。報告はこちらの方々全員で?」


 そう尋ねたのは、通常はこういった依頼の場合、代表者が一人で報告するものだからだろう。

 十人ほどで報告、というのは少し数が多い。

 大荷物を背負っている者もいるくらいで、奇妙にも見えたのだろう。

 しかし今回に限っては、多くの視点から見た報告をした方がいい。

 時間があればまとめ上げたうえで、やはり一人が代表者として報告する、という方法を取るべきだろうが、そう言った時間も取れない。

 どういった質問が組合長ギルドマスターたちからされるのか予測がつきにくい以上、全員で行くべきだろう。

 だからリーダー格の男は言った。


「あぁ。ここにいる全員だ。俺一人でも説明できないことはないが、それだと手落ちが怖くてな。それに、こっちの二人はまた別件で話があるらしい。これもかなり重要な事柄だ」


 ゾエとイリスはまた、冒険者たちがするものとは別の報告がある。

 そのことを説明してくれたわけだ。

 職員はそんな男の話に頷き、即座に三階へと全員の案内を始めた。


 ◆◇◆◇◆


「おぉ……良く帰って来た、良く帰って来たな! お前たち!」


 大会議室に入ると同時に、椅子にかけていたオロトスがその顔から険しい表情や厳粛さを取り払って立ち上がり、近づいてきて全員に抱擁をしてきた。

 その雰囲気からは本当に心から冒険者たちの帰還を喜んでいることが感じられ、オロトスの性格が理解できる。

 涙を目の端に浮かべているくらいであり、帰還の可能性を相当低く見積もっていたのだろう。

 しかし、ずっとそんな風にしているわけにもいかず、オロトスはすぐに本題に入った。


「帰ってきて早々、悪いが報告を頼めるか? 人数も少ないが……」


 その言葉に返答したのは、リーダー格の男である。


「犠牲者はいないから安心してくれ。それもこれもこの二人のお陰だが……」


 そう言って男はゾエとイリスを見た。

 オロトスは男の言葉に驚いたように目を見開き、


「お前たちとて手練れのはずだが……この二人はそれほどか」


「正直、比べるのも烏滸がましい、と言うのが正直なところだが、それはいい。まず報告だ」


 二人のそのやりとりから、オロトスと男はかなり親しい者同士であることが分かった。

 男は男でベテランの雰囲気があるし、オロトスも五十近いだろうが、冒険者組合ギルドにそれくらいになるまでいたと言うなら長い付き合いになる者も出てくるだろう。

 男はまず、オロトスに掻い摘んで森での出来事を話した。


「色々あったんだが、まず以前の森には見なかった魔物を大量に確認した。石像魔ガーゴイルやら独眼牛カトブレパスやらだな……こいつらはどれも巨大で、強力なのは間違いなかったが俺達でも勝てないほどじゃなかった。本気で掃討しようとすれば、犠牲は出るだろうが何とか出来るかもしれない、と思えるくらいには」


 実際、男の言う通り、その辺りの魔物に関してはそれなりに苦戦はしていても、大けがを負うような被害は冒険者たちには出ていなかった。

 それは、森に行った冒険者たちがしっかりと選別されたベテランやそれに近い者たちで構成されていたからだが、それでも森を騒がせていた魔物達が被害をほとんど出さずに何とかできるレベルの魔物だった、と言うのはオロトスを安心させたらしい。

 ほっとしたように息を吐いて、


「そうか……どうやら最悪の事態ではなさそうだな……」


 そう言った。

 確かに、それだけならオロトスの感じた気持ちは正しかっただろう。

 けれど、報告には続きがあるのだ。

 男は続けた。


「話はまだ、終わってないぜ」


 未だ緊張感を失っていない男の声色に、オロトスは眉を寄せる。


「なに……? そうか、続けてくれ」


 自分の早とちりを理解したらしいオロトスが男に続きを促した。


「あぁ……実際、少しデカいだけの石像魔ガーゴイルたちだけなら俺達も安心できたし、もう少し森を探索できたんだが、そうもいかなくなってな」


「……何か、起こったわけか」


「あぁ。これについては正直、俺も細かくは説明できねぇ。だから森の調査をしたパーティのリーダーたちを全員連れてきた。もし疑問があったら、分かる奴が答えていく感じなるが……」


「分かった。では続きを……」


 オロトスがそう言いかけたところで、大会議室のドアががちゃりと開いた。

 全員が扉の方を振り返ると、そこからクロードとモイツが現れる。


「遅くなってわりぃな」


「大変遅くなりまして……図体が大きいとこういう時は困りますね」


 それぞれに申し訳なさそうな表情で、しかし肩の力を抜かせるような冗談を飛ばすあたり、こういった緊急事態に慣れている大きさが見える。

 かといってふざけているという訳ではなく、部屋に入ったことで折れてしまっただろう話の腰をうまく繋ぐためにこういう態度が良い時もあると分かっているのだった。

 事実、その二人の言葉に話しかけやすくなったのか、オロトスが言う。


「お二人とも、丁度良いところに……。今、つい先ほど森から戻った冒険者たちの報告を聞いておるところです。お二人もどうぞこちらへ」


 オロトスは二人にそう言って席を勧めたが、二人は冒険者たちが立っているのを見ると、それぞれ言った。


「お前らも座ってくれ。戻って来たばかりで休む暇もなく報告じゃあ、辛いだろう。なに、俺達のことは気にするな」


「その通りです。いつも座っているのが仕事の私たちより、貴方がたがまず掛けるべきでしょう」


 意外な台詞に冒険者達は驚いて言葉を発せなくなるが、ゾエとイリスが、


「では、お言葉に甘えるわ」


「……失礼いたします」


 と即座に、最も下座ではあるが椅子に掛けたので、それに続くように一言ずつ断りの言葉を言ってかけ始めた。

 オロトスも冒険者たちが全員腰かけるのを確認してから、


「では、我々もいつもしている仕事に取り掛かりましょうか」


 と、クロードとモイツに席を勧めた。

 二人もその言葉に頷いて座った。

 最後にオロトスが座り、今まで受けていた説明を繰り返しになったが二人にする。

 全員の認識が共通となったところで、リーダー格の男が再度、説明を始めた。


「それで、続きなんだが……あれは、森の調査も中盤に差し掛かった時だった。突然、叫び声が聞こえてな。誰かが魔物に襲われてるのは間違いなく、助けを求める声も聞こえたから、俺達は事前に決めてあった通り、そちらに向かって援護に向かった。中でも、一番初めにそいつらのところに辿り着いたのは……」


 ふっと男の視線がゾエとイリスに向かったので、ゾエが話し始める。


「私とこの娘……だったかどうかは分からないけど、少なくとも今、会話できる状態の者の中で一番早くそこに辿り着いたのは私たちね。そこで見たのは、ほとんど致命傷に近い重傷を負った冒険者達の姿だったわ。誰にやられたのかはぱっと見では分からなかったけど、魔物だとすれば相当強力なものに違いないということは分かった。みんな、ほとんど抵抗らしい抵抗も出来なかったんだろうと分かるような倒れ方をしていたからね。腰から武器を抜くことすら出来ていなかった者もいたくらいだし」


「それは……どういうことだ。石像魔ガーゴイルたちならそこまでの事態にはならねぇだろ?」


 クロードが言ったので、ゾエが答えた。


「ええ、勿論。だから、かろうじて会話が出来た者がいたから尋ねたんだけど、彼は言ったのよね。『敵は人だった』って」


 その言葉に、オロトス、モイツ、クロードは目を見開く。

 ゾエは続けた。


「しかも魔物を使役していた、って言うじゃない。石像魔ガーゴイルたちも、その“人”が操っていた、ということだと理解できる。だとすれば……敵は魔物というよりは、その者、ということになるわ。これはかなり重要な情報で、早く戻って伝えなければならない、と思ったわ」


 ゾエの言葉を受けて、リーダー格の男が続けた。


「俺もその会話の後くらいにその場に辿り着いてな。やっぱり戻った方がいいってことになった。けが人も十人を超えていたからな……これ以上の探索は不可能ってこともあった」


「なるほど、それで戻ってきたわけか……」


 オロトスが頷いた。

 しかし男はまだ続けた。


「いや、まだ話は途中だ」


 男の言葉に、オロトスは頭を抱える。


「……それだけでも一大事だと言うのに、まだあるのか……」


「あぁ。続けるぜ。その場に冒険者たちが集まり出して、これからのことを相談し始めたときに、何者かが襲い掛かってきたんだ」


「何者かって言うと……さっき言ってた“人”とやらか?」


 クロードが尋ねた。


「あぁ。結果的にそうだって分かったが、そのときは何がなんだか分からなかったな……お前らは分かったか?」


 座っている冒険者たちに尋ねるが、誰の口から出てくる言葉も、恐ろしく素早い何かが見えただけ、とか突然、足元に影が落ちてそれきりだ、とかそう言ったものばかりだ。

 ただ、それぞれの話から何か恐ろしい者が襲い掛かってきたのだという事は分かる。

 ベテランの冒険者が手も足も出ずに混乱に陥ったという事だからだ。


「そんな状況で……よく帰還することが出来ましたね。しかも、結果的にその“人”の正体も分かったかのような言い方ですが……?」


 モイツが先を促すと、男は言う。


「それもこれも、ここのゾエとイリスの嬢ちゃんのお陰だ。細かく何をやってくれたかってのは分かんなかったが、率先してそいつらと戦ってくれた。二人がいなかったら、と思うとぞっとするぜ……」


 その言葉に、三人の重鎮はゾエをイリスを感嘆の視線で見つめるが、二人は特に大したことはしていない、という顔つきで黙っていた。

 それから、だんだんと核心について我慢が出来なくなったらしいオロトスが、男にまっすぐに尋ねた。


「それで――その“人”の正体とはいったい……」


 それこそが、今回の探索で最も重要なところ。

 必ず聞かなければならない情報であった。

 男もそれは分かっていて頷き、大会議室に入った冒険者の中で、一人、大荷物――大きめの穀物袋を背負っていた男に目くばせをして、今は席にかけて地面に置いてあったその袋を持ってこさせ、大会議室の中心に置かせた。

 それから、オロトス、モイツ、クロードの三人を見て、にやりと笑って袋を開けて言った。


「こいつが、その正体だ」


 その言葉に目を見開いた三人の重鎮は、それから開かれた袋の中を凝視した。

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