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昼休み

 昼休みの教室は、いつもの様に騒がしい一部の運動部連中と、仲良くつるみ合う女子たちの甲高い声、申し訳無さそうにスピーカーから流れてくる昼の放送に支配されていた。そんな中で、これまた通例として、俺は俺の唯一と言っても良い親友の馬原まばら りくと机を合わせて飯を食べつつ、他愛のない、どうしようもないくらい実用性のない話に興じるのだった。


 いつだってテストで満点近くを取っていく陸は、そこそこ女子にもモテるし、知識も豊富で、運動も中々よく出来る颯爽たる中学3年生だ。なぜ俺とつるんでくれるのか不思議なくらいに。俺は容姿もそこまで良くなければ、成績は常に地を這っていて、スポーツをすれば補欠どまり、分かりやすい二項対立だ。しかし俺と陸には共通点が一つだけあった。オタクである、ということ。書店に行けば真っ先に向かうのは、奥の棚に、あるいは二階にひっそりと並んでいるライトノベルコーナーで、次いでその手前の漫画の棚。家に帰ってまず触るものはパソコンの電源ボタンで、ホームに設定されているWebサイトは動画投稿系SNS。三連休が来れば、することは勿論ゲームの攻略。今どきの中学生では珍しくない、オタクという分類の中でも俺と陸は結構濃度が高いほうで、陸は俺にとって初めてオタトークがそのまま通じた相手だった。


「世の中には沢山の主人公が異世界にいったり、超能力を手に入れたり、宇宙に飛び出したりしているわけだ」

俺はサンドイッチを食べながら、陸にいつもの様にそう話しかけた。

「そうだね、この世には幾千万の主人公がいるね」

「そうだろ、だとすれば、俺がその主人公の中の一人になってもおかしくないと思うんだ」

陸は少し戸惑ったのか、困ったような笑顔を浮かべた。右手の人差指で頬を軽く叩きながら返事をくれた。

「――そうだね、間違ってない。君の理屈は概ね正しいよ。ところで、隼人は主人公になるにしても、どんな種類の主人公になりたいんだい? FPSに出てくる米軍特殊部隊の新入隊員? それとも言語学に詳しい近未来のスパイ?」

「いつも通りなかなかコアな例を挙げてくれるなあ、陸は。そうだなあ、やっぱりなれるとすれば剣と魔法のRPGの主人公かな。選ばれし勇者で、失われし魔法を使うことができる唯一の人間、みたいな」


 俺はRPGの主人公みたいに為りたかった。漫画やラノベやゲームの中に出てくる主人公が俺にはいつも羨ましかった。現実世界はどれだけ頑張っても越えられない壁が存在する。天才は一晩勉強しただけで、一週間勉強した俺より良いテストの点数を取る。俺が初めて美容室に行って敢行した中学2年生のお洒落デビューは、バレンタインデーのチョコレートの数には一切響かず、クラス内のイケメン資本主義のどうしようもなさをひしひしと感じさせるだけに終わった。俺はRPGの主人公みたいに為りたかった。努力が報われる世界。数字になって返ってくる社会。レベルを上げれば強い魔法が覚えられて、強い武器が買える。それでいて、自分には他の誰にも持っていないアドバンテージがある。実は勇者の息子である、失われた血筋を継いでいる、神に祝福されている。どうして現実社会はこうでないのだろうか。


「もしかすると、本当になれるかもしれないよ。夢は捨てない方がいい」

「……お前、また適当な事言ってるだろ。俺の話、たまにはまともに聞いてくれよ」

「バレたか……。まあいいや、それより昨日のあの声優のラジオなんだけど――」


 何の面白みもない中学校生活が過ぎて行く。明日も明後日も、起きたら学校に行って、塾に行って、家に帰って寝る。囚われの姫も、全てを焼きつくす極大魔法も、ドキドキのダンジョン攻略もない。嗚呼、神さま、お願いします。どうか俺をRPGの主人公にしてくれないでしょうか。ダメでしょうか。どうすればしてくれるのでしょうか。お願いします。何卒、何卒――。


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