7/30 みもりのこもれび
誘ったのは鎮さんだけだったはずなのに。
なぜか隆維と涼維も一緒で。
時雨の案内で森の中を歩く。
『深森の木漏れ日』
なんとなくこれにはタイトルがつけたかったとおじさんは言っていた。
ちなみに、先着優先の考え方の強いおじさんの判断により、絵の所有権は時雨にあるらしく、先日回収を命じられた。
先に見て欲しがったのが時雨と言う判断らしい。
だから実は時雨の配達に付き添っている形になる。
おじさんが行かないのかと聞くと荷物を持っての移動はいやだと切られた。
昨夜、失礼もしたし、お詫びにと思ってクッキーを作ろうとしたけど。
なかったことにした。
おじさんとさなえさんが作って持たせてくれたサンドウィッチ。
雪姫さんのお家のそばで広げてみんなで食べた。絵は引き渡したあとだ。
入れてないはずなのに、なぜか入ってたそれに硬直する。
おじさんの犯行か、公志郎の犯行か。
食べようとしていた鎮さんを止めようとしてるうちに雪姫さんがあっさり食べてて泣きそうになる。
「おいしいですよ?」
かわいらしく首を傾げて言う雪姫さん。
「ん。割った時の音が金属音かと思ったけど普通のクッキーだ」
鎮さんが言う。
それでも隆維と涼維には食べさせなかった。
そのあと少しだけ、雪姫さんの描いた絵を見せてもらった。
きれいで優しい世界が広がるようで、素敵だった。
帰るとき、時雨はまだ居座るつもりらしく、寛ぎきっていた。
「お騒がせしました」
頭を下げておく。
「雪姫ねぇちゃん、たまにはビーチに遊びに来てよ。大概海の家辺りに俺らいるからさー。料理やスイーツも美味しいよー。初回ぐらいおごれるし。鎮兄が」
少し大人しくなっている涼維の分も饒舌な隆維。
いつもより懐っこくて雪姫さんに対しては他の人に対するより好意的なのがわかる。
多分、涼維も少し不思議に思ってる気がする。
「はい。そこまでー」
そう言って隆維をとめる鎮さん。
「でも、本当にいつでも遊びに来てくれると嬉しいけど」
美人が来てくれるのは目の保養だしねとか言いながら笑っている。
雪姫さんはどこかペースに飲まれつつも自分のペースを崩さず笑みをこぼす。
「あのね、天音ちゃん」
呼び止められる。
「おじさまに渡して欲しいものがあるの」
渡されたのはなじみのある形状の包み。
「絵、ですか?」
雪姫さんが頷く。
「お仕事で描いてらっしゃるのにいいんですか?」
「いいの。そうしたいから」
「ちゃんと、渡します」
「また」と言って別れて森の中を歩く。
隆維が時々「クッキー」とか言ってるが無視。
公道に出ると、見覚えのあるワゴンが止まっていた。
雪姫ちゃんのところにお邪魔して騒いでます。




