7/8 放課後の一幕 カオスな雑貨屋の奥
日生鎮先輩に放課後捕獲され校舎から連行される。
サメが襲ってきそうな曲が聞こえてきたと思ったら先輩がメール確認していた。
「んじゃ、そういっちゃん、商店街寄るから」
「そのまま帰っていいですか?」
「だめー」
たわいない探りあいの会話をしながら商店街へ向かう。
料理部のマイコちゃんからのメールだったとか、アイコちゃんが壊れたとか先輩は楽しそうに教えてくれる。
「こんにちはー。かおるさん、奥行っていいですかー?」
商店街の鈴木雑貨店。中身は不思議な世界だった。
アメリカンなグッズ系エリア。チャイナなエリア。ファンタジー系雑貨にブードゥ系だろうか妖しげなものもある。
なんというか楽しい感じのカオス。
「あら、いらっしゃーい。いいわよー今しゅらばっぽいけどねー」
ふっくらしたおばさんが笑いながら奥へのドアを示す。
「あははー。かおるさん相変わらずかっるいですねー。多分、もうちょっとしたら千秋達も来ると思うっすー」
「じゃあ。お茶菓子買ってこないとねー、飲み物はあるからいいでしょ」
「ドアベルなったらオレか紬ちゃんが出てればいいっすか?」
「ええ。よろしくー」
かららん
「面白い店だろ? 後でゆっくり見るといいさ、かおるさん喜ぶし。今は奥だぜ」
ずんずんと奥のキッチンまで進む。
作業テーブルの上にはボトルが並んでいる。
ボトルにはメモ紙が張ってあり、材料の種類と配合率が書かれている。
「ほら愛ちゃん。すとーっぷ」
「鎮くん?」
愛ちゃんと呼ばれたのはリボンのバレッタで髪を束ねてエプロンを付けた少女。包丁とキャベツを掴んでいる。
みつあみお下げの少女が胸をなでおろしていた。
「すっげー数だなぁ」
ボトルを見て鎮先輩が言うと愛ちゃんが頷く。
「味見してイイ? 外暑いしのど渇いたし」
「あ、じゃあ麻衣子グラス出すね!」
ふんわりはねた髪を太目のカチューシャで抑えた少女がわたわたと動く。
「ぅん。こっちとこっちのはいいよぉ」
「えーこれ色がきれいだけど?」
あえて違うボトルを指す鎮先輩。
「思ったより苦いの。だからダメ」
「こんにちは。君は?」
みつあみの少女、多分先輩なんだろう。が聞いてきた。
うん。絶対部外者だよね僕。
「先輩に拉致られてきました」
「そう。大変ね。このままいると不味い飲み物を飲む羽目になる可能性が出てくるわよ?」
「なぜ不味い飲料?」
「農家と商店街高校の合同企画でね『特製うろなミックスジュース』の開発試作なの。それなりに美味しいのは何種類か出来てるんだけど、いまいちインパクト、う~ん、決め手にかける感じなんだよねー」
それなりにこだわりがあるらしい。
「普通に美味しいじゃダメなんですか?」
「ううん。悪くないんだけど、リピーターが出る美味しさが欲しいんだ。村瀬は今ちょっと方向性がずれちゃってるけどね」
「紬ちゃん、わかってるんなら止めてよぅ」
麻衣子さんが泣きつくように小さく叫ぶ。
「えー。あの子も気分転換は必要でしょ? 不味いの飲んで参ってるのは麻衣子もあの子も一緒なんだから」
グラスが手渡される。
中は紅茶色の液体。
「普通の麦茶よ」
「ありがとうございます」
「ふっ。本当は不味そうなの味見させたいけどそれやると愛子が怒るのよ。麻衣子てっきり直澄にいちゃんが味音痴だと信じてたじゃない。やーよねー。直前ですり替えられてたなんてさー」
「麻衣子も気がつきなさいよ」
「おかげで知らないおねーさんに不味いの飲ますコトになっちゃって、帰ってくる道で愛子にねちねちやられたんだから」
とっても所在無い。
「ちょっ! 鎮くん! ひどい!!」
愛子さんの声にそっちを見ると鎮先輩が苦いからダメといわれたボトルの中身をグラスに注ぎ、味見しているところだった。
「ん~。俺、この味嫌いじゃないぜ? ちょっと濃い目だから氷多めがいいかな~麻衣子ちゃ~ん、氷頂戴」
「ぇえ?」
愛子さんがありえないって表情で首をかしげてる。
さりげなく鎮先輩が僕の麦茶のグラスにどれだかのジュースを注ぐ。かなりの早業だ。
愛子さんからは多分死角。
不味いかもしれないやつ、いや、先ほど先輩も飲んだ苦いというやつだ。
三分の二以上は麦茶。
僕は覚悟を決めて麦茶カクテルに口を付ける。
「あ。おいしい」
「え!?」
声を上げて僕からグラスを奪いそのまま飲んだのは麻衣子さんだった。
「うそ。苦味が薄い」
「いや、麻衣子ちゃん、麦茶で割ってる分、薄くなってるから普通だって」
と、言うかグラス空。
鎮先輩が笑っている。
こほん、と背後で咳払い。
背後にいたのは鎮先輩と同じ顔、髪形が微妙に違う先輩だった。
その後ろには何人かいる。
「おー。千秋やほー。おせーぞー」
「買い物途中だったんだよ。部長、副部長。不味いものは僕ら他の部員に飲ませないで済まそうという気持ちは嬉しいんですが」
紬先輩が何かを言おうとした女子を止めている。
「人によって美味しいと感じる味覚は違います」
やけに丁寧な口調で説明を始めた千秋先輩の言葉に麻衣子さんがうんうん何度も頷いている。
「体調によっても美味しく感じるものは違ったりしませんか? 普段好きなものが食べられなかったり、苦手なはずのものを美味しく感じたりしてしまったり」
「ないとはいわないけどぉ」
「普遍に美味しいものなんてないんです。多数に美味しいと思われるものも好まれるものもありますが、すべてに、はないことだと思いませんか?」
「そぅかもしれないけど、不味いのは不味いと思うの」
「不味いのばっかり口にしてると味覚麻痺するよ。それに、部員は7人だし、飲む人間は多い方がいいと思うんだ。多くの感想が聞けるしね。不味いかなって思ったらまず海老名先生に試飲してもらうとかね」
ぽんと肩を叩かれる。
「後は部員でやるさ。いこーぜ」
紬先輩が目立たないように小さく手を振っている。
僕は鎮先輩に連れられて雑貨店を出た。
「ん? やっぱ女の子のヘルプには応えないと男が廃るだろ?」
得意げなさまに僕はため息をつく。
「んで、本題なんだけどさー。美女コンの司会一緒にやってくんねぇ?」
はい?
部活全体でチャレンジすることに落ち着いたようです。
部長泣いて喜ぶ。
恐怖に駆られるほかの食べ専部員。
きっと一番の犠牲者は顧問の海老名先生




