夏祭り 花火
役場そばの駐車場に車を止めて降りる。
お天気はいい。
日傘を差してふらりと歩き出す。
中央公園はそんなに遠くないはず。
パタンと日傘をたたむ。
「どうしましょう」
随分、日も落ちてきた。
「遠くない、はずだったんですけど」
ため息がこぼれる。
さなえさんと来るべきだったでしょうか?
「堂島さん?」
「こんにちは。久島さん」
「こんにちは。えっと、これから夏祭り会場行くんだけど、一緒にどうかな?」
少し、困ったように久島さんは提案してくる。
「ありがとうございます。あの、ご迷惑じゃないですか?」
「あ~いや、ぜんぜん。どうせ行くんだから。いきましょ」
顔の前でパタパタ手を振って動きがかわいらしい。
「近い、ですね」
「うん。そうよ? えっと、いつから迷ってた?」
「四時くらい、かしら」
沈黙が少し痛い。
「堂島さん、アドレス交換。町中で目的地に着かないなと思って10分経過したら鳴らして」
「え?」
「ああ。会場に座る場所くらいあるはずだから。そっちで交換しましょ」
私の手を引いて久島さんはすたすた歩く。
ステージでは男の子たちが楽しそうにダンスしながら歌っている。
「片付け前についてよかったわ。でも、隅の椅子にいきましょ」
「え、ええ」
てきぱき、さくさく進めていく久島さん。
同じくらいなのにすごい。
ステージそばで女の子たちと楽しそうに喋っている公志郎さん。
「さぁ、交換しましょ。堂島さん? 柊子さん?」
「あ。はい。久島さん」
「宇美でいいわ。柊子さんって呼ぶし。って、どうしたの? 彷徨いすぎて調子悪いの?」
私の前で手をひらひら振る久島さん。
ゆっくりと首を振る。
「ならいいけど……」
「親切にしていただいて嬉しくて」
目が潤むのを感じる。
「ちょっ! 私がいじめたみたいじゃない」
「え?」
どうしてそうなるのかしら?
久島さんが驚いた表情であわてていて困らせてしまった?
「あ。ごめんなさい」
「え? あ~もう、そうじゃなくて」
「ごめんなさいじゃなくてありがとう。でいいんじゃね?」
「公志郎さん」
「宇美もあたりがキツイぞ」
「ノブ兄」
戸津先生と公志郎さんがいつの間にか近くに来ていた。
「花火、配ってるみたいだからさ。貰ってくるな。あんまり動くなよ」
「偉そうだなー」
駆けていく公志郎さんを見ながら戸津先生が感想を述べる。
「公志郎さんはしっかりなさってるんです。あの、……宇美、さん。いろいろと、あの、ありがとうございますね」
少し考え込むように久島さんは黙ると戸津先生に視線を合わせる。
「ノブ兄。私の分の花火も貰ってきてよ」
「はいはい。宇美ちゃん好みの線香花火をゲットしてきますよ。おじさんはこき使われておくよ」
見送って、久島さんが苦笑と共に私のほうを見る。
「いやんなるの。ノブ兄って絶対私を『女』として見ないから」
「あ。戸津先生のことを?」
「うーん。周りはみんな知ってるかなー。この町の良いトコでいやなトコだよ」
拗ねた表情が病院にいるときとは違ってこどもっぽくて可愛らしい。
「笑ったわねー。相手と年齢の差がありすぎるってやっぱりきついのかなって。でも他の人を好きになれない感じ?」
「わかります。相手が年の近い人と楽しそうにしてると、どうしていいかわからなくなるんですよね」
「ふ。ノブ兄の場合、敵は人間だけじゃないから手ごわいのよ」
「宇美さんと先生。お似合いだと思いますよ?」
仕事でも家庭でも助け合える関係って素敵だと思う。
頬を染めて照れる宇美さんはとても女性らしく素敵だと思うのに戸津先生にはそう思えないのでしょうか?
「公志郎さんは私との婚約をいやだとは思ってないようですけど、これからを思うと時々不安ですね」
「ぇ?」
ぽかんとする宇美さん。
「ぇえ。いいなぁ。捕獲済みなら後は脱走させないだけかぁ。うらやましぃいい」
足をばたばたさせる宇美さん。
「あ、浴衣、着崩れちゃいますよ?」
よくわからない単語が聞こえたけど宇美さんは持っていた印象より可愛らしい方だとわかりました。
「でも柊子さんって、和装と普段着じゃかなり印象が違うよね」
「公志郎さんが時々下さるアクセサリーに合わせるとああいう服が増えてしまって。恥ずかしがるよりは堂々としていた方がイイと言われて。恥ずかしいんですけどね」
公志郎さんと戸津先生が何か喋りながら戻ってくる。
「柊子。むこう行く? おねーさんと花火する?」
公志郎さんが聞いてくる。私の意志を尊重してくれる公志郎さん。
「一緒でいいわよ。坊やとしてはカラスマントや、同年代の男の子と遊びたいのが本音じゃないの~」
「公志郎だよ。同年代は魅力だけど、カラスマントは別にかなー」
「じゃあ、公志郎くん。おねーさんじゃなくて宇美よ。おねーさんはいっぱいいるから名前で呼んでちょうだい」
明るく宇美さんが返す。
話がぽんぽん弾んでいる。
「じゃあ、堂島さんじゃなくて柊子ちゃんって呼んじゃおうかな?」
「堂島さんは現在一人だけですー。ノブ兄がそう呼んでたってさなえさんが微妙に怒ってたよ?」
「まじか?!」
「宇美さんサイコー。うん。さなえさんなら怒ると思う」
楽しそうに笑う公志郎さん。
ちりっと胸の奥が痛い。
「やっぱりー? そんな感じのメールだったんだー。メインは怪我を柊子さんに言いつけたことに対する苦情だったんだけどねー」
「メアド交換しよーよ。柊子の友だちと接触するのってオレも初めてだしー」
ともだち。
宇美さんは友だちなのかしら?
「おっけー。公志郎はうろなに来ないの?」
「うん。堂島のうちを継ぐのに勉強もあるし、そばにいすぎるのは柊子のためにあんまり良くないってことになってる」
「そうなんだー。登録完了」
「こっちもー。オレがそばにいると柊子の行動がオレ中心になりすぎるからって。ね」
「あ。納得。柊子さんにムシがつかないように気を配っとけばいいのね」
「よろしくー」
え?!
何の話を?
公志郎さんににっこり笑われてつられて笑う。
「花火しよう。もうはじめてイイみたいだし」
「はい」




