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夏祭りと浴衣とクラスメイト

これからカラオケのステージで歌うであろう女の子と目があったから軽く手を振っておく。

「山辺さん、その猫耳かわいいね」

おずおずという感じでそばにいた同年代の女の子が褒めてくれる。

「ありがとう」

笑顔で頷きつつ、猫耳をリモコンで動かして見せる。

褒めてくれた女の子が照れたように笑ってくれた。


しかし、そばで双子の男の子が一歩後ずさった。

片割れで、たこ焼きを食べてる方はじぃっと見てくる。


ふと目に留まった光景。

ステージわきの本部食券売り場でおじさんが食券を売ってるお姉さんに何か文句を言っているようだ。

そこへどこかで見たことのあるようなおじさんがやってきて文句を言っているおじさんに声をかけると、文句を言っていたおじさんが魔法にかけられたかのようにぽかんとした。



「みあーーーのあーーーがんばれーー」



女の子の声が客席からステージに向かって飛ぶ。視線が、注意が声の方へ動く。


ステージ端で固まっていたらしい女の子がその声でようやく動く。


ちらりと食券売り場を見ると文句を言っていたおじさんがもう一人のおじさんに興奮した様子で話し続けている。


「日生 みあでーす」

あ。聞いたことあるぞ。


「日生 のあです」


「怪人カラスマントです」


最後は役名で名乗った。

ばさりとマントが翻り、怪人は一歩下がる。


女の子二人がお互いを確認し、頷く。


「いっしょうけんめい、うたいます!」





がんばるぞという空気に周りから大きな拍手があがる。


馴染みある日曜の魔女っこソング。そっとステージ前から抜け出す。

焼きそばでも買いに行こうかな。


視界の端に知っている人を見かけた。

人ごみを抜けて、声をかける。


「清水先生」


先生が振り返ってこっちを見る。


「山辺?」

声をかけてきたのは一緒にいた女の人だ。ルージュが色っぽい。

相手に心当たりがなくて少し、反応に困っていると。

「公志郎くんか」

「ですー」

こんな風にばれるとはちょっと失敗ー。

「お祭りに遊びにきましたー。はじめまして。清水先生の彼女さんですかー?」


「って、男?」

「こうしろう??」

「え? 山辺さんじゃない?」

背後でバレたおしてる声が聞こえる。

あーあ。

天音ちゃんに怒られるな。

「山辺だよぉ~」

まぁ、そこは騙したつもりはない。

「あ。ちがうわ」

「うん。山辺さんのそんな笑顔見たことない」

クラスメイト女子とどんな関係築いてるんだ天音ちゃん。ちょっと冷や汗でそうだよ。


こっちで話してるうちに彼女さんは清水先生から説明を受けたらしく、何度か頷いていた。


「おしつけ、そのまま、がんばれ。どの兄?」

最後のたこ焼きを食べながら聞いてくる双子片割れ。

「あ。ずるい全部食いやがった」

相棒に文句を言われていたが涼しい表情だ。

「さぁ? 自覚はないからわかんないかな。天音ちゃんが良くしてもらってるみたいだね。ありが……」

「なんて格好でうろついてんのよーー!!」

天音ちゃんに後ろから殴られた。

「べるべるのおねーちゃんかっこいー」

「咲夢ちゃん、あっちの猫耳の方が公志郎おにいちゃんで、シャツとジーンズの方が天音お姉ちゃん。鈴音のおにいちゃんとおねえちゃんだよ」

きょとんとした表情の女の子は鈴音と同じくらい。というか、鈴音ちゃんの友達らしい。

「はじめまして。咲夢ちゃん。鈴音ちゃんと仲良くしてくれてありがとうね」

「う、うん。おにいさ、ん?」

どうやら戸惑わせているらしい。

「天音ちゃん、服交換しようか? 天音ちゃんの好感度確認は微妙な結果で終わりそうだしねー」

渋い表情で天音ちゃんがため息をつく。

「そんなことのためにそんな格好?」

猫耳、ピンクの浴衣。まぁ、事実なので頷く。

「それに、ピンクの浴衣、よっぽどじゃなきゃ着ないだろ?」


ステージ裏を借りて服を交換、リモコンつき猫耳ウィッグはなんとなく咲夢ちゃんにプレゼント。

オレとしても天音ちゃんにピンクの浴衣を着せることに成功して達成感だ。

まぁ、天音ちゃん本人は不満そうだけど。


さぁ、今日は遊ぶぞー。


藤崎咲夢ちゃん

清水先生梅原先生借りてます



山辺公志郎のターンでした。

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