2/14 バレンタイン2
宇美のそわそわ
話は実はそれとなく進んでいる。
先生の態度は変わらない。
先生のお母様とお父様にも実際ご挨拶にいった。
「子供は欲しい」といったことが一番の高評価で、そして、お姉様の眼差しを得た。
そっと後で、あまり思いつめないようにと伝えてくれて、お姉様が期待されて不安だった時、先生は私のそばにいて、彼女の救いになれなかったことに気がついてしまった。
彼女はそっけなく、あなたが気にすることではないといって切り捨て少しだけ笑ってくれた。
「あなたが嫌な子でなくて良かった」と。
そして私が思うのは、やっぱり先生の家族だなぁということ。
お母様は専業主婦だけど、自分達よりつい、患者さんを優先気味な家族の綱とりで。
親類の先生や、経営補佐の人たちとの連携とりまとめなのだなと思う。
ぶつぶつと先生のことを責めつつも眼差しは優しい。
その日は紹介だけだった。
お父様は、本当は先生が跡継ぎであることを望んでいたようだけど、先生の道を喜んでもいて。
手放しに喜べないのはお母様の手前のようで。
優しい家族。
本当は尋歌ちゃんがあとを継いでくれるのが望まれていたが、どうせなら先生の息子が望まれているのも本当らしく、本当ならかなりのプレッシャーだったんだろうなと考えたりもした。
何しろ、気を抜いたら重が喜んでコトを画策しそうだ。
それにからかってくるまわりには事欠かないし、『子供』は『どうせなら清水先生のトコと同学年だったら素敵ね』と囃し立てる筆頭は実母だ!
そして久しぶりに一二三に会った。
木野江一二三。逸見君の姉だ。重より一年上の十九で三月に二十歳になる。
大学を休学してうろや別館に一月から引っ込んでいるらしい。
ホワイトデー頃に大学にいって知り合った彼氏と入籍の予定らしい。
『早産にならなければ大丈夫!』とピースして見せる姿は間違ってると思う。そして、ここからも『さっさとやることやっちゃって弾みつけちゃえ』とろくでもないプレッシャーがくる。
その尻馬に隼子まで乗っかるしウザいわ。
だから、先生の家族から来るプレッシャーなんかたいしたことはないのだ。というか、一二三はちゃんと病院と役所に行け。困ることになるじゃない。
結婚前から掛かる子供を作れプレッシャー。本当にどういうことかと思う。
そりゃ子供は好きよ。
早く欲しいとも思うわ。
でもね、不安がよぎる。
どうしよう。
先生が人間相手に欲求が働かないたちの人だったりしたら?
生物としての欠陥説にくらりと思考が巡る。
ああ。もう。
どうやって確かめろって言うのよ。
ため息をつきながらマグのコーヒーにブラックチョコを削り入れる。
二袋500円チョコレートのファミリーパックからお茶請けを添える。
「先生。コーヒーはいりました。どうぞ」
「ああ。ありがとう。宇美」
何とか仕事中も『宇美』と呼んでくれるようになった。
それだけでも、きっと人が思うより私は喜んでいる。
「予定があいてるんなら夜、流星にでも一緒に行くか?」
「え?」
今なんて?
「行けるんなら、メニューは宇美に任せるよ」
「大丈夫! あいてるわ!」
ああ、バレンタインだし、混んでるかしら? クリニックは急患さえ来なければ大丈夫、よね?
『"うろな町の教育を考える会" 業務日誌 』より清水先生
『うろな町、六等星のビストロ』より『流星』話題としてお借りしました!
嬉しさで悩みはどこかに抜け落ちた。




