2/13 バレンタイン前日③
涼維・天音
鎮兄の体調不良。
千秋兄はうざったがるが俺たちは見たことはなかったりする。
旧水族館は不特定多数の子供や暇してる年配層のお客様が多いので体調不良になると感染抑制と安全性確保のために隔離なのだ。
隆維だって倒れた当初は隔離部屋に放り込まれた。原因が不明だっていうのも大きい。
まぁその方が早く治るっていうのもあるんだけど。
隆維は落ち着いてきて、発熱はしても大概の理由が精神面からくる知恵熱もどきと言われてるので今は隔離されない。
暇だろうな。鎮兄。
千秋兄と別れて中学へ。
ついたら真っ先に先に学校に行っている千鶴ちゃんのところへ向かう。
「うん。思い出したんだよ。合田先輩にも仕掛けなきゃって」
悪戯対象が増えたらしい。
「だから下準備ー」
図書室で、千鶴ちゃんは勉強していた。
こっそりと入って、接近する。
「ちーづ」
隆維の呼びかけにびくりとする千鶴ちゃん(受験生)。
こそりこそり話を始めた二人をおいて教室に鞄を置きに行く。
教室はまだ静かだった。
朝も結構早いからね。
「おはよう。涼維くん」
「おはよ。天音ちゃん」
いつもながら会話が続かない。
「そう言えば、美丘さんって、芹香ちゃんと涼維くんたちの関係知らなかったんだね。兄妹同然の従兄妹だって。驚いてたよ?」
苗字同じなんだけど、たまたまだと思ったのかな?
どっちにしてもむこうの付き合いがどんなものなのかは知らないけど、鎮兄は今、空ねぇと付き合ってるんだし、邪魔はされたくないよね。
「うーん。お互い、他の身内ってほとんど情報ないからそうなっちゃうかも」
ランバートさんたちのことだって『兄』が二人いるとしか知らなかったんだし。
ランバートさんも俺らの事を父さんの子供だとは理解したっぽいけど最初は少し警戒してたもんね。
つまりランバートさんもよく知らなかった。
「知らないの?」
あれ?
驚かれた?
「そんなものだと思うけど?」
「……。年長者数人に聞けば、末端身内の恋人の進路事情までみんな把握しているものだと思ってた」
うん。
そうなんだ。
でもさ。
「天音ちゃん。それは特殊だと思うよ?」
みんなに入れちゃダメだと思う。
というか、総督だから納得しそうだけど、それなんか怖いよ?
「そぅ」
「うん」
さ、そろそろ隆維迎えに行こう。
教室を出ようとしたらにこにこの隆維。
千鶴ちゃん、かわいそうに。
ぱふりと抱きつかれて席に戻る。
「おはー。天音」
「おはよう隆維君」
「天音はチョコ配るの?」
ダイレクトな質問だった。
渋い表情。
「鎮さんと千秋さん。とせっちゃんとおじいさまかな」
「せっちゃんって誰?」
隆維が首を傾げる。
「……おじいさまのげぼく」
沈黙が続く。
ふっと天音ちゃんの表情が緩む。
「おじいさまの幼馴染でね、親友。って自称してるよ?」
ど、どっちかって言うと、冗談だよって言ってよ!
「なぁなぁ、俺達の分は?」
「ない」
即答だった。
「逆チョコあげるから俺達の分ー」
「いらないし、ないってば」
せがむ姿にクラスの友達がくすくす笑う。
今週すでに恒例光景だ。
ねぇ、隆維。ここ、俺のクラス……。
◆◇◆
学校が終わって、隆維・涼維はどこかに寄るらしい。
私は一度、宗兄のマンションによって、着替えてからブルースカイへ向かうという話になっている。
ブルースカイで青空のお姉さん達や汐ちゃん(たぶん)とバレンタイン用チョコレートを作るのだ。
そういえば、鎮さんが熱を出したって聞いた。
宗兄の晩御飯大丈夫かな?
「おかえり」
宗兄の声。聞こうと思ったら別の話題を先にふられた。
「母さんからの『届け物』があるけど、どうする?」
ママからの『届け物』
私たちの母親はもう死んでいていない。
それでも忘れそうな頃にママの字で書かれた手紙と共に届く贈り物。
前のプレゼントはドラゴンのぬいぐるみ風リュック。こうもりの羽がキュートで公がすごく気に入っていた。
飾り気のないダンボール。
いつだってそう。
でも、ダンボールには大きく『ハッピーバレンタイン』と走り書きされてある。
チョコ?
開封して。
宗兄の死蔵部屋に放り込んだ。
「宗兄さん、明日の予定は?」
一応の確認。
「七時から佐伯さんと約束があるくらいかな」
佐伯さん、佐伯蘇芳さん。
宗兄さんと同い年の女の人で、元々恭兄さんか宗兄さんかのお嫁候補的にあがってた人だ。
バレンタインデーの夕方にお約束かぁ。
特に他に相手がいなければ落ち着くのかなとかは思う。
夏に少し一緒に過ごしたけど、会話はあまりしなかった。
だけど、仲が悪いわけでもなかった。嫌な人ではなかった。
宗兄さんとはクリスマス前後からよく会うようになったらしい。これはせっちゃん情報。
「天音おねーちゃん、見て! ママからの『届け物』!」
そう鈴音にも届いてたソレ。
明らかに嬉しげな様子にため息が出る。
「今日はダメ。お料理しに行くんだから汚れちゃうよ?」
ふわりと体にあてて揺らされるサーモンピンクのワンピース。やわらかなラインを描く白いレース襟。髪を結ぶリボンも靴も靴下も一揃え。
リボン多用の甘めのバレンタイン勝負服。ちなみに、おそろい。
もういない母に向かって吼えたくなる。
なに考えてこんな時限爆弾用意した!?
未練があるらしくちらちら見つつも何とか諦める鈴音。
「教えてもらうんだから、もう行くよ。鈴音」
「うん。ねぇ、天音おねーちゃん」
「うん。明日、日生のおにいちゃんたちに渡す時に着ればいいよ。きっと、宗兄さんが髪の毛結ってくれるから」
言いたいことはなんとなくわかる。
だから先に答えておく。
鈴音が嬉しそうに頷いてた。
「うん。いこ、おねーちゃん、セリちゃんが待ちくたびれちゃう」
「いってきます」
宗兄にそう言って、ブルースカイに向かう。
海寄りにある宗兄のこのマンションからはそんなに距離は離れてないのだ。
合田君を『"うろな町の教育を考える会" 業務日誌』より悪戯対象先ネタとして話題のみで
青空姉妹&『ブルースカイ』を
『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』からチョコ作り舞台としてお借りしました♪




