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URONA・あ・らかると  作者: とにあ
2014年一月
384/823

2/4 久しぶりの

 千秋の部屋は久しぶり。最後に入ったのは中学一年の時、だったかな?

 窓を背にする形で机が置かれてあり、妙なインパクトがある。デスクトップパソコンのモニターが斜めにおかれてキーボードが横に立てかけられてある。

 机横壁面の本棚には料理本。机や本棚にペタペタ貼られたポストイット。壁にはコルクボードがあって水着コンテストの写真や料理の写真が無造作に貼ってある。

 床には愛犬グッズが無造作に転がっている。

 歯固めガムやおもちゃのぬいぐるみにクッション。黄色の芹香特製毛糸玉が二匹の仔犬に大人気。気をつけないと蹴りそうなのでベッドに避難。

 ベッドは収納タイプの畳ベッド。今は布団は上げてあって畳面にぽんぽんとい草枕が転がっている。

 当の本人はクローゼットの奥を漁っている。

 ふと悪戯っ気を起こして収納の一つを引き上げて覗いて見る。

 毛布と夏物の下に何か見えた。


 ・・・・・・


 千秋。


「しず…………。そこ、閉めろ」

 千秋の声が低い。

「えっと。別にイイと思うけど?」

 ちょっとまだ気になるけど、一応閉めておく。

 別にびびったわけじゃない。

 そっと他の収納に手をかけようとしたら、上から敷布団を被せられた。

「しぃ。人の部屋を勝手に漁ろうっていうのは感心しないな」

 むこうでの呼び名。まだそばにいてくれた頃の。

「別にあのくらいいいと思うぜ? 地元以外なら普通に買えて止められたりしないもんな」

 あんまりイイとは思わないのは確かだけど。

「それでもだよ」

「んー。じゃあもうちょっとましな隠し方しないと芹香に発掘されるよ?」

 布団越しの重み。

「考えとく」

 不満そうな声。

 ゆっくりと足される重さ。

 ぽすぽすと人を下敷きにしたまま、整えているらしい動き。

「なぁ」

「うん」

 返事は早い。

「起き上がっていい?」

「ダメ」

「千秋」

「しぃはさ。気にしなくていいんだからな」

 優しい声。

「しぃはさ。ちゃんと(おまえ)だから。他のことなんか気にしなくていいんだ。好きに動いていいし、嫌いなものは嫌いでいいんだよ。バカなのなんて今更だよな? そんなことで嫌ったりしねぇし、鎮は悪くないし、僕だって悪くない。鎮は嫌かもしれないけどさ。僕らの……………たと思うよ? しぃ?」

 ぽふんと背中を叩かれてからそっとめくられる。

 のこりと敷布団から抜けると暗かった。

「ほら! 布団なおすからそれ持ってろよ」

 ヘタれたパイル地の手触りと厚み。

 懐かしい感触にこみ上げる笑をこらえる。

 見えなくてもわかる。それは1mほどの高さのぬいぐるみ。

 水色のキリン。愛称は『ジフ』

 俺も何か持ってた気がするけれど、覚えていない。

 小学校の頃はなんだかんだ言ってても、千秋は『ジフ』が一緒で無いと眠る時、機嫌が悪くなった。

 まだ持ってたんだ。

 背中に重みを感じる。

 千秋の重み。

「いつもさ、ジフはクローゼットの奥?」

「今は芹香が来るしね。週に一度は風に当ててるから大丈夫」

 聞けばそんな答えが返ってくる。隠してるんだ。

 本当に久しぶりのこんな時間な気がする。

 って、

「芹香くるんだ?」

「うん。僕が心配なのか、心寂しいのかわからないけどね」

「心配性だからなぁ。けっこう」

「今日は締め出し。たまにはいいよな? 隆維たちもさ」

 弟妹を放り出して二人でいるって言うのもなんか悪いことをしているような気にもなる。

「空ねぇのどこが好き?」

 考えを阻害するように千秋が話を振る。

 話すんなら灯り付けねぇ?

 って、空ねぇの好きなトコ?

 うーん。

「好きだと、思うんだ。そばにいたいんだ。俺がね、空を見ていたいんだ」

 その笑顔を見ていたい。困らせたくはないけれど、困った表情もどんな表情もすべて見てみたい。その瞳が映しているのが俺だけならいいのにとか思わなくもない。

 そう、そのぬくもりを感じていたいんだよな。

「空が好きなんだ」

 ジフごしに自分の手が見える。

 息苦しい。


――――好きよ。大丈夫だからね。――――


「誰も、誰もさ、悪くないんだ」

「……しぃ?」

「誰だって幸せになるために生きてるんだ。正しいことも間違っていることも何もないのに。その先がどうであっても他者が異を唱える必要はないはずなんだ」

 それなのに『よくない』ことや『悪い』と言われることが存在する。

 ヒトはヒトとして生きている。

 同種であっても別の固体で違うことが当たり前で。

 受け入れられることも受け入れられないこともあって当たり前で。

 わかっているのに俺の中でそこで躓く。

 そのままの相手を受け入れればいい。

 それで、それだけでよかった時期もあったのに。どこかずれた。

 ズレに気がつくと、そこからどんどんわからなくなる。コワくなる。

 ヒトのコミュニティ。

 そこは時に個を殺すことを求められる生き難い場所。


「バカだなぁ。バカなんだからつまんない事考えなくていいんだよ?」

 そっけなく告げられる否定。

 そして囁かれる『帰りたい?』と言う問いかけ。

「ここが好き。ここがいい。千秋は?」

「俺はねー。一度は父方の身内に会っておきたいな。きっちり取れるものは取っておきたいし、病歴とか、一族に出やすいトラブルとかも聞いておきたいな。けっこうさぁ、同じような繰り返しに嵌る一族っていうのもいるっぽいしさ」

「は?」

「ほら、親が別れたらその子も別れて、いや、わかりやすく言えばさ、望まれてるかどうかもわからない子供を作ってその子供を捨てるっていうのをさ、ウチって繰り返してんだぜ? 母さん達の母親も望まなかったのか望まれなかったのか知らないけど、母さん達を手放して。母さんもおじさんも実質子供を手放してるんだよ」

 え?

 千秋?

「いや、母さんはそんなこと」

 振り返ろうとするともたれてくる体重に力がかかる。

「現実だろ? あそこにいる間母さんは僕らを見なかった。この町でも僕らを。ああ、見るようになった分マシなのか?!」

 湿った感触を指に感じる。

「ゼリー?」

「そっちはジェム。ゼリーはこっち」

 暗いのによくわかるなと思う。

 ああ、

「にゃんこも空も笑顔が甘いんだよなぁ」

「にゃんこって言うな。サツキさんはその呼ばれ方、嫌ってたんだから」

 拗ねた声に小さく笑う。

「なら、早くお前が告って付き合えてたらさ」

「んん?」

「未来の妹って呼んで可愛がってやったのにな」

「それで振られてたらどうしてくれるのさ!」

 振られてたら?

「千秋による拉致監禁を阻止して感謝される?」

「うわ! ひどい! そこは協力しろよ!」

 ありもしない絵空事に二人で笑ってじゃれる。

「好きってさ、痛いよね。届かなくても、いなくてもとめれない。はじめてさ、しぃより大事で動けなかった。しぃにとって空ねぇはどのくらい大事?」

 どのくらい?

 

「ごめんな。千秋。わかんねぇや」





青空空ちゃん

鍋島サツキちゃん話題にお借りしました。

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