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URONA・あ・らかると  作者: とにあ
五月・六月
38/823

7/1 戸津クリニックの夜

戸津信弘さん視点



ぴんぽん



夜に不釣合いな音が響く。


「はいはい。暁くんいらっしゃーい」

「どうも。信弘のぶひろさん。信常のぶつねさんにはお世話になってます」

「あ~。暁くんに礼儀正しくされるとなんの嫌がらせかって思うねー」

「それなりに大人になったんですよ。信弘さんに海に突き落とされた中学時代とは違うんですよ」

「あ、あれは思い詰めて飛び込むんじゃないかと思って!」

「突き落としたんですか」

「ちっがーう」

差し出された袋を受け取ると中身は酒とビール、タッパーがいくつか。

「まぁ、入って、上上。さっさと上がって」


「信弘さん、千秋は?」

「煮詰まってたかな。爺さんいわく暁くんのあの頃よりまだ傷は浅そうだと」

「人それぞれなので一概には言えないですねぇ」

「確かに。悩む背景は?」

「あの子達もポイントは父親。そんなところで繰り返さなくてもとは思います」

「ぇー。暁くんの場合おかーさんだろ?」

「両親っていうのはいやでも関わるんですよ」


日生暁智。知り合ったのは親公認家出プチ旅行中だった暁くんを俺が海に突き落としたというショッキングなファーストインパクトだ。

もうじき20年近い付き合いになる。

あの頃俺は今の千秋君くらいかぁー。時の流れを感じるなぁー。


「何泣いてるんです? 信弘さん」

「な、泣いてないぞ」


「ぁ。おじさん」

「ん。着替えと、明日の学校の準備な。今日は信常さんの善意に甘えさせてもらうといい」

「おじさんは、僕らの父親のコト知ってるの?」

「会った事はないが、情報は知ってる。鎮と千秋二人揃ってる時か、聞きたいか聞きたくないかを確認した上でないとネタばれはしないけどね」

「おー。あきちゃん、きたかー」

「酒もってきたから飲みましょー」

「サマンサちゃんは元気かー」

「元気ですよー」




「ああやって、家のじじいのトコにたまに酒とつまみを持ってきてくれるんだ。飲み会になると長船んトコのじじいとかも来たりする」

「おじさん、体力化け物?」

思わず噴出したら暁くんが不思議そうにこちらを見て首をかしげていた。

「まぁ、暇なんだろうさ」

知る限り暁くんはやりたいことなりたいものの多い少年だった。

料理人にもなりたいといって料理修行に励んだり、アクション俳優になりたいと言ってワイヤーアクションのテクニックや何やらを練習してみたり。カッコいいという理由でガラス加工や金属加工、裁縫に手を出してみたり。

いや、うん。お前何したいんだってぐらいに多方面に手を出している。

俺が把握していないものももちろんありそうだ。

そんなやつが今主夫プラスアルファの状況ならかなり暇なんじゃないかと思う。


「ぼくらのせい?」

千秋君が見当違いを呟く。

「違うだろ」

「奥さんのためだろう? 愛してるっぽいからなー。イイなー。爆発しろー」

「若先生は知ってるんですか?」

「なにを?」

「僕らの親のこと」

「んー、暁くんがお父さんのつもりで接してるのは知ってるな」

暁くんは血のつながりは気にしていない。

そのことで悩んで結論を出した。そんな過去があるからそのことでは気にしないだろうことを知っている。

数少ない答えられること。



年下ばかり相手がいて悲しい戸津先生


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