2/2 夜のひととき
ぽふぽふと撫でられる。
振り払おうとして抱きしめられる。
薄い色彩が離れない。
「お話ししようか?」
自室ではない空き部屋のひとつ。
部屋の中にはいろんな楽器。
「話すことなんかないよ」
反抗する。
「ダメだよ。お話ししよう。知りたいから、ね」
小さく囁かれる。
触れられる髪や背中。
視線を外しにくいように顔を撫でられる。
「眠れてる?」
「寝てるよ」
ゼリーとジェムと芹香。みっつも暖かい塊がそばで寝てるし。
「シーと一緒に寝てる?」
何言い出すの?
寝てるわけないじゃん!
いくつだと思ってるんだよ。
それとも、あいつのケアをしろって言いたいわけ?
「チアキは、シーにとって特別なんだよ? もちろん、私にとってもね。チアキは私のものだからね。こわがらなくていいんだよ」
優しく甘く耳元で囁かれる。
「誰がいらないって言ってもどんなにダメでもちゃんと私のものだよ?」
「ダメ前提かよ」
「どんなチアキでも構わないんだよね。チアキはチアキで私のものだよ?」
同じ事を鎮にも言うクセに。
「チアキはキレイだよ。好きなように動くといい。傷ついて構わない。そしていつでも戻っておいで。私はチアキを愛しているよ」
抱きしめて、上から降ってくるのはキスと囁き。
いま、この時は僕にだけ。
「誰でもいいクセに」
悪態が口をつく。
「シーとチアキは私のものだよ? 他に私のものだなんて言えるものはないよ?」
わからないとばかりに囁かれる。
「距離があったってね、変わらず、私のものだよ?」
会えなくとも変わらないという囁きは甘い毒だと思う。
「さぁ、隠し事はダメだよね。他にどんな嘘や隠し事だって構わない。そう、私を満足させれる言葉を紡げるのなら確かに真実にはこだわらないよ?」
甘い毒は中毒性がある。
長く離れていたのに囁かれる毒はたやすく思考を奪う。
甘く降るキス。
無条件の許容。
逆らい続けることができない。
隆維がじゃれて使った「まま」
すっごくしっくりきて驚いた。
「私のもの」そう言って守ってくれた。
「私がお前たちをもらったんだから。魔女がくれたんだから。私のものだ。誰にもあげない」
小さな頃からの呪文。
誰かに貸し出されることはあったけど、それすら本当に不満そうで。
そのあとはだいたい一緒にお風呂に入ってそのまま一緒に寝ていた。
「私のものだよ」
これは今の声。
ヒトとして見られてないと感じる言葉。
彼はその表し方しか知らない。
彼は僕たちが離れた後もそこにいた。
僕は優しくキスを落とし愛してくれる彼しか知らない。
彼処に来る人たちは僕らの髪と目を見て
「罪の赤・嫉妬の緑穢れの子供」
そう言って嗤う。
僕らは存在しちゃいけないの?
シーはそんな相手でも気にすることなくご挨拶のキスをする。
僕にはできない。
僕が悪い子だから?
「チアキ?」
「好きに。女の子を好きになったんだ。告白もできなくて、見てるだけですごく幸せだったんだ……」
もう、彼女には会えないんだ。
「彼女が欲しかったんだ」
それでも
もう
「彼女を傷つけるものは何もないんだ」
愛してる。
忘れることはない。
他はいらない。
だから大丈夫。
「ランバート。どうして、来たの?」
理由もなく、ここにいるとは思えない。




