1/16 みちつき
「どーしたのぉ」
ふらりと夕暮れの道を上がって来たのは巳月さん。
「だって隆維が!」
「あらあらぁ。おねーさんそれだけじゃわからないかなー」
ぽんぽんと優しく背中を叩かれ、帰りましょうとばかりに背を押される。
「それでぇ?」
「隆維が、朝熱があって休んだ日にふらふらしたり、あいつ、浜ぐらいならいいって思ってるんだ。絶対!」
「あらぁ、困るわねぇ」
「うん。パジャマにパーカーとかでうろついてるのが想像つくもん!」
「それはダメね。風邪ひいちゃうわねぇ。でも、良かったわねぇ」
「何が? 全然良くないよ!」
「怒っても大丈夫になったんでしょ? 泣いて引き留めるだけじゃなくて怒っても大丈夫になったんでしょ?
拒否したらいなくなるような感覚がなくなったんでしょ?」
立て続けに言われて、反応が止まる。
巳月さんを見るとにこりと笑っている。
「よかったわね」
「……うん」
ぽんっと肩を叩かれる。
「ふふ。大丈夫。怖くないわ。ね?」
そこからはうちが見えなかった。
磯も浜辺も隆維が落ちちゃダメだから近づかなかった。
だから、この場所が何処かわからなかった。
「巳月さん?」
雲間から月が見える。
「ふふ。今日は素敵な夜だと思うわ。りょーちゃん」
耳元で囁かれる言葉は聞き取れない。
「新しい年のはじめの満ち月よ。ステキな夜なの」
ーーー道がひらくのーーー
「目が覚めたか?」
「とーさん?」
俺、どうしたんだろう?
「まったく。資材置き場で寝てるんだから驚くだろう? 隆維と喧嘩でもしたのか?」
「うん。隆維が酷いんだよ」
「そうか。でもな、心配してたから部屋に戻ってやれ」
父さんの手が頭を撫でる。
見上げた手首から覗く目と目があった気がした。




