1/16 お説教の後。
「おかえりー。あと、あげるー」
ばふっと抱きついてきて今日は頬にキス。
ランバート兄は相変わらずだ。
あげると渡されたのは一冊のノート。
「一緒の時間が短いのがせつないー」
「あー。お仕事いってらっしゃい。あんま、有坂いじめてやんなよー」
「いじめてないよ? ばれるようなやり方をするってことは注意をされたいんだと思うんだよねぇ。されたくなければルール違反はばれないようにやらなくちゃ。こうなれば失恋の痛みを忘れるためにも誠心誠意向き合おうと思う!」
力をこめてそう、宣言する。
「日本語、上手だよな」
「シーとチアキが暮らすことになった国の言語だしね。当然だよ当然。ただ、まだあんまり読み書きは自信ないんだけどねー」
努力してくれたんだろうなと思う。元々ランバート兄は好きなことを少しずつどれもコレも完成の一歩手前でやめてしまう。ルールを破る方法もルールを守る必要性も兄さんの中で独自の発展を遂げていそうだ。
それとも変わったのか、子供の時には見えないこともあっただろうし、わからない。好意を寄せてくれてるのはわかってるからいいんだけど。
「さっさと出かけろよ!」
俺の背後からの千秋の声。
するりと腕が解かれる。
「チアキおかえりー。ジェラシー?」
「ないよ!」
「あんまり大きな声をあげるとパピィが怯えちゃうよ?」
やんわり注意されて慌てて仔犬たちに意識を向ける。
「いってきます」
そんな玄関先での会話を終えて出かけるランバート兄を見送る。
最近日常に組み込まれつつある状況だ。
キッチンで、隆維が涼維にすがって泣いていた。
と言ってもこれも最近よくある光景ではある。
少し減ってきてたのは確かだけど。
「自業自得じゃん」と少しむくれた涼維が言ってぴぃぴぃ隆維が泣いている。
「どうしたんだー?」
上着を脱いで手を洗いながら尋ねる。
「ランバートさんに体調が悪かったのに薄着でうろつくなって内容で叱られたみたい」
「涼維、も、心配?」
「あたりまえでしょ! 何バカなこと言ってるの!?」
不思議そうに尋ねられてむぅとする涼維。
「んー。大丈夫、だよ?」
「それは熱出して休むことがなくなったら言っていいと思うよ! 怒るよ?」
涼維のいらついた声。というかさ。怒ってるよな?
でも、確かに何について大丈夫なんだとツッコミを入れたくなる。
「そのくらいならいなくならないから大丈夫でしょ?」
泣き止んでけろりとした口調。怒る涼維をなだめるように擦り寄る。イメージは「ほら大丈夫」って感じ。
あ。
まずい気がする。
「り、隆維の馬鹿!」
涼維が軽く隆維を突き放す。
状況にお互いがきょとりと目を瞬かせる。
ふと隆維が俺が置いた荷物を見た。そこにあるのは一冊のノート。
「……なんでこれがココにあるの?」
「ランバート兄に貰った。書き損じはなかったぞー。初回でランバート兄の書き取り説教クリアするのはすごいぞー。千秋も大体やられるときはノート二冊はいくからな」
「鎮兄は?」
「俺? 俺はやったことないなー」
少し黙った後、隆維が「ふぅん」と呟く。
たださ、今はさぁ。
「……。隆維の、ばかぁあ」
「え? 涼維? なんで泣くの?」
「弟に心配かけて泣かせました。でもう一冊作ってみる?」
途端表情を歪める。
かなり嫌だったんだな。
「しない。でも涼維が嫌な思いした分なら書いてもいい」




