1/10 第三者楽園を見る
うちのチームが泊まるコテージのそば。
少し行った先に戸津先輩が使うコテージがあり、今夜はそこで夕食を一緒に食べさせてもらう話がついている。
車が入っていく。
今日は雨で冷える。
ドアの開閉は少ないほうがいいだろうと急ぐ。
運転席から降りた人物が、思わぬ行動をとった。
ばん!!
力いっぱい閉められた車のドア。
彼女はじっと車の中を見ていた。
小さく肩が動く。
「ついたぞー。ダッシュでダンボール運べい。濡らすんじゃねーぞぉ」
吐き出される明るくコミカルな口調。
さっき、車内をじっと見ていた空気はもうない。
車内で動く影が見えた。
「こんばんはー。お手伝いしますよー」
気軽に声をかけてみた。
車を挟んで傘をさす彼女と視線が合う。
驚いたように見開かれた目がすっと細くなる。
「誰?」
警戒に満ちた声が返ってきた。
そ、そんなにあやしいかな?
「戸津先輩の後輩で恋詩ヶ崎で動物病院勤務の猪口といいます」
名乗っておく。
「隼子ちゃん、ノブ兄んトコに時々手伝いに来てくれてる先生だよ。本、湿気んの嫌だし、手伝ってもらおーよ」
助手席が開いてフォローが入った。
彼の言葉に彼女は気持ちよく頷く。
「とりあえず、二箱だからー。ヤロー二人でよろしくっ。車なおしてくるわー」
するりと車内の戻る彼女に呼ばれたのか彼は軽く体をかがめて何かを聞いている。
「うん。オッケー。お任せあれー」
彼は軽く明るい口調でそう彼女に告げると、こっちを振り向いて、ダンボールを差し出す。
「にーちゃんよろしくー」
「ああ」
受け取って建物の方へと走る。
本はやはり重かった。
「そっち置いてー。後やっとくしー」
先輩の病院で時々見かけてた少年だった。
確か鎮君。
「おーきたかー」
「先輩、お言葉に甘えて晩御飯食べにきましたー」
「おう。こっちだ。海ちゃん、今回手伝いに来てもらってる。絶品料理の腕の持ち主だ」
促されるままついて行って紹介されたのは元気良く跳ねる黒髪の女性。
「猪口です。よろしくアミさん」
「よろしく」
いたずらずきっぽい笑顔でにやりと挨拶するアミさん。
「夕飯楽しみにしてますね」
「任せときな」
自信たっぷりに笑う姿に夕食が楽しみになった。
「いらっしゃい。猪口先生」
「宇美さん。昼間にチビちゃんたち連れてきておきましたが落ち着いてましたか?」
「ええ。ありがとうございます。一番重要なお見合いは無事に」
にこやかな様子にやはりときめくものがある。
「じゃあ、ちょっと見てくるよ」
先輩がチビちゃん達がいるらしい部屋に向かう。
宇美さんの視線に気がついてないかのような動きが気になる。
「姪っ子さんがいるから」
ポツリと宇美さんのつぶやき。それで告りスルーはあんまりだと思うんだけどなぁ。
「こっち、海もうじきできるんでしょ?」
「おうよ」
「手を洗ってきましょう」
ココはどこの楽園だ!?
十代前半から二十代前半の女性陣。
ちょっと反抗期な尋歌ちゃん。
そそと恥じらう姿が愛らしいソラちゃん。
一癖二癖ありそうなアミさん。
どこか不思議系のジュンコちゃん。
そしてクールで優しい宇美さん。
ツンデレ姫深窓令嬢悪戯猫お転婆女王様。
なんてパラダイス。
あと、ゴージャスニャンコにお転婆パピィもいてこれ以上の楽園はどこにあるというのか?
いや存在するはずがない。
「……海ねぇも来てたんだ」
お転婆パピィを抱えた赤毛。元旦にもあっている鎮君の双子の弟で千秋君。お転婆パピィたちを家族にするという高校生。
誰かが説明的解説を入れる前に、隼子ちゃんが割って入る。
「空ちゃーん、玄関そばの部屋にいる奴呼んで来てー。ごはーん。お腹空いたぞーォ」
はぁいと頷いてそちらに行くソラちゃんを見送る。
「驚くかなぁ」
「驚くだろーなぁ」
隼子ちゃんとアミさんは顔を見合わせて、にししと笑う。
「アイツ、読み始めると意識が周囲に向かないんだよねー。すんなり出てくるといいんだけどなー。ばんごはーん」
結果はといえば、あんまり間を開けず夕食になった。
なぜかソラちゃんは少し恥ずかしそうに頬を染めていたし、鎮君の方もどこか対応に困ったようなぎこちなさを伴っていた。
リア充って奴か?
青空海さん空ちゃんお借りしております




