6/22 リア充になりたい戸津先生の深夜診療
「のぶ。久しぶり〜」
「茜? うろなに帰ってきてたのか?」
「こないだね。父さんが入院してるって母さんから連絡きてねー。ヒマしてたし、しかたないから帰ってきたんだー。で、彼女いない歴更新中?」
「だーまーれー。おじさん大事ないか?」
「飲み過ぎっぽいわー。ばっかよねー」
「茜」
「アパートから出れるようにって一軒家とか手配してあげたのにさー」
「茜。呑んでるのか?」
「飲んでないわよ〜。 しっつれいねー」
「久島のおばさんに来てもらうか?」
「いらないー。あたしってそんなダメな女かなー?」
「今はくだを巻くダメな女だな」
「うまくやったとおもってたのよぅ」
「なにをだよ」
「金持ちの男捕まえたってっさー」
「はぁ? やっぱお前酔ってるだろ?」
「呑んでないって言ってるでしょ」
「はいはい」
「五年。五年も奥様してたのにあっさりポイよぉ。しんじらんなーい」
「お前がそのノリだったら信じられるよ。捨てられる捨てられる。金目当てっぽすぎるわ」
「ひどーい。のぶのクセにー」
「いや、理由になってねぇよ」
「親権も向こうに取られるしさー。面会する機会は年に14回程度って多いようで、向こうの予定を考えてってなると実際の面会日は少なくなるんですってー。会ってないけどー」
「子供いるのかよ。面会日の算出はどこから?」
「私があの子が生まれてからこっちあの子に関わった日数ー」
「すくなっ! お前最悪だな!」
「だって先妻の子供達と私、折り合い悪かったんだもん。仕方ないじゃなーい」
「だもんじゃねーよ。おじさんたちソレしってんのかよ!」
「知ってるわけないじゃない。結婚したコトだって黙ってたわよ。っていうか怒鳴らないでよね」
「悪かったよ。でもさ、お前。かなり最低最悪な娘で母親だぞ? そこは悔い改めた方がいいと思うぞ」
「何様? のぶにはわからないよ。あたしはねー。楽に楽しく生きたいの。生活に困ってあくせくするのはいやなの。嫌な事はしたくないの」
「茜。それ無理だぞ。そんなんじゃ楽しいこと見つからないぞ?」
「説教を聞きにきたんじゃないんだけど?」
「とにかくさ、しばらくはおとなしい孝行娘やっとけよ。茶番でもおじさんたちも付き合ってくれるさ」
「しらない! のぶの馬鹿。しばらくこないからっ!」
「信じられねぇ。あれで俺と同じ年齢かよ」
薄いドアが開く。
「すいませんねー。平山さん」
「いいえ。盗み聞いたことになって申し訳ないです。もちろん、聞いたことは黙っておきますのでご安心を」
戸津先生がへらりとした笑顔で対応してくれる。
「きっと、先生に叱られにいらっしゃったんでしょうね」
素直にそう思う。
ああいう対応をしてもらえれば頭も冷える。
「えー。きっと八つ当たりに罵りに来ただけですよー。えっと、打撲と衰弱。虐待後の遺棄。最近の暑さで脱水症状を起こしかけてましたね。平山さんが発見してなければそのまま死亡か、うまく生き延びても野犬化、保健所行き。人間嫌いになっている率が高いので処分の可能性が高いでしょうね」
さらりと話題が切り替わる。
「処分ですか」
「飼い主が見つからなければこのままでも可能性はありますね」
痩せ細った仔犬を撫でながら戸津先生は静かに告げる。
「いま、この子は生き抜けますか?」
先生が顔を私に向けてくる。
「助けます。この子は今生きようとしています。それを助けるためにいるんですよ」
真剣な表情で力強く宣言する。
こんなところがさっきの茜さんにしろ、宇美さんにしろ好意を寄せるポイントなのだろうとは思う。
ただ本人が気がついていない。
梨沙さんが言うように『本当に残念』な人である。
「夜遅くの連絡にもかかわらず、対応してくださったことを感謝いたします。うろなの家では時雨さんとタヌキさんがおられますから飼えるかどうかわかりませんが、本家の方ならお願いして置いて頂けるはずですので私が責任を持って引き取らせていただきます」
「うろなの家で飼えないようでしたらあまり、引き渡したくないですね」
渋い表情で戸津先生が言ってくる。
「トラウマを負った生き物はその傷を埋めるだけの愛情が必要になります。愛情は時間と手間忍耐が必要になります。平山さんが側にいるのならこの子が求めるものを与えられると信じています。違う場所におくという事は、この子にもう一度捨てられるということを経験させることになるんですよ」
先生がひとつ息を吐く。
「どうか、堂島さんと話し合ってみてください。もっともしばらく入院ですからねー。時雨くんとタヌキちゃん連れてお見合いさせてみたらどうですか? 柊子ちゃんなら受け入れOKでしょ?」
いつの間に人んちのお嬢様を気楽に呼ぶように……
「そうですね。今日は失礼いたします。夜分遅くまで申し訳ありませんでした。この子のことをお願いいたします」
「はい。お願いされました。もう日付も変わりますし、気をつけて帰ってくださいね。平山さん」
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