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URONA・あ・らかると  作者: とにあ
2014年一月
332/823

1/1 新年早々逃亡計画。

 苛立たしかった。

 飛び出した芹香も、その後の短時間の涼維との会話も。

 砂を軽く蹴散らして歩く。

 鳥が多く見えたから、そのポイントに向かった。

 ただの好奇心。ストラップに付けたリングが澄んだ音をたてた気がして何と無く見た方向に群れていた鳥。

 最近、時々見る光景だけど、今日は思ったより近そうで。

 どうせ芹香は鎮がうまく見つけるだろうし。そう思ってそっちに向かった。

 そうしたら、どういうわけか居た。

 確か『フィル』くん。芹香が彼に泣きついているところだった。

 聞き取りにくい泣きながらの言葉。

 聞こえてくる言葉を組み合わせて状況心境を組み立てれば、それってさ、ほんっとーに。

 ばかじゃないの?

 鎮にしろ、芹香にしろ、つまんないことでうだうだするよなと思う。しかもかなりズルズルと。

 ちゃんと、芹香のことはそれなりにいれてるつもりだったのにな。

 通じてないのは残念かなぁ。

 かっこうの例えってさ。鎮が聞いたら絶対落ち込む。俺たちと何が違うんだよって感じ?

 バカだなぁ。ウザいなぁ。芹香、ちょっと馬鹿かもって思ってたけど本格的に馬鹿だったなぁ。まだ、ちびっこだからかなぁ。

 でもきっとこの感想を誰かに聞かれたら、お前が言うなって言われる気がしてそれもまためんどうでウザい。

 それにしても芹香も、鎮の方が好きなんだな。

 みあやのあに取られたようで悔しかったのか。あの二人は無条件に鎮が甘やかしてくれることをちゃんとわかってる。空ねぇのことも応援しつつどこか複雑ってとこかなぁ。

 素直に『私のお兄ちゃんとっちゃいや』ってやればいいのに……。無理か。

 芹香のことは泣かそうなんて思って無かったんだけどなぁ。泣いちゃって甘えちゃったからってそこで崩れるタイプじゃないとは思うけどさ。

 ホントばっかじゃないの?


 平気だと、大丈夫だと思ってたのにな。

 そう、思っていたのはなんなんだろうなぁ。

 ホント、言ってくれなきゃわかんないよねぇ。

 基本自分のことでいっぱいいっぱいなんだからさ。


 三連リングのストラップが小さく音をたてる。ただ小さなその音は波の音に消えてしまうくらい。

 赤とオレンジ、真ん中にすっきり冷たい銀。

 毛糸のたわしに絡まっていたリング。色は明るくてやわらかい。

 リングを握りこむ。

 ああ、本当にばかだなぁ。


「本気でバカだな」

 二人の様子は淡い色彩だ。

 フィル君の白髪に芹香のプラチナブロンド、並ぶ姿はぱっと見には小さな白い恋人同士だ。

 こっちをみた明るい黄緑の瞳が瞬間驚きに見開かれ、かけられた言葉を認識して即座に剣呑な棘のあるものに変わる。

 それはいいとして、泣いたあとの顔はやっぱり、そう、

「ぶさいく。みっともないなぁ」

 ふるふると芹香の手が震えている。

「な、バカって言うほうがバカなのよ!!」

 びしりと指を突きつけてくる芹香。ほんとに何度言ったらわかるんだろう。

「人を指差しちゃダメだって何度も言ってるだろう?」

 指先赤いなぁ。上着を着ずに飛び出したりするから。

「なによ。けっきょく家族って思ってくれてないんでしょう! 私の、こと……」

「それ、鎮に言ってみれば?」

 本気で落ち込むこと請け合いだ。

 想像がついたのか黙り込む。それともうまく通じてないかな?

「いっとくけど、あの時の鎮の家出理由は芹香のことなんか関係ないらしいからね」


 驚いたらしい表情を見つめる。

「自意識過剰?」

 そう笑うと睨んでくる。

「言わなきゃわかんないんだろう? でもね、全部知ったからって何かできるわけじゃないんだよ? 言ったからって全てが伝わるわけでもないしね」

「でも!」

「それでこじれることもあるんだよ。うちはその傾向が強いと思うよ。本当(マジ)で」

 一呼吸入れてまっすぐに困惑に揺れるその目を見る。

「それに、芹香はちっこいしね。つまんないことは気にしなくていいと思うな」

「つまんなくないわ!」

 一瞬きして否定する。

「つまんないことだよ。芹香が見る必要のないことだよ? 芹香はそのままがいいな。どーしようもないことを悩んだって答えは出ないんだし、成果の出ないことでぐだぐだ悩んだってバカらしいよね?」

「つまんなくないわよ。なんとかしたいって思うのは間違ってないもの!」

「そうだね。……でも、芹香が今止まってるのは終わってしまったことだよね。それは、どうやっても変わらないよ?」

 眼差しから棘が消える。

「なんにもできないの?」

「あのね、芹香。ちゃんと、好きだからね。ほら、バカな子ほどかわいいって言うだろう?」

「な! 何よ! 受け取り拒否されたくせに!!」



 う、うけとりきょひ……。



 こっちにダメージを与えたことを確信したのか余裕が見える。

「タダであげるって言ったのに断られたわけだし、その性格の悪さを思えば、おねーさんの判断は正しかったってことよね!」

 びしりと指を突きつけて、言葉をなお綴るセリカ

「お祭りでも誘えないし、好きなくせにうだついてヘタレてて告白すらできなかったんだし! 受け取り拒否されてるし!」

 ごめん、ちょっとマジ怒りそうなんだけどどうしよう?

 あと、ダメージはんぱない。うけとりきょひを繰り返すな。



「千秋兄のばかーー!」



 ひ、ひっぱたいていいかなぁ。

 駆け出した芹香を見送りつつ頭を振る。最低限頭は冷えたろうし、落ち着いただろう。たぶん。

「フィルくん、だったよね。止めておいてくれてありがとう」

 少しばかり行き場のない怒りには駆られるけれど、その程度だ。

 後は鎮に任せておけばいいだろう。

 空ねぇとのデートがある?

 俺は芹香がこれから泣きつく先が青空家の気がするので、迅速に逃亡計画を立てて、かつ実行することを考えるべきだから忙しい。

「お、おう」

「それじゃあ、今度ちゃんとお礼を言うように芹香に言いきかせておくから。じゃあ向かった方向は秘密でよろしく」

フィル君ほんのりお借りしました。

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