12/7 お話し合いといきましょう。
「千秋兄ー」
夕食後何気無く隆維が横に座ってきた。
「なに?」
「今日は二連戦お疲れ様ー」
表情が厳しくなったと思う。
「何か言いたいことでもあるの?」
上目遣いに覗き込んでくる隆維が満足そうに笑う。
「うん!」
「売ったの、お前らだよね?」
「うん。そうだよ」
小さな声でそれ以前に暴露かけてたんだろとつぶやいたのが聞こえる。
「興味、ないと思ってたけど?」
「えー。そう見えてたぁ?」
ソファーの上で足をぶらぶらさせて楽しげに言う。
「興味ないんじゃなくてさ、それが千秋兄の『好き』のあり方ならって尊重してただけだよ? 俺と涼維はね」
隆維がゆっくりした動きで首を傾げる。
「千秋兄だってさ、きっちり事実問題が発覚するまで、尊重しててくれたろ?」
は?
なにを?
発言の内容が理解できなくてまじまじ見てしまう。
「海で意識を失うことも涼維のパニック症状も何も言わないでいてくれたでしょ?」
それは放置だと思う。それに気がついてたのは涼維のパニック症状だけだった。
「でもさ、もし、考えれるんならでいーと思うけどさ、感覚の欠落はあとで戻った時、その期間に応じてキツイよ? コレは経験者からの忠告。あとさー、八つ当たりするんならさ、鎮兄だけにしねぇ? 流石に妹にあたられてたら、黙ってらんないしさぁ」
「つまり、妹たちに害がなければ放置してくれるんだ」
要約するとそういうことかな? 本命そっちだよね?
「人間、本気で誰かに惚れて行動する時は思いも掛けない状況も引き起こすもんだろー、だから、父さんもよっぽどじゃなきゃ何かを言ってきたりしないよ。そんな資格ないし」
「資格?」
隆維が困ったように笑う。
「うわー。千秋兄の無関心が寂しい、のかな?」
ねぇと言われてもわからない。
「愛情とかさ、『好き』っとかてさ、時にこわいんだよ? 父さんが海難事故で行方不明になったことは知ってるよね?」
一緒に住むようになってちらりと聞いた。
青い瞳から何かが消える。
「海で失われた物を取り戻すおまじない。
『あの人と同じ血を引くこの子と引き替えて返して』
暴れちゃいけなかったのはわかったよ?」
たぶんふたつになる前くらいかなと聞こえる。
「そこからさ、ほんとうに痛いとかイヤだとか、わかんなくなったんだと思う。でもさ、涼維が嫌な思いをするのは嫌だったかなぁ。あそこで俺だけを本当に必要って思ってくれてたのは涼維だから」
周りにいるのは母さんの親族だったしね。小さな呟き。
「本当にさ、『好き』ってこわいと思う。でも優しくも幸せにもなるには必要ココロなんだよね」
笑顔でじっと見上げられる。
隆維が今平然と口にしている言葉が理解できない。
「惚れた相手とどんなプレイしてても、本人がそれを幸せの形だって言うんならいいと思うんだ。尊重する。……問題はね、あると思うけど。家族は大事だし。ねぇ」
小さな声で付け足されるのは相手の生死なんて些細なものだよねというコメント。
「え?」
「反論コメントないの? しゃべりっぱなしで疲れたんだけど?」
は?
何理不尽な発言を。
ふてくされて足を揺らす隆維がぽふっともたれてくる。
「ほんとにさ、訳わかんなくてきついんだ。あとさ、千秋兄が自己中なのは知ってるし、大事なのはさ、これからの対策と対応でしょ?」
なんだか、どこかで聞いたようなセリフをかけられた気がする。
って、
「熱あるじゃないか!」
「うにゅー。あっつーい。ちあきあにのこえがぶれてるぅうう」
隆維、千秋を混乱に突き落とす?




