12/7 きょうだいげんか
「おにーちゃん?」
シールがこっちの部屋にあったと思って戻ってきたら、お兄ちゃんが壁にもたれて座っていた。
きょろりと見回しても他に誰もいない。
渚ねぇもむこうに来てたっけ?
「おにーちゃん、しんどいの?」
ゆっくりとお兄ちゃんが顔を上げる。
もつれのないさらりとした赤毛が揺れる。
去年みたいに黒く染めてるよりこっちのほうが好きだ。
深い緑色が私を見てる。
でも、見ていない。
「おにーちゃん、だいじょうぶ?」
手を伸ばすとふわりと笑顔を向けられた。
こわい。
「芹香が気にするようなことじゃないよ」
穏やかに告げられて、差し出した手が行き場をなくす。
「おにーちゃんのことだもん。気になるに決まってるでしょ!」
声をあげて、もう一度手を差し伸べなおす。
くすり
千秋兄のこぼした笑いに思考が飛びそうになる。
「セリのおにいさんは両方ともそばにいないものね」
やわらかな拒絶。
「いるもん。二人ともそばにいるもん。鎮兄も千秋兄もそばにいるもん」
私の反射的な対応に一回、目を見開いてからくすくすと笑う。
だから私も手を引く。
「内側には入れないのに?」
優しく静かに囁かれる言葉。
一つ二つ息を吐いて整える。
まっすぐに見据える。
「みっともないわ」
声を荒げないように、明瞭に。
「弱いんなら弱いなりに振舞えばいいのよ。好きなだけ同情を引けばいいでしょう?」
気がつくべきだ。
無意識で攻撃をしてくるのは少なからず、内側に、入れてくれてるから。千秋おにいちゃんはちゃんと芹香のことを内側に入れてくれてるんだよ?
届かないなら届かないでいい。
瞳の中にちらりと苛立ちの棘が見える。
「おにいちゃんが弱いのは知ってるから。私は八つ当たりていど気にしないわ」
笑顔を作る。
「みっともないことも、弱いのも、悪いことじゃないのよ? でも、みあちゃんや、のあちゃんにソレぶつけたら鎮兄に言いつけるし、グリフ兄に言いつけてアラスカかテキサスのお友達のトコに送ってもらうんだからね!」
ビシリッと指を突きつけ、宣言する。
「人を指差しちゃダメだって。何回言わせるのさ」
ため息混じりの千秋兄の発言。
「知らないわ。おにーちゃんが指差されるような態度なのが悪いのよ。あ、そっかおじさんに何とかしてってお願いしてみるのもいいかも。誰かが言えば動いてくれると思うんだ」
あのね、千秋おにいちゃん、セリカは優しくなんかないからね。
最初に攻撃してきたのはおにいちゃんだからね。
「千秋兄だって、鎮兄の内側には入れないものね。人の内側に入れてもらうのって大変だよね」
視線に棘が増えたことを感じる。
「もしかしたら空ねぇは入れてもらえるのか……」
ふわりと体のバランスが崩れて不思議な浮遊感。
きょとりと見上げるとそういっちゃんがいた。
「芹香ちゃん、言いすぎ」
そう言うそういっちゃんは千秋兄から視線を外さない。
「シールならそこにあるから、行こうか。鈴音に素敵な提案をしてくれてありがとうね」
「え? ぁ? 別にたいしたことはないわ!」
「遅いから心配してるよ」
「え? やだ。戻らなきゃ」
何事もなかったように振舞うそういっちゃんはいつからここにいたんだろうと思う。
ちらりと千秋兄を見ると今は何も見てないようだった。
「あのね、そういっちゃん、内緒よ?」
「兄妹喧嘩?」
「そう、兄妹喧嘩」
あー。でも隆維兄にはばれるかなぁ?
「とりあえず、内緒! べるべるー、シール持ってきたー。って隆維兄おでこ赤いよ?」
渚ちゃん、空ちゃん、お名前だけ出ています。




